AIエージェントは人手不足をどう解消するか?2026年は「デジタル社員」が現場を動かす。
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2025.12.02

- 「人手が足りない」「残業が減らない」「募集をかけても、優秀な人材が採用できない」。これは業界を問わず、多くの経営者が直面する共通の経営課題です。帝国データバンクによると、中小企業の63.4%が人材不足であると回答しています(「令和6年度中小企業の経営課題と事業活動に関する調査」n=24,588)。
2026年には、この「人」を前提とした経営のあり方が、根本的に変わるかもしれません。その鍵を握るのが、急速に存在感を高めているAIエージェントです。
AIエージェントが具体的にどの業務を代行し、経営にどれだけのインパクトをもたらすのか、そして、経営者が2026年に向けて今から実行しておきたいことについて解説します。
「実行するAI」がビジネスの常識を覆す

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まずは基礎的な部分のおさらいです。
これまでのAIは「ナビゲーター」に過ぎませんでした。経営者の壁打ち相手やリサーチ、文章や画像の作成には力を発揮します。しかし、AIに指示を出しても、返ってくるのは文字や画像といった「情報」だけであり、「実行」に至ることはありませんでした。
一方、AIエージェントは「デジタル社員」です。一連の業務の最初から最後まで、手順を考えて、システムに働きかけ、実行してくれます。これまで人力でなければ不可能だった領域が、一気に自動化の対象となったのです。
「デジタル社員」はこう活躍する。AIエージェント事例5選
すでにAIエージェントを搭載した商品開発が進み、提供され始めています。ここでは、船井総合研究所が開発を進めてきたサービスや、展示会「AI・人工知能 EXPO」に出展された製品などから、実例を5つ紹介します。
事例①【不動産業界】「問い合わせ」を「高品質の見込み客」に変えるAIエージェント

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課題
営業部のスタッフが行っていた「資料請求・見学予約への架電」「要望ヒアリング」「アポイント調整」に時間も手間もかかっていた
解決策
チャットボット型のAIエージェントが初期対応を行い、アポイントの日程調整までを自動化
AIエージェントは、これまでAIでは対応が難しかった、複数のツールを横断する定型業務において特に効果を発揮します。
例えば不動産会社では、来店までに「サイト訪問」「物件検索」「会員登録」「電話によるアポイント調整」という複数のステップが必要でした。
しかしAIエージェントを導入することで、「サイト訪問+物件提案+会員登録+アポイント調整」まで一貫して自動化できます。店舗スタッフの架電や案内にかかる業務時間を削減し、来店客の成約率向上に貢献するのです。具体的には以下のようなフローです。
①チャットボットによる顧客接点:ウェブサイトや公式LINEアカウント上に設置されたチャットボットがお客様からニーズを聞き出します。例えばお客様が「渋谷への通勤に便利で、家賃9万円以内の賃貸を探している。日当たりが良くて駅が近く、2口コンロが使える物件を希望」などとチャットを送ることで、AIが物件を提案します。
②AIエージェントによる物件提案:AIエージェントが顧客の要望を理解し、社内のデータベースに基づいて、物件を画像付きでいくつか提案します。「二子玉川駅の××コーポ、吉祥寺駅の〇〇ハイツ、赤羽駅の△△荘などがおすすめです」…さらに会話を通じて、「会員登録すれば詳細な間取りを送ります」「来店予約すれば専門担当者からの案内が受けられます」と、次のステップへの誘導を試みます。
③来店予約と情報連携:お客様が来店を希望した場合、営業担当者のカレンダーをもとに日時候補を提示します。同時に、「電話番号とメールアドレスを記載してください」など、対話形式で連絡先も取得します。
④顧客情報管理:日程確定後、AIエージェントは営業担当者のカレンダーを予約します。同時に顧客管理ソフトに「渋谷通勤、家賃9万円以内、日当たり良好、2口コンロ」「三鷹市の〇〇ハイツ、世田谷区の××コーポに興味あり」といった具体的な顧客要望を登録し、来店時のスムーズな案内を実現します。
このようなAIエージェントを導入することで、業務時間・人件費の削減が期待できます。船井総研でプロジェクトを主導する船井総合研究所のDX支援本部 清尾修 本部長は「約3ヶ月、約300万円という費用で構築できたケースもあり、従業員1人を1年雇用するよりも低コストで導入できる」と話します。
事例②【バックオフィス】「BPO(外部委託)」を不要にする経理・総務担当AIエージェント

