10年で売上10倍! 大衆居酒屋「新時代」急成長の裏側に迫る

2026.02.03
大衆居酒屋「新時代」は、過去10年で売上が10倍、店舗数も200を突破し、外食業界で異例の成長を遂げています。運営するファッズを率いるのは、元プロサッカー選手という異色の経歴を持つさのなおし社長。急成長の背景にある、外食の常識を超えた独自の経営戦略に迫ります。

「新時代(溝の口店)」入口。街中でもひときわ目立つ。(筆者撮影)

「伝串50円」「生中190円」ーー夜の繁華街でひと際目立つ「新時代」の白い看板、そして店頭で主張する激安立て看板を目にした人も多いのではないでしょうか。首都圏はもちろん、本社を置く名古屋市の主要駅では、この看板を見かけない場所の方が珍しくなっています。大衆居酒屋チェーン「新時代」を運営するのは、株式会社ファッズ(愛知県名古屋市)。2006年の創業以来、飲食業を軸に事業を展開してきました。同社グループ売上高は過去10年で約10倍へと拡大、2025年7月期には売上300億円に達しています。また、ここ数年の急拡大により店舗数200を突破。その出店スピードは、社内でも正確に把握するのが難しいほどだといいます。

同社を率いるのは、元プロサッカー選手という異色の経歴を持つ、さのなおし社長。高校卒業後に単身ブラジルへ渡り、ブラジルサッカー協会公認のプロサッカー選手として活躍。その後、怪我により帰国。セカンドキャリアとして飲食店経営を選び、数年間の修業を経て2006年に同社を創業します。

株式会社ファッズ代表・さのなおし社長(画像:同社提供)

一時の大衆居酒屋ブームではモンテローザやワタミグループをはじめとする、激安居酒屋が街中に溢れていましたが、今やかつてほどの勢いはありません。そんな中、大衆居酒屋チェーンとして存在感を放つのが「新時代」。急成長の裏側には、外食業の常識では語り切れない、緻密で異例の経営戦略があります。

外食業では異例の「知財戦略」

店に入るとまず目を引くのが、メニュー表に記された多数の商標や特許番号です。一般の来店客にとって必要のない情報ですが、なぜ目を引く場所に表記されているのでしょうか。その理由について、さのなおし社長はこう話します。

「知財を掲げているのは、お客様のためではなくFCオーナーのためです。仕方ないことですが、外食・飲食業は模倣が多い業界です。直営店のみならたいした問題とは感じないのですが、われわれ本部はFCオーナーの人生も守っていく立場にあります。模倣店によって、FC加盟店がお客様からの信頼を失う事は避けたい。他社の模倣からFCオーナーを守るために、私たちはメニューという最も目につきやすい場所で、知財の存在を伝えているのです」

守る対象はレシピだけではありません。看板、店舗レイアウト、そして看板商品「伝串」の盛り付け方に至るまで、経営の根幹に関わるあらゆるものを知的財産として押さえています。

「全国各地の名物料理は、今やどの地域でも簡単に食べられます。外食業においては、模倣が普通のことになっているからです。この状態を『外食業界の発展』と捉える方もいますが、僕はそうは思いません」

模倣が続けば外食業は衰退すると、さのなおし社長は言い切ります。流行った業態が次々に模倣され、類似店が増えていけば必然的に価格競争が生まれます。その結果、利益を確保できなくなり業界全体が衰退していきます。

こうした考えから、同社は知財戦略を徹底しているのだといいます。現在、新時代では35種類、名物の伝串は14種類の知的財産権を保有しており、これらはFCオーナーの経営を守る根幹となっています。

店舗内のポスター。主力商品「伝串」には知財が多く絡むことが強調されている。(筆者撮影)

緻密なメニュー構成で、償却後の利益率25〜35%を確保

「伝串50円」「生中190円」という原価同然の入口商品。その先でどう利益を確保するのか、その鍵はメニュー表の設計、そしてデザインにあります。

メニュー表には、文字の大きさ、写真の配置、フォントや色、枠線の太さに至るまで、視線の動きを誘導する仕掛けが施されているといいます。デザインを手掛けるのは、さのなおし社長自身。

「個別商品の原価率は頭の中に入っているので、全体の利益率が償却後で25%~35%になるように、昔学んだ脳科学の知見を生かして配置を決めています。緻密なパズルのようなものです」

さらに驚くべきは、全国の店舗で各商品の出数構成がほぼ同じになっている点です。また、「新時代」では頻繁に新商品が登場しますが、商品が変わったとしても、全体の出数構成は変わらないよう、さのなおし社長がメニュー表のデザインを都度更新します。ちなみに新商品を考案するのも社長自身で、全体のバランスを見ながら考案します。

緻密な原価率計算、そして購買心理に準じたデザイン構成が同社の強みともいえます。

低価格を実現する努力と、徹底した数値管理

同社の経営における大きなトピックとして、2022年に行った物流改革があります。生産者からの大量仕入れを一本化し、自社物流へ切り替えたのです。中間コストが削減され、全国どの店舗でも原価率を統一する「全国一物一価」を実現しています。

