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第二創業で伸ばす社長の勝ち筋

2025.07.02
私は、不動産賃貸管理のコンサルティングをするなかで「借金5億円、売上4億円」の厳しい状況から、わずか5年でV字回復を果たした社長に伴走しました。変化の激しい経営環境下で「第二創業」を成長の起爆剤に変えた社長の「勝ち筋」とは。本稿では、後継者不足や市場の寡占化といった課題を乗り越え、会社を劇的に伸ばすためのヒントをお届けします。

第二創業は会社の未来を拓くチャンス

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競争激化、物価高、人口減少など、業界問わず経営環境の変化への対応が求められています。

私がコンサルティングを提供している不動産賃貸業界を例にとると、首都圏都内へのアクセスがよい地域は家賃が上昇傾向にあり、地方は大きく下落。アパート経営の収支が赤字になっているオーナーも多く存在します。

管理会社の側から見ると、大手企業や地域一番店に仕事が集中し、業界の寡占化が進んでいる状況です。

このような状況下でも、業績を伸ばし続ける会社とそうでない会社には、どのような違いがあるのでしょうか。

経営者は船頭であれ

AIで生成

経営において最も重要なのは「明確なビジョン」を持つこと。これは中期経営計画を立てるなど、「何年後にどうなりたいか」を具体的に言語化する作業です。

ビジョンは企業のアイデンティティであり、目指すべき方向性を定める羅針盤となります。夢と同じで、小さすぎないことがポイントです。

「地域一番になりたい」「売上高30億円を達成したい」といった、具体的でチャレンジングな目標を設定し、それを社員へも公言していくことで、社員のモチベーションアップにもつながるでしょう。

経営者自身のビジョンが不明確でブレてしまうと、会社が進むべき方向を見失い、社員も迷子になってしまいます。

現状の課題に圧倒されてビジョンを描き切れない場合は、うまくいっている会社をモデルとして参考にし、「こういう会社を目指したい」というベンチマークを見つけることがおすすめです。

営者は常に船頭として、進むべき方向を示し続ける必要があります。「権限移譲をして、自分がいなくても回るようにしたい」との思いを持たれる方も多いと思いますが、船からは降りないでいただきたいのです。

会社が成長し組織が大きくなった場合も同様。例えばマネージャーが複数人いる場合、考えがバラバラになり、まとめる立場の人がうまく機能しないと組織が崩れていきます。

常に方向性を示し続ける「船頭」である社長(経営者)次第で、会社はガラリと変わってしまうのです。

事業承継成功のコツ

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少子高齢化が加速するなか、2024年の社長の平均年齢は63.59歳に上昇し、過去最高を記録(株式会社東京商工リサーチ調べ)。

さらに、2024年の「後継者難」での倒産は462件。5年連続で過去最多を更新しました。

経営者の世代交代は、会社を変える最大のチャンスです。事業承継を第二創業として成功させるためには、単に引き継ぐのではなく、変革と成長の機会として捉えましょう。

ポイント①「先代からの想いや理念を大切にすること」

理念は企業のアイデンティティであり、目指す方向性です。経営スタイルを先代からそのまま受け継ぐケースと、一新してガラリと変わるケースがありますが、いずれにせよ、ここは崩すことなく引き継いでいただきたい部分です。

理念の浸透は社員育成の第一歩であり、採用時にこの点をしっかりと伝えることで、入社後のミスマッチを減らすことにもつながります。

ポイント②「スムーズな株式の引き継ぎ」

代表権を渡しても、株式を先代が持っている場合、実際の経営権は先代が持っているに等しく、後継者が会社の体質改善をしたくてもできないという事態が起こり得ます。後継者が実質的な経営権を持つよう、スムーズな株式譲渡が不可欠です。

ポイント③「師と友づくり」

後継者の経験が浅い場合でも、目標となる人や会社を見つけたり、学び、実践したりすることで、成長につながります。経営者にとって学びや交流ができる環境は非常に重要です。

株式会社船井総合研究所では、全国から同じ業種・ビジネスモデルの経営者が集う場として、経営研究会を主宰しています。成功事例など、現場でしか得ることのできない一次情報が得られるほか、全国の経営者とコミュニケーションを取れる場であり、実際に自分の目で見て、体験をすることができます。

フォーカスすべきは業績アップ

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事業承継のタイミングでは、必ずしも会社の財務状況がよいとは限りません。私が過去にコンサルティングを担当した賃貸管理会社の話です。

先代から、当時専務だった社長に会社が引き継がれた際に、借金5億円、売上高4億円という苦しい状態でした。

そこから、約5年かけて借金を完済し、会社を立て直すことができました。まず、キャッシュを増やすために、売上改善と経費の圧縮、入居率を上げるための施策を行ないました。

不動産賃貸管理において入居率を上げることは、オーナーからいただける管理費用も増えるため、収入も安定します。

業績を上げた次のステップとして、人への投資(人的資本経営)があります。具体的には、育成、評価、採用、働く環境の整備等。

会社の規模が大きくなってくると、経営者や社長1人がトップ営業マンとして業績をけん引するのではなく、各部門を任せられる部門長などの「人」を育てられている会社が伸びています。

そもそも、原資がなければ、人への投資はできません。だからこそ、はじめに取り組むべきは、業績向上なのです。

これには、既存事業の強化に加えて、時流を読んだ新規事業への参入が効果的でしょう。収益の柱を増やし、時代に合わせたビジネスモデルを取り入れるなどの戦略が必要です。

成功する「考え方のクセ」をつける

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先述の会社が経営を立て直すことができたのは、私がご提案したコンサルティングに対して、素直に聞き入れて忠実に実行していただけたからです。

その方は、驚くくらいに柔軟で素直。武道をやられていたご経験があるからか、とにかく粘り強かったです。苦境に陥っても、突破口を見つけようと、できない理由を並べるのではなく、できる方法を試し続けました。

物事は捉え方によって、ピンチをチャンスに変えることができます。

例えば、中小企業では人材の退職が大きな痛手となりますが、人は入れ替わるものと捉え、「本当にフィットする人材が残ってくれた」「うちで頑張りたいと思っていない人が残られても逆に困る」と受け止めることもできます。

人間の脳はフォーカスしたものをキャッチしようとする性質があり、たとえ起こった出来事は同じでも、捉え方次第で、その後の結果が大きく変わります。

ネガティブな側面に囚われるのではなく、「どうしたらうまくいくか」「うまくいったらどうなるか」というポジティブな側面に焦点を当てるクセづけをしましょう。

一方で、決めたことを「やらない」、あるいは「忙しい」を言い訳にする経営者は伸び悩む傾向があります。

組織が大きくなっても、船頭として船から降りず、社員がついていきたいと思えるような立ち位置に位置づけること、経営者自身が誰よりもビジョンの実現に本気であることが重要です。

事業承継は会社の未来を創るチャンスです。明確なビジョンを掲げ、時には荒波の中を社員という大切な仲間とともに進む船頭として、その羅針盤を示し続けていただきたいです。