新規事業のヒントは海外にあり。令和版「タイムマシン経営」で成功するDtoC戦略

2025.09.30
新規事業の立ち上げを考える経営者であれば、誰しも「これから成長が見込まれるビジネス」を選びたいと考えるでしょう。そのようなビジネスをどこで見つけるか?ヒントは海外の事例にあります。
海外で短期間で急成長しているビジネスにはどのようなものがあるか?今回は2020年以降に創業して年商10億円を超えている事例を紹介します。ぜひ参考にしてください。

海外から新規事業のヒントを得る

「タイムマシン経営」ご存じでしょうか。

タイムマシン経営とは、海外で成功した事業モデルを、日本市場に合わせて展開する経営手法です。

海外と日本の間には、情報の伝達速度の違いから数年間のタイムラグが生じます。例えば、生成AIでは先に英語版ができてから日本語版が作られて日本に普及されています。海外の最先端事業を模倣し、日本で展開することで、タイムマシンで未来から事業アイデアを持ってきたかのように成功を目指せることから、この名称が付けられました。

ソフトバンク創業者の孫正義さんが命名したとされています。

孫正義さんがタイムマシン経営の代表例がYahooです。インターネットの利用が広がりはじめていた1990年代にインターネット関連のベンチャー企業である米Yahoo!を発見しました。1996年には米Yahoo!と合弁で、日本にヤフー株式会社を設立しました。その後もインターネット関連企業を次々と設立し、出資した企業を次々と上場させるなど、時間差を利用した経営手法で、ソフトバンクは世界的な大企業へと変貌を遂げました。

家具大手のニトリは、1967年に札幌市内で30坪の家具店からスタートしました。大きな成長のきっかけが1972年の米国家具業界の視察です。西海岸の大型家具店舗などを視察して、現在のニトリを特徴づけるSPAモデルと大型店の全国展開に大きな影響を与えました。

スポーツジムなど営む業界リーディングカンパニーの社長も毎年海外の同業界の有力企業の視察に行き、日本にはないアイディアを持ち帰り、自社の経営に活かしています。

※画像提供:PIXTA

船井総合研究所では、海外視察ツアーを年に数回実施して、毎回100名程の経営者の方が参加されています。注目すべきなのは参加した企業の業績です。視察ツアーに過去2回以上参加している企業のサステナグローススコア(=対前年成長率+営業利益率)は26.0ポイントと高い値を示していました。これは船井総合研究所の研究会会員様の平均スコアが11.3ポイントであることを見ると2.3倍高いことになります。

これは経営者の学習意欲、海外の先進的事例への高い関心が業績に結び付いている結果ともいえるでしょう。海外の事例から学ぶことは経営に大きなプラスをもたらします。

そこで今回は、世界中でコロナが蔓延し、ニューノーマルと言われ、デジタル化が世界的にも進んだ2020年移行に創業した企業を軸として、年商10億円以上を事業を調べました。

特に多かった事業ジャンルは「AI」「セキュリティ」「ヘルスケア」「DtoC」でした。日本国内においてもEC(Dtoc)は今後も伸びていきます。DtoCであれば新規事業として取り組みやすさもあり、本稿ではDtoCについて採り上げます。※DtoC=Direct to Consumerの略で、製造業者が卸売業者や小売店を介さず、自社のECサイトなどで直接消費者に商品を販売するビジネスモデル

令和版「タイムマシン経営」で成功するDtoC戦略

DtoCは、中間業者を介さず直接販売するため、「利益率の向上」につながります。また、顧客と直接つながることでデータを収集・活用し、自由なマーケティング戦略を展開できる点も大きな強みです。

DtoCの参考企業としてCIDERをご紹介します。リアル店舗を持たないアパレルのD2Cブランドとして2020年に設立されました。中国発の「SHEIN(シーイン)」と類似しており、店舗を持たず、ネット通販と越境EC、低価格を武器に世界中で急速に売上を伸ばしています。日本においてもネット上で購入が可能になりました。

年商は非公開ですが、複数の調査会社のデータによると創業5年で世界130か国に販売されており、ユニコーン企業(評価額10億ドル超)とDtoC事業の強さを表現しています。

Ciderのビジネスモデルは、データ主導型のオンデマンド生産システムです。プレオーダー(予約販売)と受注生産を基本としています。商品を事前に大量生産し、在庫として保管する従来のファストファッション業界の事業モデルとは対照的と言えます。

AIやTikTok、Instagramなどのソーシャルメディアから得られるリアルタイムデータを活用し、どのスタイルが人気を博すかを予測します。サプライチェーンのデジタル化によって広州の工場と直接やりとりし、デザインコンセプトから市場投入までをわずか3〜7日という短期間で実現。この俊敏性が、マイクロトレンド(瞬間的な流行)を即座に商品化し、業績を伸ばす要因です。他には、高度なA/Bテストプラットフォームを導入し、デジタル体験の最適化を徹底的に追求。この取り組みが、コンバージョン率、リテンション率、顧客生涯価値(LTV)の向上につながっています

