14歳でホームレス問題に出会い、誰もが再出発できる社会を目指す起業家
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2023.08.30
- 社長online今回の特集は4人の若き起業家にお話しをうかがいました。経験を積み重ねながら事業を成長させている姿を追います。
第1回は大阪市でホームレスの人の就労支援などを行う認定NPO法人「Homedoor(ホームドア)」理事の川口加奈さんです。2010年、19歳で起業した川口さんは、14歳でホームレスに出会ったことをきっかけに「誰もが再出発できる社会」を目指して活動を続けています。
高い壁を登れるよう6つのチャレンジでサポート
認定NPO法人Homedoorを「ホームレス状態を生み出さない日本の社会構造をつくる」理念の基、13人のスタッフと共に運営しています。
ホームレスの方が路上生活から脱出するには高い壁があります。Homedoorでは、どんな人もその壁を登っていけるように「6つのチャレンジ」を通じてサポートを行っています。
チャレンジ1、届ける
夜回り、街頭ポスター、広告を通じて当事者にホームドアの存在を知ってもらう活動です。
チャレンジ2、選択肢を広げる
ホームレスの方がHomedoorのサポートを希望して来所されたら、個室型宿泊施設「アンドセンター」に滞在してもらいながら、その方に合った支援の選択肢を提示します。
チャレンジ3、暮らしを支える
主に路上生活者の方を対象にシャワー室や食料などを提供しています。2年前にはカフェ「おかえりキッチン」をオープンさせ、月間100食ほど食事の無料提供を行っています。
チャレンジ4、“働く”を支える
ホームレスの方々の雇用を創出するため、シェアサイクル「HUBchari(ハブチャリ)」という事業を展開しています。シェアサイクルとは、複数ある街中のポートどこで借りてどこで返しても良い、新たなレンタサイクルの仕組みです。現在、大阪市内で389拠点あります。
また、企業から受託された清掃や駐輪場管理の仕事を紹介するなど職業紹介事業も行っています。
チャレンジ5、再出発に寄り添う
ホームレスの方々の住まい探しのサポートや就職後の相談など、路上脱出後も生活をサポートしています。
チャレンジ6、伝える
講演会や書籍出版など啓発活動を行っています。昨年はホームレスの人たちが撮った写真の写真集『アイム』を出版しました。
14歳で炊き出しに参加、生育環境が人生を左右する現実を知る
私がこの問題に出会ったのは14歳の時です。
中学生になり電車通学が始まると、日本で最もホームレスの人が多いと言われる「あいりん地区(通称・釜ヶ崎)」を毎日通過しました。「日本は豊かな国なのに、なぜ多くのホームレスが存在するのか」と関心を持つようになりました。親に理由を聞いても「絶対にあの駅で降りたらあかんよ」と教えてはくれませんでした。
「あそこは何があるのだろう」。調べていくと、炊き出しのボランティア募集の記事を見つけ、炊き出しに参加することを決めました。
そこで大きな衝撃を受けました。
当時、大阪市内だけで、路上生活者が年間200人以上が亡くなっていることを知りました。
自分の身近で、路上で、人が死んでいるという現実。
生育環境に恵まれなかった人が大人になっても困窮状態になっている現実。
自分はたまたま生育環境に恵まれただけで困窮していないという不条理さ。
「生まれた環境が違うだけで人生がこんなに変わるなんて、自分には関係がない問題だと言えるのか」と感じました。
自分に何ができるかと考えていた時に、同世代の子たちによるホームレス襲撃事件も起きました。そこからずっと啓発活動に携わっていきました。
海外の同年代から得た刺激 若くても大きな挑戦ができる
活動を続ける中で、高校2年生の時にはボランティア親善大使に選ばれ、ワシントンDCで国際会議に参加しました。
そこで私は大きな衝撃を受けました。同世代の海外の子たちは10億円の寄付を集めたり、多くの企業を巻き込んだりしながら活動を大きく展開していたのです。
