ドイツから学ぶ‐日本より1.5倍高生産性の中小企業の秘訣
-
2025.01.31
- 経済産業省が所管する独立行政法人のひとつであり、経済政策研究を目的とした経済産業研究所(RIETI)の岩本晃一氏にドイツの中小企業の強さについてインタビューしました。ドイツは日本と同様で企業数の99.7%が中小企業、製造業を主力産業とし、人口減少・少子高齢化が進行しており、日本と環境が類似しています。
そんな中でも日本の人口2/3であるにもかかわらずGDPは日本を超えました。ドイツの生産性の高さは、真似すべきことが多くあります。
「驚きのサステナグロースカンパニー視察セミナードイツ・デンマーク」開催にあたって特別インタビューとなりました。
「驚きのサステナグロースカンパニー視察セミナードイツ・デンマーク」開催概要はをこちらをご覧ください
独立行政法人経済産業研究所RIETI 岩本晃一氏
独立行政法人経済産業研究所リサーチアソシエイト
アジア太平洋大学次世代事業構想センター客員メンバー
略歴:1981年京都大学卒、1983年京都大学大学院(電気工学第二学科、専門は情報通信工学)修了後、通商産業省(現経済産業省)入省。在上海日本国総領事館領事、産業技術総合研究所つくばセンター次長、内閣官房参事官等を経て、2021年4月から現職。香川県生まれ。著書も多数。
日本の中小企業がドイツから学ぶ3つの理由
先に結論を言いますと、ドイツの中小企業から学ぶ点は
1)日本と類似環境でも生産性が高いこと
2)高くても買いたいと思われる独自性のある商品を作り、海外市場で販売していること
3)産業クラスターを形成し、地方が元気かつ中小企業が強いこと
の3点です。
※産業クラスター:企業、大学、研究機関、自治体などが、地理的に集積し、相互の連携・競争を通じて新たな付加価値(イノベーション)を創出する状態のことです
1)日本と類似環境、生産性の高さについて
ドイツは、日本に比べて、人口が2/3、企業数が2/3の国です。さらに、年間労働時間が2/3しかないのにも関わらず、ドイツの製造業の生産性は日本の1.5倍、時間当たり賃金が1.5倍もあります。昨年にGDPがドイツに抜かれたことも記憶に新しいことかと思います。
日本は円安があったと言えども、ドイツに至ってはウクライナ侵攻関連で戦時下と言っても良いほどの過酷な環境です。ロシアのガス輸入制限によるエネルギー制約、戦争の影響によるインフレは凄まじいため、そのような環境でありながら高い生産性であることは賞賛すべきことです。
実際にドイツに旅行すれば、すぐにわかることですが、日曜日は商店街は全て休みになりますし、コンビニのような24時間営業といった店もなく、日本と比べて経済活動の時間は少ないです。
また、ドイツは中小企業が99.7%、少子高齢化社会、製造業が主力産業と日本と似た環境です。
■ドイツのGDP(自国通貨名目)とその成長率の推移
ドイツは上図のように持続的成長を続けることができています。これは、輸出拡大による経済成長をしているからです。労働生産性が上がり、賃金が増え、就業者数も増えています。 日本とドイツの比較表
2)高くても買いたいと思われる独自性のある商品を作り、海外市場で販売していること
なぜ、ドイツは持続的成長をしているのか。
多くの理由はありますが一言で言えば、中小企業がイノベーションにこだわり、「高くても買いたいと思われる独自性のある商品を開発」し、「世界市場で売る」という基本をドイツ人の真面目で愚直な性格で、忠実に実行しているからです。
ドイツの戦略は素晴らしいと言えるでしょう。「高付加価値・高価格路線の追求」が現在の成果を生んでいます。
日本は、海外で投資を増やして海外生産比率を高めていき、中国等との価格競争に身を投じていきました。結果、国内の投資・賃金・人材育成を抑え、非正規を増やし、生産性が低迷したのです。国内消費が伸びずにデフレが常態化し、負のスパイラルに陥ったと言えるでしょう。
ドイツは、国内生産(made in Germany ブランド)にこだわり、ドイツから世界に向けて輸出する道を選びました。高付加価値・高価格路線の追求をしており、高いお金を払ってでも、どうしても欲しいと言うものを作っています。ベンツやBMW、アウディやポルシェなどが例に挙げれます。海を隔てた中国がある日本と違って、ドイツは陸続きで旧東欧が近隣にあり、企業の海外移転圧力は日本よりも強いのです。地方政府はコストは高くてもドイツで生産した方が儲かるよう必死で企業支援していることも海外移転しない要因になっています。
