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特別調査から見る よその会社の賃上げ具合

2024.06.26
世の中全体で求められるようになっている「賃上げ」賃上げは必要といわれているものの、気になるのは「そんなにどこの会社も賃上げしているのか?」データから多くの中堅・中小企業のリアルな賃上げの実態を追います。

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日本全国 賃上げのリアル

財務省が「地域企業における賃上げ等の動向について」という特別調査結果を発表しています。 これは日本全国の1125社の企業にヒアリングを行った結果をまとめたものです。

同調査によると、2024年度にベアもしくは定期昇給を行った会社は60%以上になっています。賃金の引き上げ率5%以上の儀容も20%以上増加しています。

何らかの賃上げ(ベアや定期昇給、賞与)などを実施する企業で、引き上げ率を5%以上にする中堅・中小企業等は33.9%で、前年度に比べ増加していることがわかります。

多くの企業が様々な形で賃上げを行っている、それがデータからも判断できるのです。

次に賃上げの効果についての調査結果を見てみます。

まずそもそもなぜ賃上げするのか?最も多いアンケート結果は「社員のモチベーション向上、待遇改善、離職防止」でした。

「よその会社も賃上げしているので、取られないよう他社並みにする」 そのような判断をする企業が増えています。

身を切る賃上げで効果は出ているのか?40%を超える企業が人材の確保ができました。ただし残念ながら、70%を超える企業は「人材がいない」を理由に人材確保ができていません。

賃上げを実現する自社商品・サービスの価格転嫁ができたと答えた企業は約30%で、半数は価格転嫁できていないものの、賃上げが必要でやむを得ず行っている実態が見えてきます。

その他賃上げに関してアンケートの回答結果として寄せられたものが「賃上げすれば本当に人手不足は解消するのか?」です。

「人はいるものの、会社に人を雇うための環境が整っていない。また製造業のような状況により必要な人員が変化するような業界では、足りないとき、余るときがある。労働者がもっと流動化しやすい雇用形態があれば、企業は人員を保てる」といった声が上がっています。

賃上げ12の特徴的な事例

この特別調査では、賃上げを実現するために、興味深い取り組みをしている企業を取り上げています。1つずつ見ていきます。

北海道の運送業、ロジネットジャパンは、2023年を「人財投資の年」と位置づけ、新卒初任給の大幅な増額、グループ人件費約10%増、60歳以降の社員の給与を60歳到達前の賃金水準を維持などしています。

それを実現するために行っているのが、中間物流を不要にした物流業務効率化への取り組みです。コストを減らし、賃金に回しています。

岩手県の旅館、花巻温泉は観光庁等の補助金を利用し客室の階層等を行い、価値を高めることで宿泊料金も値上げ。インバウンド受け入れなどで単価、集客力をアップさせ、直近20年間で最高益を実現しました。

賃上げのほかに、従業員が長期休暇を取れるようにし、社員旅行を実施するなど「宿泊業界でも長期休暇が取得できる」という認識を人材確保の強みにしています。

埼玉県の製造業、松本興産はDXを推進、自動化などを進め、外注していたサービスを解約し内製化するなどで約4000万円の経費削減を実現した結果、2022年度は平均7%、2023年度は平均2.2%の賃上を実現しました。

三重県の製造業、ジャパンマテリアルは、従業員の努力だけでなく、賃上げを目的とした価格転嫁交渉を行うようにし、賃上げの原資を確保するようにしました。

岐阜県の運送業、セイノーホールディングスは自社が構築した効率的な物流ネットワークを、これまではグループ内でのみ使用していたのが、今後は他社にも開放していく構想を掲げています。それによるスケールメリットを生かし、業務効率化へとつなげる考えです。

物流は2024年問題もあり、賃上げだけでなく業界全体の課題を解決するために、大手企業として業界全体をよくするアクションを起こしています。

兵庫県の有馬温泉 欽山は、高付加価値化で客単価をアップさせているほか、稼働率の低い日を休館日とし、水道光熱費等のコスト削減を行っています。

宿泊業は顧客の利用している時間が長い業態です。利用者数が少ないときでも施設の稼働には多くのコストがかかります。ならば思い切って休んでしまったほうが業務効率を上げ、従業員に還元。また「休みが不定期」という働くうえでのマイナスを改善しました。

山口県の建設業、ヤマネ鉄工建設は鉄骨製作工場認定制度で最高位の「Sグレード」認定を受けている高い技術力を、もっと自社のブランディングにつなげていくことで収益力を上げ、その結果を賃上げという形で従業員に還元します。

ブランディングを地域活性化にもつなげるという考えの元、地元のスポーツチームのスポンサーとして支援するなどを行っています。

愛媛県の鉄道・バスなどの交通事業会社、伊予鉄グループは深刻な運転士不足を解決するために、週休3日制の導入、利用率が低い路線や時間帯の減便、運賃引き上げなどで収益性を高め、賃上げと同時に採用力強化も行っています。

熊本県の農業関連業の興農園は「利他利還(利を他者に供すれば、利は自らに還る)」の経営理念のもと、顧客からの感謝の手紙を全社員に共有するなどで働きがいを向上、無料の社員食堂の設置や社員自らによるカイゼン活動などにより、社員の力で成長を実現、

それを「社員への給与は「経費」ではなく「投資」であると積極的に社員に還元、ほかにも非正規雇用から正規雇用への転換を、希望すれば全員が可能にするなど、社員が力を発揮しやすい環境の整備に力を入れています。

佐賀県の製造業、中山鉄工所は「市役所に負けない平均年収」を目標に掲げ、令和3年度以前から継続的に賃上げを実施してきました。

同社の特徴的なことは、社員の努力や会社の業績に応じた処遇改善を積極的に行っていることで、「マン・オブ・ザ・イヤー」制度は毎年社員の中から最も頑張ったと思われるものを表彰し、賞与とは別に最高額100万円を1人あたりに支給するもので、今年は3人が受賞しています。

ほかにも毎年の利益目標を上回った分の3割を職員に還元し、またその額を「見える化」することで職員のモチベーション向上につなげています。

沖縄県の南島酒販は経営者の代替わりを機に、新たな人事・評価制度を導入し、管理職を一斉に賃上げし、ベアや決算賞与の支給などを積極的に実施、過去3年間の新卒離職者ゼロ、平均新卒定着率93.3%など、確かな効果につながっています。

「まずは賃上げ」と目標を掲げ、環境を整えたことが成果に現れているのも興味深い点です。

沖縄県の介護事業者、トータルライフサポート研究所は、自社の提供する「介護」というサービスは「究極のサービス」であり、「大切な人に受けてほしいサービス」の提供を目指す、その実現には職員の物心両面の豊かさが必要であるとして、介護処遇改善手当等を積極的に活用し、月額平均1万円以上の賃金引き上げを3年にわたり実現。

定年制度はあるものの、希望者は長く働き続けることが可能で、最年長の従業員は73歳と利用者より年上。環境を整えることで人手不足の深刻な業界における人材確保も実現しています。

賃上げに関する様々な事例を見てきました。賃上げには「売上を増やす」「業務を効率化する」などの直接的なものもあれば「従業員のモチベーションを高める、雇用環境を改善する」などの、間接的ではあるものの、賃上げにとどまらない働き方改革を実現するものもあります。

自社の賃上げはどのような形で実現していくのが最もよいかを、お考えいただければと思います。

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