ラーメンまで!?「柿の種」阿部幸製菓が連続M&Aしている納得の理由

2026.01.05
バーや居酒屋、喫茶店などで目にする「柿の種」。その多くは新潟県で作られています。特に「業務用柿の種」を強みとするのが、同県小千谷(おぢや)市に本社を置く、阿部幸製菓です。
同社は2018年ごろから、後継者のいない企業を引き継ぐ「承継型M&A」を加速。米菓、和菓子、ラーメン店など、現在までに8法人をM&Aでグループに迎え入れています。地方の老舗が長い年月をかけて育ててきた「おいしいもの」を、グループ経営という手法で後世へとつなぎながら成長を実現しています。

この人に訊きました

経営方針はブランド開発+承継型M&A

阿部幸製菓は、創業1899年・設立1964年の老舗です。

創業以来、「世界中の人々に笑顔の輪を、私たちの食品を通じて広げてゆきたい」を理念に事業を展開してきました。

事業はコメの卸売にはじまり、手焼きせんべいやあられの製造を開始。昭和30年代から「柿の種」の製造を開始し、1969年には主力商品となる「ソフト柿の種」を開発しました。

現在までに食品製造・販売のほか、米粉麺を用いた飲食店の運営も手掛け、年商は91.4億円(2024年12月期)です。

同社の強みは、食品メーカー向けに大容量で納品する、業務用の柿の種における圧倒的なシェアです。

同社の工場で製造した柿の種を大ロットで他の食品メーカーに納品し、仕入れたメーカーは自社製品として販売します。

このため、阿部幸製菓の名前が消費者の目に触れることはほとんどありませんが、お店などで日常的に口にする柿の種は、同社の製品である可能性が高いのです。

3代目となる阿部幸明社長は2011年に入社。リーマンショックの余波から、当時の売上高は50億円程度の横ばいが続いており、業績は厳しかったと振り返ります。

そこで阿部社長が取り組んだのは、阿部幸製菓の今後の成長を目指した「価値観の明確化」と「経営戦略の具体化」です。

日本の食が抱える課題、例えば食料自給率の問題、中小企業の後継者不足、地方の衰退などに対し、自社の事業を通じてどう貢献できるかを追求し、ビジョンと戦略を打ち立てました。

同社は中期ビジョンに「おコメと和の嗜好品メーカー」をかかげ、日本の食文化を継承し、世界へ発信していくことをミッションとしています。

事業拡大のための経営戦略は、ブランド開発と承継型M&Aです。

「柿の種のオイル漬け」

■ブランド開発
ブランド開発において代表的な例は、2018年発売の「柿の種のオイル漬け」。累計販売数100万本を超えるヒット商品となりました。

ほかにも「ゴディバ」とコラボした柿の種チョコレートや、柿の種を天ぷらにしたスナックを発売するなど、自社の製品を活かしたブランド開発を手掛けています。

■承継型M&A
承継型M&Aでは、信越地域のさまざまな食品加工会社を仲間に迎え、グループ経営を推進しています。

背景には、地元企業の後継者不足があります。伝統を重視する企業ほど「こういう商品は作ってはだめだ」「こういう場所で販売してはだめだ」という考えが働きやすく、新商品開発や販路拡大ができずに、伸び悩む傾向があります。

「歴史や技術、味という素晴らしいものを持っているにもかかわらず、それがかえってプライドとなり、抜本的な手が打てないケースが散見される」と、阿部社長は言います。

そこへ、阿部幸製菓が人材や販路、調達、経理や生産といったノウハウとシナジーを入れることで、味を守ります。

オーナー経営からグループ経営へと転換することで、地元で脈々と受け継がれてきた伝統の味が将来世代に伝承されていくのです。

承継型M&Aを検討する3つの判断基準

同社には承継型M&Aを検討する際の明確な判断基準があります。それが以下の3点です。

■M&Aの基準①『米、米粉、新潟、日本の食』という事業領域

2018年から2025年までにグループインした企業を見ていくと、すべて食品の製造・販売を行う事業者であり、和菓子や米菓、麺にかかわる企業に特化しています。


■M&Aの基準②グループ内でシナジーが生み出せる

承継型M&Aにより、どのようなシナジーが発生するのでしょうか。

まず最も重要なのが、「人と技術」の承継と共有です。 阿部幸製菓は、本体で育成した製造管理者をグループ企業へ出向させます。「技術の承継」を担うと同時に、本体とグループ企業の「架け橋」として改善活動を推進します。