1990年代に日本が製造業の拠点を人件費の安い国へ移し、経済成長の重心をサービス業に置いたことで国内産業の空洞化を招きましたが、ドイツは国内の技術を保護するなどの政策を採用し、その結果ドイツの製品は一流品質の代名詞になったと言えます。
成功した理由のひとつにイノベーションに対する意識の高さです。その根拠として、自動車メーカーや家電メーカーの新製品発表頻度の高さを挙げることができます。経済発展において、自分たちの得意分野に軸足を置き、行うべきことと、行わないことを明確にすることが重要であることが分かります。
さらに、マイスター制度と呼ばれる高等職業能力資格認定制度が存在し、職人の社会的地位は日本に比べて相対的に高いと言えます。こうした社会制度がドイツ製品の品質を支えています。
3)産業クラスターを形成し、地方が元気かつ中小企業が強いこと
中小企業の存在感があります。国内の全輸出額に占める中小企業の割合は日本では約3%と大企業中心となっていますが、ドイツは約19%と中小企業が躍動しています。さらに、対中国に対する輸出では、日本は単価が下落するなか、ドイツは量を増やしながら単価も上がっています。ドイツは高付加価値・高価格を追及していることが読み取れ、生産性が高い要因となっています。
また、日本と異なり地方で創業した企業が大企業になっても都市部に移動せず、そのまま創業地の地方に本社を構えています。なぜ、ドイツの企業は創業地に留まるのでしょうか。それは、産業クラスターを形成できているからです。
中小企業は1社だけでは弱い存在であるため、自社が不得意とする機能は、他の企業・機関と一緒に組むことで、擬似的に大企業と同等の競争力を得ているのです。
例えば、上図のように、海外情報や海外市場展開は地方行政機関。研究開発は地元の大学や研究所と実施。経済情報入手の調査部機能は、地方政府運営の経済動向セミナー。材料調達は他の地元企業。デザインは他の地元企業。といったようなかたちで、様々な企業や機関と協力提携をしています。
そのため、企業の海外移転圧力は日本よりも強いのにも関わらず、ネットワークが切れないように地元に残っているのです。
ドイツの産業クラスターは、①「新製品開発」、②「海外販路開拓」工程に対する支援、③デジタル化による生産性向上などを実現できているのです。
ドイツから我々日本が学ぶこと
さて、以下の5点が日本の企業の具体的な改善点です。
①独自性があり価格訴求力の高い商品を作る(そのためイノベーションを追求)
②生産性を重視
③様々な企業・機関と提携し中小企業でも大企業並みの力を持つ
④元受け化しており戦略や受注体系の自社で主導権を握る
⑤輸出をして海外市場まで商売を拡げる
日独両国の産業構造に詳しいドイツ人の大半が、「日本の中小企業の技術力はドイツに遜色ない。だが、ドイツの中小企業と比べて決定的に違うのは、国際化していないこと」と声をそろえて言います。調べてみると、日本には国際化できる実力のある中小企業は多いのです。
また、日本の子供の学力が世界中でも非常に高いのですが、社会に出て働くと生産性が低くなってしまっています。潜在的な能力の高さがうかがえます。
■子供の学力×労働生産性
これまでの内容をまとめますと、
・イノベーション・技術開発を追求し、価格訴求力のある商品・サービスを作りましょう。
・自社ができない・苦手なことは政府機関や地域企業と連携して大企業並みの競争力を作りましょう。
・輸出できるようにビジネスを再構築していきましょう。
これらを実施すれば、更なる飛躍ができると思います。 いかがでしょうか。
実際に現地ドイツで、このようなドイツ企業の強さを体感し、学ぶことができる視察セミナーをご用意しております。今回は、日本中から経営に熱心な経営者が集まり、船井総研のトップコンサルタントと共にドイツとデンマークを訪問します。詳細は、コチラよりご確認ください。海外企業の視察に参加することが大きな経営の転換点となり、その後飛躍した企業は多数存在します。ブレイクスルーのきっかけとして活用していただけると幸いです。