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課題
経費精算や請求書、お問い合わせ対応などのバックオフィス業務に付帯する煩雑な業務に時間がかかる
解決策
AIエージェントが、複数の社内システム(会計、販売管理、顧客管理)を横断してデータ入力を代行
前章で、チャットボットを介して会員情報の登録が可能になることを述べました。これを応用すれば、AIエージェントはバックオフィス業務でも活躍します。問い合わせたお客様の名前、電話番号などを認識し、AIエージェントが顧客情報を顧客管理ソフトに登録、どのような問い合わせがあったかなどを、自動で記録していきます。
これにより「どのお客様がどういった要件で連絡してきたか」などの顧客情報が一か所に溜まっていき、次の提案につなげやすくなります。また、これまでスタッフが行っていたデータ入力作業がほぼ不要となり、業務効率化につながります。
顧客対応以外にも、会計システムや販売管理システムなど、複数のツールにまたがる業務プロセスをAIエージェントが代行します。いままでBPO会社や事務が行っていた作業を、AIエージェントが担うようになっていく可能性も考えられます。
事例③【営業】「売れない営業マン」をなくす、営業コーチとしてのAIエージェント

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課題
新人に対し、中堅社員による営業同行や指導に割く時間がなく、未熟な状態で現場に出してしまっている
解決策
商談にAIエージェントが同行し、会話の内容を記録しつつフィードバックを実施
営業活動においてもAIエージェントが活躍します。
相手先の会社でスマホアプリを立ち上げ、商談を記録するだけで、まるで頼れる先輩が営業同行してくれるような環境で商談が可能に。ヒアリングの抜け漏れをなくし、適切なフィードバックを通じて育成までを担います。
具体的には次のような流れです。まず、システムに訪問先企業の名前、商談相手、ヒアリング項目(例:ITソリューションであれば「今の課題」「予算」「部署内の人員体制」など)を入力しておきます。
するとAIエージェントが事前に顧客を分析し、営業担当者をサポート。さらに、商談中には「業務効率が上がらない原因を聞いてください」「部署内で最も注力している業務を聞いてください」といった掘り下げるべき質問を、リアルタイムで表示します。
さらに商談後は、営業マンにフィードバックを行いつつ、「〇〇社の〇〇さんとこんな話をした」といった情報を整理し、自動的に顧客管理ソフトへ登録します。これにより、データ入力時間を削減し、商談数を増やすことが可能に。データが溜まっていくことで、アドバイスが一層洗練され、営業マン全員の営業力を底上げできるようになります。
このシステムは現在、ZOOMなどのオンライン商談時のみ利用可能ですが、今後リアルでの商談にも対応を予定しています。
事例④【卸・製造業】手書きFAXを瞬時に処理する受発注担当としてのAIエージェント

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課題
取引先の都合で、FAXや手書きを用いたやり取りがやめられない
解決策
OCRによるデータの読み取りと、AIによる名寄せ、AIエージェントによる発注・請求処理
これまで人力に頼っていた注文書の処理を、AIエージェントが代行するようになります。手書きの注文書をFAXで受け取り、帳簿やExcelで管理していた企業でも、AIエージェントの導入により業務効率化が進む可能性が高まります。
例えば、食品加工業者に卸先からFAXで手書きの注文書が届いた場合を考えてみましょう。
その食品加工業者の人気商品に、「15種類の北海道産野菜を使った健康ジュース」があったとします。しかし問屋からの注文書には、「野菜ジュース 10」としか書かれていない。しかも走り書きのため、「野菜ヅュース」になってしまっている。
これまでは、人間が「ああ、『15種類の北海道産野菜を使った健康ジュース』10箱だな」と推測して処理するのが一般的でした。
しかし、AIエージェントがあれば、この注文書をスマホで撮影するだけで一気通貫で処理できます。まずAI搭載の文字認識技術で文字を読み取ります。続いて商品マスターデータと照合し、正しい商品名と数量を推測。さらに、発注システムと連携しておくことで、注文処理と、請求書発行を自動化できます。
事例⑤【製造・建設業】「ベテランの技」をマニュアル化する技術指導員としてのAIエージェント

