上場に成功する社長がしていること
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2024.04.30
- いつか上場したいと考える企業は約10万社あると言われています。しかし、そこから実際に上場できるのは年間約100社です。
上場を考える会社の経営者は会社をある程度の規模に成長させてきた方々です。苦労を重ねており、やり切る力を持っています。その中で上場を成功させる経営者とはどんな人物なのか。
今回の成功する社長は、長年企業のIPO準備を支援してきた私が上場を成功させる社長についてお伝えします。
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「上場したい」10万社、成功できるのは100社
最初にIPOの現状について説明します。
1年間に約100社が新たに上場しており、その予備軍は約3,000社だと言われています。単純に計算すると、上場に成功する確率は30分の1だと考えられますが、その3,000社とは監査法人から監査を受けている会社の数です。いずれ上場を目指している会社は全体で約10万社あると推定されています。
上場するには、証券取引所から上場基準を満たしているか審査が行われます。その際に必要なのが「上場企業の会計基準を満たす企業である」という監査法人からの証明です。監査にかかる費用は最低でも年間約1,000万円です。それを1~2年受けなければいけません。
上場の第一歩として、監査法人と年間1,000万円もの監査契約を結ぶことができるかは非常に大きな意思決定です。その決断をした会社が年間約3,000社あり、その中から最終的に上場できるのが100社ほどです。
上場先は東京証券取引所だけでも4つ(プライム市場、スタンダード市場、グロース市場、TOKYO PRO Market)あり、それぞれの市場の特徴に応じて、満たすべき基準は異なります。
審査基準には、上場する株式数や株主数、利益の額といった数値などで形式的に定められた「形式基準」と、上場企業にふさわしい要件を満たしているかどうかといった「実質基準」があります。実質的基準には、取締役会を開いているか▽予算をきちんと作成して管理しているか▽社内規程・ガバナンス体制が整備されているかなど数多くの項目があります。
上場審査では、それら全ての項目が基準を満たしているかチェックされます。そのため、上場を目指す会社は、1つ1つの項目を確認し、社内にないものは整備し、上場の妨げになるものは廃止しながら、地道な準備を進めていきます。準備期間は最低でも3年、一般的には4~5年ほどかかります。そうして、証券取引所の上場審査までたどり着くことができるのです。
経営者が上場を考える理由は3つ
非常に多くの時間、お金、労力のかかる上場を経営者はなぜ目指すのか。理由は3つです。
1つ目は事業承継です。経営者の引退や後継者がいない場合、会社を存続させるための手段として上場させるケースです。外部から人を引っ張ってくるのは難しく、これまで育ててきた会社が経営者の意図しない方向に進んでしまう可能性があります。上場することで後継者となる人材が見つけやすくなります。
2つ目は成長の起爆剤です。会社はある程度成長するとその先が見えにくくなります。上場することによって知名度が拡大し、人材採用がしやすくなったり、銀行など新規の取引先を開拓しやすくなったりします。成長ストーリーを実現させる事業計画の1つとしての上場です。
3つ目が自分と株主へのリターンです。
上場できる社長とは
上場させるために社長に最も必要な要素は「素直」であることだと考えます。
先述の通り、上場するには非常に多くの変化に対応していかなければなりません。 例えば、オーナー企業ではお金の使い方を含めて様々なことを社長1人で決めることができましたが、上場すると社長だけで決められなくなります。取締役会を設置し、稟議書を作成して、承認フローを構築する必要があります。また、コーポレート・ガバナンスや内部管理体制といった名目でこれまでの社長自身の行動様式も改める必要も出てきます。
これまでのやり方を改めることに対して、危機感を持つ経営者の方は多くいます。社長として、ある程度事業を成長させてきたからこそ上場する・しないの判断をしています。皆さんプライドが高く自負もあります。しかし、ここで2通りのタイプに分かれると感じます。
1つのタイプは、変化に対して素直に向き合える社長です。そのような方は私たちが耳の痛い指摘をしても、「上場するしないにかかわらず会社を良くするためにはせざるを得ない」と前向きに進んでいきます。
もう1つのタイプは、変化を否定し疑問を抱く社長です。「なぜそんなことをしなければいけないのか」と腹を立ててしまうケースもあります。上場した後も社会や制度が変わっていきます。状況の変化を前向きに捉えることができなければ、上場までの道のりは難しいと感じます。
変化を前向きに受けられた社長
上場を目指すA社長は、自社の事業の傍ら、自身や親族のための別会社を持っており、別会社とA社長の会社の間では取引も行われていました。
しかし、上場する会社と競合・類似する事業を行う会社がある場合、会社の本業と社長のプライベートのどちらを優先させるか問われます。会社の事業とは別に運営する会社がある場合は、容によっては 清算を迫られる場合もあります。
その事実を知ったA社長は、「上場の障害になるのであれば」とスパッと別会社を清算しました。清算しても確実に上場できる保証はありません。しかし、上場審査のロジックを素直に受け止め理解した上で、不動産を買い戻すなど手間も時間もかかる決断をしました。
B社長は典型的なオーナー企業のワンマン経営者でした。上場準備を始めるまでは全て社長が決めていました。しかし、上場するために、取締役会を設置して重要な意思決定は社外取締役や社外監査役に判断を委ねる合議制に仕組みを変えました。
B社長は言いました。「これまで自分だけで経営してきが、それは運よく当たってきただけだ」と。「これから会社が大きくなっていくと、自分だけでは分からないことが増える。社外の方の常識を知らなければ、世間と自分の経営がどんどん乖離してしまう」。
会社が大きくなる以上、透明性も必要になります。外部から口を出しされることに拒否感を抱くのではなく、自分の会社のメリットになると前向きに捉えたのです。
上場で社会に影響を及ぼす存在に
上場すると、単に会社のステータスが上がるだけでなく、世間からの注目度が大きく変わります。
・これまで見向きもされなかったような大手優良企業から声がかかった。
・地域の有識者会議に呼ばれ、地域を代表する会社として見られるようになった。
・人材採用では、これまで地元からの応募しかなかったのが、全国から優秀な人材が集まるようになった。
などといった声も聞かれます。上場を成功させた経営者は自社だけではなく、社会に影響を及ぼす存在になっていくのを実感されています。
上場する準備を完璧に整えている会社は基本的にありません。そのため、数多くの大きな変化を乗り越えなければいけません。しかし、上場を考える経営者の方々は、ある程度のレベルまで会社を成長させています。皆さん数々の苦労を経験されており「やり切る力」を持っています。
その上で上場を成功させるには、経営者が「素直」に変化を受け入れる姿勢が改めて大事になってくると感じます。
上手に自分や会社を方向転換できる経営者ではないと上場の準備は前には進んでいきません。
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