Japan Business View‐コンサル座談会‐成熟業界で成長する企業【前編】
-
2023.12.06
- 社長onlineの新たなコンテンツ、3人のコンサルタントによる座談会。今後は「Japan Business View」と題して随時、発信していきます。
この座談会は、船井総研の各分野のコンサルタントが旬のテーマを取り上げ、コンサルティングの現場で得た情報から、中小企業経営の課題とその解決方法についてお伝えしていきます。
今回のテーマは「成熟業界の課題とその解決方法」についてです。テキストと共に前後編に分けてお届けします。
【座談会参加コンサルタント】
社長onlineグループ・マネージャー 小梢健二
子育て支援部・マネージング・ディレクター 犬塚義人
M&A支援部・上席コンサルタント 奥野倫充
【司会】
社長onlineグループ・チーフエキスパート 吉田伸
以下テキストは、経営者向け優良情報サービス『社長online』の情報テキストになります。月々1,650円で成功事例や新たなビジネスフレームを学べるので、是非加入を検討してみてください。
Q1、成熟業界が抱える課題や構造的な問題について
様々なチャレンジをしてようやく横ばい
【小梢健二】(以下小梢)私の専門である自動車業界や社長onlineに携わる中で見てきた全業種に関しては、4つの課題が挙げられます。
1、業界自体が縮小しているため、様々なチャレンジをしてようやく横ばいという状況です。企業が非常に成長しづらい環境です。
2、成熟業界の中でも市場が大きい場合は異業種が参入し、新たな競合となることがあります。最たる例がAmazonです。自動車業界では中国がゲームチェンジャーとして電気自動車を投入するといった事例です。
3、採用で不人気になりやすいため、人を集めるのが難しいです。
4、業績が伸びづらいため経営者の投資意欲が低くなります。また、会社が成長しないと社員の新たなポジションを作ることができないため離職率が高くなります。
結果的に生産性が上がらず給与も上昇しないため、会社が非常に停滞してしまいます。
その中で好調な企業が行っている取り組みは、①伸びている商材やサービス、ジャンルに注力してさらに伸ばす②デジタル化で既存事業の生産性を上げる③新規事業へのチャレンジです。成熟業界においてはこの3点が新たな成長につながっていると感じます。
教育業界は少子化が影響
【犬塚義人】(以下犬塚)私が担当する教育業界は主に子ども向けの事業です。学習塾をメインでお話しますが、やはり成熟業界に突入しています。少子化問題もあり、市場が確実に縮小をしている状況です。一方で企業数はそれなりに多く存在します。また、教育事業は良くも悪くも異業種が積極的に参入しています。競合が非常に増えている状況です。
その中での課題は、少子化での市場縮小が誰の目にも明らかであるため、よい人材が集まりにくい点です。加えて人材の定着率も低いです。会社の業績が「〇年後に〇倍」といったイメージが他の業種に比べると描きづらいため、優秀な若い人材が率先して辞めていく状況も起きています。
また、売上が上がりにくいためコスト削減に向きがちです。適正な判断ですが、一方で広告費やD X関連費用、採用に関わる重要なコストまでも削減してしまうと、閉塞感のあるムードがより漂ってしまいます。
さらに、社内で実施する新規事業が高確率で失敗しやすいです。成熟業界では、売上や事業規模がそれなりにしっかりあるため、新規事業にも同程度の利益率や売上を求めがちです。新規事業にチャレンジしても、開始3年ほどで売上の小ささや利益の少なさによって撤退と判断されてしまいます。長期視点で事業を伸ばす人材がいない点も理由として挙げられます。
市場の縮小が続くパチンコ業界
【奥野倫充】(以下奥野)私の専門分野パチンコ業界は、2010年の震災前後から縮小傾向です。一時期マーケットは30兆円の市場規模がありましたが、現在は20兆円をはるかに切り、店舗数も1万5千件から現在は7000件を切っています。
最も大きな成長阻害要因は、経営者のモチベーションが下がってしまうことだと感じます。 マーケット全体が大きくなっている時は、打ち手が当たるので経営者は楽しいのです。
しかし、例えばシェアを15%から25%に伸ばしたといっても、業績は下がっている状況です。成果がなかなか出ない中で、経営者として「このままこの業種で頑張っていてよいのか」といったところが本音には存在するのが、成熟業種の最も大きな課題ではないでしょうか。
25年間、成長期から現在もパチンコ業界に寄り添ってきましたが、私は延命経営のような形になってしまうことが経営者にとって最も面白くないことだと考えます。成長産業から成熟産業までの変遷を戦ってきた経営者は非常に優秀な方です。人生のチャレンジが果たしてこれがいいのかどうかを考えていただければと思います。