画像:生成AI
課題
ベテランの高齢化と人手不足により、技術伝承が難しい
解決策
ベテランの作業の様子を録画し、アップロードすることで、AIが「作業手順」を自動で推測し、マニュアルを生成
製造、建設などの現場では、これまでベテラン社員の経験と指導に頼っていた部分が多くありました。しかし、ベテラン社員の高齢化や、日本語に不慣れな外国人材の増加により、この知識伝承が課題となっています。
解決策としてマニュアル作成が挙げられますが、これまで経験や暗黙知に頼った部分が大きい現場ほど、作成には手間がかかります。
そこで活躍するのが、AIエージェント機能を搭載したマニュアル作成ツール。
スタッフが作業の様子を録画し、その動画をシステムにアップロードするだけで、AIが作業手順を推測し、自動でマニュアルを作成します。
また、現場で使っている工具が「グラインダー」なのか「サンダー」なのかといった細かい部分までAIが考えマニュアルに落とし込みます。
さらに、「ヒヤリハットになりやすい場面」を抽出。「腰の負担が大きいため正しい姿勢で運ぶ」「確実にナットが固定されているか確認する」といったプラスアルファの説明をマニュアルに含み入れてくれます。
2026年に向け、経営者が「今すぐ決断すべき」4つのこと

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昨今のAIブームで恩恵を受けたのは「なんとなくAIを入れた」企業ではなく、「AIに何をさせるか」を明確に定義した企業でした。AIエージェントでも同様のことが言えます。
ここではAIエージェントを開発・導入する前に済ませておきたい「土台づくり」をお伝えします。
①AIエージェント前提での業務の洗い出し
まずは、あなたの会社で、「人」でなければできないタスク、「人」でなくてもできるタスクを割り振っていきましょう。
ルーティン作業、データ入力、調査・分析といった業務はもちろん、問い合わせの初期対応、スケジュール調整、簡単なヒアリングまで、AIエージェントに任せられる業務は想像以上に多いはずです。
あらかじめAIエージェント化できるタスクが分かっていれば、普段の業務時間がどれぐらい減るか、生産性が上がるのか、また見込み客数や商談が増えるのかといった効果を予測でき、開発や実装時の見積もりもしやすくなります。
②データの構造化(CRMツール導入)
次に必要なのは、CRMやBIツールの導入と整備です。
AIエージェントで最も恩恵を受けるのは、社内のデータを構造的に整理してきた企業です。
例えば不動産の事例では、物件情報や顧客情報、営業マンのスケジュールをデータ化しているからこそ、AIエージェントがスムーズにデータを検索し、登録するなどの高度な活用が可能になります。
構造化された顧客データや社内情報が揃っているということは、AIにとってしっかりとした教師データがそろっているということです。結果として、AIエージェントの処理能力や対応可能な範囲が広まります。
③企業全体でのシステム統一
企業内でのシステムを統一する努力も必要です。
長年、IT分野に投資してきた企業でよく見られる光景として、部署ごとにシステムが最適化されてしまっている場合がありますが、これはあまり好ましくありません。
例えば、営業部では注文処理にAツール、名刺管理にBツールを使用している一方で、総務部ではCツールで帳簿を付け、Bツールの競合であるDツールでメールマガジンを送信している。ビジネスチャットはA社とC社のものがバラバラに使われ、時折E社のものを使う場合もある…といったケースです。
このような状況では、AIエージェントが会社全体を横断して情報を検索することが困難になり、AIが適切に学習できず、本来のパフォーマンスを発揮しません。
散らばったデータを「ZOHO」「Salesforce」などのビジネスアプリで一元化し、AIがノイズとなる情報を参照しないようにすれば、より精度の高いAIエージェントが育ちます。
ただし、現場ベースで既存のシステムをやめるのは一筋縄ではいかないもの。トップダウンで「このツールに統合する!」と決めるなど、会社として明確な方向性を示すことが肝心です。
④評価の最適化
また、AIエージェントの導入を「人件費(コスト)削減」だけで評価しようとすると、現場の協力が得られない可能性があります。「自分の仕事が奪われるんじゃないの?」「より重たい業務でパツパツになるのに、給料は変わらないんでしょ?」という噂が出回る可能性があるためです。
肝心なのは、「時間創出」がどれほどできるかです。
AIは人間の仕事を奪うものではなく、人間が2倍、3倍のパフォーマンスを発揮するためのツールであると認識し、AIエージェントによってどのような未来が拓けるのか、従業員に明確なビジョンを示すことが重要です。
AIエージェントは、もはやSFの世界の話ではありません。2026年に向けて、確実にビジネスの「インフラ」となります。これからは「どれだけ優秀な“デジタル社員”を使いこなしているか」が、企業の競争力を左右します。
重要なのは「自分事」として、自社のタスクをどう任せていくか構想すること。そしてその土台作りをいますぐ始めることです。