つぎに、バックオフィスの合理化です。経理、発注業務、物流といった管理部門の機能をグループで集約・合理化し、経営効率を高めます。

最後に、生産や販路の相互活用です。

例えば阿部幸製菓と浪花屋製菓の製造する柿の種はそれぞれレシピが全く異なりますが、片方の生産が追いつかない場合は、もう片方が生産をサポートできる体制を整えています。これにより機会損失を防ぎます。

さらに、阿部幸製菓本体の流通網にグループ企業の関連商品を乗せたり、逆にグループ会社の流通網を活かしたりといった拡販を試みることもあります。

■M&Aの基準③食べておいしい

2020年にグループ入りした紅屋重正(べにやしげまさ)は地元で220年続く老舗和菓子店です。

紅屋重正 公式ホームページより

紅屋重正では、大手饅頭という酒饅頭が一番の目玉商品なんです。M&A前に全国から有名と言われる酒饅頭を取り寄せて食べ比べてみたのですが、紅屋重正が圧倒的に美味しかったんです。

この技術と味を、次の未来に残し、繋げていくこと。

この哲学が、買収後のPMIを支える基盤となっています。

なぜ「ラーメン店」をM&Aしたのか

これら3つの基準を象徴するのがラーメン店「東横」のM&Aです。


東横は「新潟5大ラーメン」に数えられる、割りスープとともに食べる濃厚味噌ラーメンで地元から強い支持を集めていました。

しかし、「昔は美味しかったが、味が変わった」という声が顧客から出てくるなど、経営は一時期迷走状態に。2023年には、新潟地裁に民事再生法の適用を申請しました。

そこでスポンサーに名乗りを上げたのが阿部幸製菓でした。麺の一部を米粉にする取り組みを行っており、親和性が期待できる上に、新潟の味を守るというビジョンにも合致しています(参考:日本経済新聞)。同社のM&Aの3要件を満たしていたのです。

2024年春からグループ内で再起動を図りました。その施策はシンプル。「過去のレシピを引っ張り出し、本来の東横の味に忠実に戻すことを徹底しました」(阿部社長)

さらに2025年には「東横ラーメンスナック 元祖新潟濃厚味噌風味」を製造販売するなど、グループシナジーを活かし、顧客が再び東横に戻ってくる導線を作り上げています。

承継型M&Aを成功させる「タネ」とは

なぜこれほど多様なM&Aを次々と実行できるのか。その理由は、同社の「常に新しいことに挑戦する精神」と、それが生み出す「働きがい」の仕組みにあります。

同社は創業以来、新しい物事を積極的に取り入れる精神に富んでいます。

祖父の代から『人と違うことをやれ』『差別化しなければいけない』という考えを非常に大事にしてきました。
祖父は、1970年代はじめにはポテトチップスの試験製造を開始し、販売まで手掛けるなど、新しいものを創造することに力を入れていました。
先代の父も新しいことに次々挑戦することを重視しており、惣菜店、100円ショップ向けの鏡餅の製造などの新規事業を進めてきました。
いまでも、現状維持は衰退であるという考え方のもと、社員が提案してくるものを否定しないで、失敗を恐れずどんどん挑戦する精神を大切にしています。

こうした創業以来の歴史を追い風に、会社のスタッフも、承継型M&Aの試みに理解を示しているといいます。

さらに、承継型M&Aを続けることで、事業が拡大していき、グループ企業の経営を任せるポストが生まれます。実際、今年からグループ会社の社長を、徐々に社員へバトンタッチするように。

この「社長になれる可能性」が従業員のやる気につながっていきます。

阿部社長は「日本の食は自信と誇りをもって世界で戦える分野の1つ」と断言します。今後は、ブランド開発・M&Aを軸に、海外販路を拡大するなどして、2035年に売上高200億円を目指していくとしています。

■会社概要
会社名 阿部幸製菓株式会社(英語表記 Abeko-Seika Co.,Ltd.)
設立 1964年(昭和39年)5月6日
事業内容 米菓製造、惣菜製造販売、鏡餅製造、食品販売
資本金 4,500万円
代表者 代表取締役社長 阿部幸明
従業員数 344名(2024年12月期)
所在地 〒947-8585 新潟県小千谷市上ノ山4-8-16
公式HP https://www.abeko.co.jp/