Q2、成熟業界の中で成功している企業の事例
10年以上増収を続ける自動車小売業の3つのポイント
【小梢】自動車小売業で10年以上増収を続ける会社の取り組みをお伝えします。ポイントは大きく3つです。
1つ目が時流に合わせたマーケティングの進化です。この会社は現在、デジタルマーケティングに注力して業績を伸ばしています。具体的には、自社のECサイト上でチャットボットを使って問い合わせ率を上げて、自動でSMSを送り、来店につなげる。顧客管理システムで活用して効率よく顧客にダイレクトメールを送る。LINEやYouTubeの活用などを行っています。
2つ目は単価アップです。車を購入した際に付随するカーナビゲーションやドライブレコーダーなどの商品価格をしっかり研究しています。その上で良い商品をパッケージ化して、複数組み合わせ、顧客に提案しています。すると、結果的に単価が上がります。また、高単価商品をより多く売っています。車は安いものから高いものまで幅広くありますが、基本的には高ければ高いほど粗利額は増えます。より高単価商品を販売していく取り組みで収益を上げています。
3つ目は効率化です。これは成熟産業ほど効果あります。会社の規模が大きくなるほど重複する作業も出てきます。本当に必要な業務か見極める必要があります。 そこから必要に応じてデジタル化を行っていきます。例えば、POSレジの使用や経理システム導入などによって作業を効率化させ、粗利や従業員の働く時間減らすことで、生産性を上げながら業績を伸ばしています。
本業に拡大に特化し、安定成長する学習塾
【犬塚】学習塾業界からは、地方都市において10年で倍以上業績を伸ばしている企業を紹介します。この学習塾の場合、特に本業(主に高校受験塾)の拡大、安定に特化しています。そして結果的にトータルで地域内のシェアを拡大させています。
市場が縮小している成熟産業では新規事業や新商品に焦点が当たりがちですが、この学習塾はむしろ本業の業績をしっかり固めていく、ほぼ独占のような状況を作ることに力を入れているのです。一方で、それだけでは業績アップできませんので、積極的に出店もしています。
それ以外に、異なる客層や異なる業態、新規業態への参入も進めています。その際の手法は主にM&Aです。新たな客層がターゲットとなる事業を自社で育てるには、人材やノウハウが不足しています。他社を買収することで、自社のマネジメントやビジネス成功のノウハウを注入して、しっかり業績を上げています。
また、この会社が他社と大きく異なるのは人材への投資です。新卒採用だけでなく管理職向けの研修体制なども整備しています。年間に社内で十数回ほど階層ごとに研修プログラムを用意しています。
M&Aを上手に活用して業績アップ
【奥野】本業から逃げていない会社は業績を伸ばしてると感じます。成熟産業になっていくと、自分たちのマーケットが縮小するため、新規ビジネスに移行するパターンも多いですが、結局うまくいかないケースが多いです。
パチンコ業界では、本業から逃げずに、どう自分たちの会社を成長させるのか考えた上で、M&Aという手法を使って業績を上げることが本流になってきています。
背景には、少しずつシェアアップしても業績が上がらない点があります。M&Aをしていかなければ業績が飛躍的に伸びないのが、成熟産業の構造的課題にあります。
M&Aにおける一番のポイントは、価値のない営業権にしっかり価値を出して投資をすることです。土地の価値や建物の価値は評価をつけやすいので投資しやすいです。しかし、営業権という目に見えない価値や、「自社がこの会社を引き取ったら、業績が1億から3億になる」というのびしろに対して、しっかり投資ができる会社は、M&Aで業績を伸ばしています。
また、成熟産業においても経営者が自分の収入を追求している会社は、業績を伸ばすのが難しいと感じます。
成熟産業でも業績を伸ばしている会社は、今一緒に働いてくれている仲間に対して、もっと活躍できるステージを増やしてあげたい、頑張っているメンバーの収入を増やしてあげたい、といった思いを大切にしています。
自分以上に一緒に働く仲間のことを本気で考えている経営者は、成熟業界においても業績を伸ばしていると感じます。
【後編】はこちらからご覧いただけます>https://newspicks.com/news/9259952/body 上記のリンクから記事が見られない方は、『社長online』の利用登録をしてご覧ください。この他にも多数の記事がございます>利用登録(無料お試し)はこちら>https://media.funaisoken.co.jp/