私はこれまで自分で自分の限界を作っていたと気づかされました。「高校生だからここまでできる」という視点ではなく、問題を解決するために何をすべきかという視点で考える必要がありました。
本当にホームレス問題を解決するには何が必要なのか改めて考え、1枚の絵を描きました。「こういう場所があれば、路上死を防げるのではないか」との思いを込めた施設の間取り図です。
NPO立ち上げ、緩やかに繋がれる関係性を目指し
2010年、大学2年生の時に任意団体として「Homedoor」を設立しました。
社会起業塾に入塾し勉強していきながら活動していました。最初は「あいりん地区」でモーニング喫茶を行い、当事者と仲良くなりながら、どういったニーズがあるのかを把握していきました。
そこで、働きたい気持ちはとても強いものの、働くことへの抵抗感を持っていることがわかりました。抵抗感なく働くには、得意なことを仕事にすればいいと考え、2011年に立ち上げたのがシェアサイクル事業・HUBchariです。
今でこそシェアサイクルは広がってきましたが、当時はその言葉すらありません。拠点がなかなか見つからず、実際に当事者の方を雇って事業を始めてからも広告宣伝費はないため、お客さんはなかなか集まりませんでした。
当事者の方から「このままだと、この会社潰れるで。社長出せ」と言われたこともありました。
そんな中、当事者の方からどうやったらお客さんが来るのか考えてくれるようになりました。自ら看板を作り、人通りの多い場所に設置するよう提案してくれたのです。雇い・雇われの関係を超えて、一緒にハブチャリを盛り上げていくパートナーに徐々になっていきました。さらに、大阪のキーパーソンとなるような方々が応援してくれるようになり、少しずつ拠点も増えていきました。
ホームレスの方は、そもそも仕事を見つけるのが非常に困難ですが、見つかったとしてもすぐにフルタイムで働くことができるわけではありません。HUBchariを就労リハビリと位置づけ、働くことに少しずつ慣れていけるよう支援を続けています。
急に来られなくなる方も、もちろんいます。そうなっても、もう一度相談に来てもらえる取り組みを同時に行っています。運営するカフェで「〇カ月後に来てもらったらご飯が食べられます」といった特典付きのチケットを渡すなど、緩やかに繋がれる関係性作りも必要だと感じています。
若者の就労を支援する新たな取り組み
最近は相談者が若年化しています。
調べてみると、10人に1人が児童養護施設出身だったり、4人に1人が虐待を経験していたり、2人に1人はひとり親家庭出身だったり。生育環境に恵まれない人が大人になって困窮状態に陥っていることがデータとしてもわかってきました。また、コロナをきっかけに貧困のすそ野が広がった印象もあります。
若者を中心に就労支援を強化していきたいと考え、この度既存の宿泊施設にプラスしてもう1棟、長期滞在型の宿泊施設「アンドベース」を開設しました。運営する個室は18部屋に今回の24部屋を加えた、計42部屋となりました。
若い方は私たちの支援を受けると、住所・身分証・携帯を手に入れられ、比較的早期に仕事を見つけることはできます。本人も焦りがあるため、早く働きたい気持ちで仕事を見つけてくるのですが、しかし、すぐに見つかる仕事は良い環境ではないケースが非常に多いのです。
そしてまた困窮状態に陥ってしまい、再び私たちのところに相談に来るといった「貧困の再生産」という問題が起きています。そこを断ち切れる支援を展開してきたいと考えています。
新たな施設は、高校生の時に描いた絵の6割ほど達成できたかと感じています。
やり直しができる・再出発ができる社会を目指しています。路上生活から脱出したいと思ったら脱出することができる。そういった選択肢がある社会をこれからも作っていきたいです。
さいごに
最後に、Homedoorの活動原資はシェアサイクルでの収入で、もう半分はご寄付です。
税金ではなくご寄付であるからこそ、目の前の困っている方に対して迅速で柔軟な対応を制約なしでその場の判断で行うことができます。私たちの活動に賛同いただけましたら、この活動をご寄付で応援頂けますと幸いです。
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