同社の物流システムについては、知財と同じくメニュー表や店内掲示物で明記されています。これにより、加盟店に対して「仕入れで利益を取っていない」ことを説明。「全国一物一価」を取り入れたことで、加盟店との信頼関係はより強固になりました。

メニュー裏、知的財産権の表記と並んで物流の仕組みが紹介されている(提供:株式会社ファッズ)

また、低価格を維持するために重要なのが、徹底した食材ロス管理。全国200以上の全店舗のPLは必ず毎朝さのなおし社長がチェックします。売上や来客数はもちろん、独自システムで理論原価と実際原価の差(ロス)を日次で算出しており、2%を超えれば異常値として調査対象店舗となります。

ロス発生の原因は「調理ミス」「廃棄」などがありますが、その原因を特定して該当部分を改善するよう伝えます。その調査ぶりも徹底しており、過去にはキャベツが仕入れ段階で紛失していた例もあるなど、調査対象は店舗内オペレーションだけでなく物流にまで及びます。

「新時代」の低価格戦略は偶然や無謀なものではなく、こうした地道な経営管理によって実現されています。

理念・ビジョン中心の経営、計画は細かく立てすぎない

21期を迎えた株式会社ファッズが掲げているのが、「1000の街を元気にする」というビジョン。それはつまり、日本各地の活性化です。新店舗を出店することで「お客様の明日への活力」「雇用の創出」「消費の促進」「犯罪の抑止」「納税による地域貢献」の5つのメリットがあり、街全体にエネルギーが生まれるといいます。

このビジョンや企業理念は、行動指針や社名の意味とあわせ、採用段階から徹底して伝えられています。強固に築かれた企業文化は、従業員やFC加盟店に深く浸透しており、その一例といえるのが、新時代のジョッキに書かれた、さのなおし社長時直筆の「金言」です。

「人は楽しいところに集まる」「夢を語ろう」という言葉からは、企業文化を垣間見ることができる(画像:公式HP)

これらの言葉は、来店客だけでなく従業員に対するメッセージでもあります。このように、さまざまな方向から理念・ビジョンに触れる機会が作られています。

また、同社では「1000の街を元気にする」ため、綿密な出店計画を立てているように思いますが、実際にはそうでなく、中期経営計画書も、あえて細かく立てないと言います。

「理念やビジョンをどう実現するかは一切決めていません。計画を立てれば視野が狭まり、チャンスを取り逃がすと考えているからです」

成長力を最大化するため、計画ありきではなく、その時々に必要な意思決定を柔軟に行うための戦略です。計画ではなく理念で動く。そこには「変化の激しい外食市場において、固定化された計画ほど危険なものはない」というさのなおし社長の確信があります。

「いつ雨が降るか、いつ魚が見つかるか分からないのに、計画を立てる方がおかしい。計画に縛られれば“1本の線”しか見えなくなって、時流を読む力を失い、成長の機会を逃します」

象徴的な出来事が、2019年の上場準備を取りやめたエピソードでしょう。

上場へむけての準備は最終段階まで進んでいましたが、さのなおし社長の独断で、急に撤回されます。上場すれば意思決定が多数決となり、良い物件が出ても即時契約とはならず、出店スピードが鈍化してしまう……。「新時代」の急成長はトップダウンの意思決定スピードがあってこそだと判断しての決断でした。

飲食に関わることすべてを事業に

本社社屋は、原点であるブラジルのカラーで彩られている(提供:株式会社ファッズ)

ファッズの成長戦略は、単なる出店拡大では終わりません。見据える次のステージは、「飲食に関わることすべて」を自社グループ内で完結させる、多角化とサプライチェーンの垂直統合です。

WEBデザイン、ユニフォームの制作(アパレル)、人材派遣、建築内装、不動産——すでにいくつかは動き出しており、役員の間では将来的に自前の金融業まで構想に上がっています。

外食企業が金融機関を持つという発想自体が異例ですが、「飲食店運営のすべてを自力で支えたい」というさのなおし社長の哲学からすれば、決して突飛ではありません。

現在推し進めている店舗拡大戦略は、そのままスケールメリットの拡大へつながり、利益率を押し上げる一助となります。外食の常識を超えて、供給網全体を自社で握りにいくーー株式会社ファッズの構想は、急成長の次の波を確実に生み出しつつあります。

会社概要

会社名:株式会社ファッズ
所在地:愛知県名古屋市東区筒井3-27-18
代表者:代表取締役 佐野直史(さのなおし)
設立:2006年5月
従業員数:約9000名(グループ全体)
売上高:300億円(2025年7月)
事業内容:飲食業(居酒屋「新時代」(直営・FC)、居酒屋「新時代44」(直営・FC)、居酒屋「鳥ぶら」(直営・FC)、居酒屋「とんぺら屋」(直営)、タイ政府認定レストラン「スコンター」(直営))