他には、高度なA/Bテストプラットフォームを導入し、デジタル体験の最適化を徹底的に追求しています。この取り組みによって、コンバージョン率、リテンション率、顧客生涯価値(LTV)が良くなっています。具体的には、レコメンデーションアルゴリズムを継続的に微調整することで、アップセルを最大化しています。

CIDERは、デジタルを活用して、生産コストの低減と売上の最大化を同時に実現しているDtoCの好事例です。

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2016年に設立し試行錯誤し2020年に本格事業化した、CradlewiseもDtoC企業として注目です。

本社は米国のサンフランシスコにあります。スマートベビーベッドの販売企業です。非公開で海外企業のため、正確な情報掴みづらいのですが、複数の調査会社で現在は年商1,000万ドル(1ドル150円計算だと15億円)を超えているとのことです。

商品の特徴としては、赤ちゃんが泣きだす「前」に、その兆候をAIが検知し、自動的におだやかな揺れで赤ちゃんをあやす機能があることです。内蔵カメラとマイクが赤ちゃんの動きや音を監視し、睡眠パターンを学習します。赤ちゃんが目を覚ましそうになると、泣き出す前に介入することで、赤ちゃんと両親の双方に、より長く質の高い睡眠を提供しています。幼児用ベッドへと変形でき、生後24ヶ月まで長く使える点も人気の要因です。

主な購入層は、育児の負担を軽減したいと考えるミレニアル世代およびZ世代の親です。オンラインでの直接販売を主軸に、育児関連メディアでのレビュー獲得やインフルエンサーマーケティングを積極的に活用することで、売上を伸ばす戦略をとっています。

今後も市場が伸びるDtoC市場

かつてのタイムマシン経営が欧米の『ビジネスモデル』を輸入することであったなら、現代のタイムマシン経営は、CIDER社のようにグローバルな顧客データをリアルタイムで活用し、『未来の需要』を先取りすることかもしれません。

国内のDtoCはどのような状況なのでしょうか。

国内DtoC市場の動向については、上場企業でD2Cに特化している売れるネット広告社の調査結果があります。2020年の調査結果ですが、2015年の国内デジタルDtoCの市場規模は1兆3,300億円でしたが、2019年には2兆円を超え、2025年には3兆円に達すると成長市場と表現されています。(売れるネット広告社の調査資料

DtoC市場全体の成長を理解するためにも、個別のセクターにおける動向をご紹介します。食品のDtoCはコロナ時に非常に飛躍しました。「巣ごもり需要」が大きく影響しています。外食機会の減少に伴い、家庭での食の質を向上させたいというニーズが高まり、高品質な食材や有名店の味を家庭で楽しめる「お取り寄せ」や限定品の需要が拡大しました。居酒屋などでは、店舗売上を大きく上回る食品販売もありました。

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「企業がDtoCへ移行する4つのメリット」

特にメーカーなどの企業がDtoCへ移行するメリットは4つです。

①利益率の向上
卸売業者や小売業者といった中間業者に支払うマージンが発生しないため、収益性が高まります。

②顧客データを直接獲得・活用できること
DtoCでは自社のECサイトやアプリを通じて、顧客の属性、購買履歴、ウェブサイト上の行動履歴といった第一級の顧客データ(ファーストパーティデータ)を直接蓄積てきます。このデータを分析することで、企業は顧客のニーズをより深く理解し、パーソナライズされたマーケティング施策の展開、新商品の開発、さらには顧客生涯価値(LTV)の最大化といった、データに基づいた高度な経営判断が可能になります。

③ブランドコントロールと顧客体験の独自性を実現可能
企業が自社ブランドの世界観と顧客体験を隅々までコントロールすることを可能になります。小売店の棚に並べられる場合、商品の見せ方、価格設定、プロモーション活動は小売業者の意向に大きく左右されます。しかし、自社のECサイトでは、デザイン、メッセージング、価格戦略、キャンペーンに至るまで、すべてをブランドの理念に沿って一貫して展開できます。

④市場へのスピード展開と商業的柔軟性が生まれること
新製品のテストや市場投入のスピードを劇的に向上できるのです。従来の小売チャネルでは、新製品を全国の店舗に展開するまでに数ヶ月を要することも珍しくないです。しかし、DtoCであれば、ECサイト上で即座に新製品を発売し、消費者の反応をリアルタイムで測定できます。市場の変化に迅速に対応する能力により、企業は市場のトレンドや顧客のフィードバックに迅速に対応し、製品の改良や新たなサービスのテストを低リスクで行うことが実現します。

DtoCは非常に魅力的です。ぜひ今後の経営施策に取り入れていただき、業績向上に役立てていただきたいです。改めて自社を見返すと、意外にDtoCできる商材があると思います。