2代目経営者こそ素質あり。「社員の悪口を絶対に言わない社長」が成功するワケ

2025.10.15
なぜ、あの経営者の会社は成長し続けるのか。
十分儲かっているのに、さらに投資を進め、人を集めようとしている原動力は何か。

その答えは、未来へ大胆な投資を続ける「攻めの姿勢」と、決して敵をつくらず信頼を蓄積する「徳」の高さにあります。2つの力を両立させる経営者だけが持つ「視点」とは何でしょうか。

今回は、ベテランコンサルタントの中村好純ディレクターが、過去27年の経験で見つけた経営者の成功法則をお届けします。

     

数多くの経営者と接する中で、成功した経営者が持っていた素質には、大きく分けて2つあります。現状に満足しない「攻めの姿勢」と、敵をつくらず、信頼を蓄積する「徳」の2点です。
一見すると相反するように見えるこの2つの要素を、高いレベルで両立させることが、企業を継続的に成長させる原動力となるのです。

未来を切り拓く、攻めの姿勢

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成功する経営者は、たとえ売上や利益が十分に出ていようとも、攻めの姿勢を決して崩しません。常に現状に満足せず、次のステップを見据えた投資を大胆に、かつ継続的に行っています。

20年以上のお付き合いをしてきたクリニック経営者はまさに「成功した経営者」と言える方です。この方は、とにかく現状に対しクリティカル(批判的)な視点を持っています。

売上・利益ともに個人クリニックのなかではずば抜けている水準です。しかし、昔から口癖のように「世の中は大きく変わっていくのだから、自分たちも変わっていかなきゃだめだ」と言い続けていました。

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最初の攻めは、M&Aによる多角化でした。後継者不足に悩む同業者を、自己資金でグループに迎え入れ、単一のクリニック経営から複数院を統括するグループ経営へと舵を切りました。これにより、盤石な経営基盤を築き上げたのです。

次なる一手は、無料送迎サービスの導入です。これにより、サービスの質を向上させただけでなく、これまで商圏外だった遠方の患者も獲得できるようになり、事業領域を大きく拡大させました。

そして、現在は在宅型の新しい医療サービスの普及を目指し、投資を続けています。

現段階では、収益性の期待しにくいサービスです。しかし、「将来の社会にとって絶対に必要になるサービスになる」という信念で事業を継続しています。

現状に満足せず、社会の変化を先読みし、たとえ今は利益が出なくとも未来への投資を惜しまない。この攻めの姿勢こそが、組織に活気と成長をもたらすのです。

攻めの姿勢は、人を惹きつけます。攻めつづけることで、その志に共感した人材や協力者が、社内外から自然と集まってきます。

信頼こそが最強の武器。敵をつくらない「徳」のパワー

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成功する経営者に共通するもう一つの大きな特徴は、社内にも社外にも、目立った敵をつくらないことです。

これは、単に競合のない独自サービスをつくるという意味でも、スタッフに何の実績も求めない、ぬるま湯経営をするという意味でもありません。

経営者の厳しさを持ちながらも、決して人の心を離さない徳の高さを持つことを指します。

経営者という立場上、従業員に対する不満の一つや二つは出てくるでしょう。しかし、これまでに大きく業績を伸ばしてきた経営者は、オフィスはもちろん、夜のお酒の席でも、スタッフの悪口を言うことはありませんでした。幹部やエースの退職に直面した際も、その人の悪口は言いません。むしろ、「自分に至らない点はなかったか」と自らを省みるのです。

もちろん経営者として、時には厳しいことを言います。しかしそれはあくまで仕事上の役割として、必要に応じた厳しさであり、人格を否定するような言動は決してしません。この線引きが徹底されているのです。

トップが誰のことも悪く言わないとわかっていれば、スタッフの心理的安全性は高まります。経営者を信頼し、安心して仕事に打ち込もうと思えるのです。

外に対しては攻めの姿勢を崩さず、内に向けてはひたすら徳を積み重ねていく。この絶妙なバランスこそが、強固な組織を築き上げるのです。

高い次元の欲求が持続的な成長につながる

経営者が攻めの姿勢であり続け、徳によって敵を作らない生き方を実現するためには、より高い次元の欲求を持つ必要があります。


有名なマズローの欲求5段階説に沿って考えてみましょう。これは心理学に基づいた、生きていく上での欲求の分類です。
①生理的欲求…生きていくために必要な、基本的・本能的な欲求
②安全欲求…安心・安全な暮らしへの欲求
③社会的欲求…集団へ帰属したい欲求
④承認欲求…他人から認められたいと願う欲求
⑤自己実現欲求…あるべき自分になりたい欲求

この説をベースに考えると、「お金を稼ぎたい」は安全欲求。「楽しく仕事をしたい」は社会的欲求。「出世したい、良い家や、車や、ブランド品が欲しい」は承認欲求と言えます。

途中で伸び悩む経営者は、これらの欲求が満たされた段階で守りに入ります。一方で成功する社長は、より高次元の欲求である「自己実現欲求」をモチベーションにします。

自分が何を成し遂げたいか、あるいは社会のために何ができるかを常に考えているため、社会課題の解決や、周囲の幸福といった次元での成功を目指します。だからこそ、会社が持続的に成長するのです。

育ちの良い2代目経営者こそ「攻め」と「徳」が活きる

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自己実現欲求という視点で考えた場合、非常に有利なのが、2代目経営者です。

2代目の多くは、親(創業者)から子への事業承継による就任ではないでしょうか。ややもすれば、世間から「甘やかされて育ったボンボン」などといった偏見の目で見られることもあるでしょう。

その一方、生まれた時から事業基盤が出来上がっていた2代目経営者は、成功を目指す上で非常に大切な素質である「攻めの姿勢」と「徳」の積み重ねを早くから兼ね備えています。

2代目経営者は、様々な欲求が比較的早期に満たされています。ゼロから他人を蹴落とし這い上がる経験も、お金に困る経験も限定的です。

安全欲求が満たされているためお金に執着せず、社会的欲求が満たされているため保身に走らず、承認欲求が満たされているため他人の悪口を言いません。また志の高さが自然と人望を集め、いいツキを呼びます。

「徳」の側面でも、この精神的な余裕はプラスに働きます。基本的な欲求が満たされているため、人を貶める必要はありません。

その精神的な余裕が、自然と視座を高め、「社会をどう良くしていくか」という高次元の欲求へと目を向けさせるのです。結果として自己実現欲求をモチベーションとした「攻めの姿勢」を取りやすくなります。

2代目の経営者は、先代と比較されるプレッシャーや、世間の偏見といった困難があります。しかし、それらをはねのけられる育ちの良さを備えています。

先代が築き上げた環境を活かし、「攻め」と「徳」という二つの武器を磨き上げていくことこそが、事業をさらなる高みへと導くヒントになるでしょう。