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ストレス社会から従業員を守る 新たなサービス「リワーク」

2024.10.29
健康経営が浸透するにつれ、健康経営支援サービス分野で新たな事業が生まれています。その多くが産業医の派遣や健康診断代行、ストレスチェックなど従業員が不調になるのを「未然に防ぐ」サービスで、健康経営に関連する展示会にも数多くの企業が出展していました。

しかし、予防をしていても不調に陥ってしまうことはあります。ストレス社会と言われる現在、従業員がメンタル不調で休職してしまった際の復職支援サービスを提供する企業を紹介します。

インクルード株式会社(東京都渋谷区)が運営する「ニューロリワーク」では、メンタルヘルスの不調で休職している従業員が職場に復帰するための支援プログラムを提供しています。障害者就労支援施設・リワーク施設での勤務、運営経験がある、同社の副本部長兼ゼネラルマネージャー・山川隆司さんにお話をうかがいました。

休職者が復職後も就労継続できるために

◆「リワーク」について

休職中の従業員が円滑に職場復帰できるよう支援するのが「リワーク」です。私たちは運営するリワーク施設で職場復帰に向けたリハビリテーションを行っています。

実は、このようなリハビリを受けないまま休職者が復職した場合、その後の就労継続率は低くなる傾向にあり、復職1,000日後の就労継続率は2割以下とのデータがあります。リワークを受けることで同就労継続率は7割弱に上昇し、比較すると継続率に3.5倍の差があるといえます。

メンタルヘルスケアにおける予防医学には3つの段階があります。

1次予防の「未然防止」(ストレスチェックなど)

2次予防の「早期発見・治療」(産業医の配置など)

ここまでは実施している企業も少なくありませんが、

3次予防の「リハビリ・職場復帰」はご存じない方も多いでしょう。

健康経営では不調になるのを「未然に防ぐ」ことが大事であると叫ばれています。しかし、ストレス社会と言われる現在、誰もがメンタル不調を起こしやすい状況にあり、不調が起きることを完全に防ぐのは非常に難しいと感じます。

もしも従業員がメンタル不調に陥ってしまった場合、必要になるのが3次予防です。企業側には、従業員が再び会社に戻れるよう、リハビリ・職場復帰の支援をすることが求められています。

職場復帰支援の窓口となるのは、主に総務や人事部門ですが、彼らは通常の業務と並行しながら、それらの業務もこなす必要があるため、手厚い対応ができないという悩みを抱えていることも多いです。そこで、私たちがリワークという形でサービスを提供することで、職場復帰支援に人員を割くのが難しい中小企業などに3次予防の支援を行っています。

専門施設で最短3ヶ月かけ「働き続けられる」土台を作る

オフィスのようなデザインにしているというリワーク施設

◆リワーク施設で行っているプログラムとは

リワークのリハビリテーションを行う施設「ニューロリワーク」は関東を中心に全国に16か所あります。

休職中の従業員の方には、そこで脳科学者や精神科医、心理士、運動インストラクターらが監修したさまざまなプログラムに取り組んでいただいています。

たとえば、コミュニケーションの方法を学ぶプログラムでは、メンタル不調の原因の多数を占める人間関係の問題を深掘りします。他にも、休職中に乱れた生活習慣を整えるため食事や睡眠の仕方を学んだり、運動など体を動かしたりするプログラムも揃えています。

カリキュラムの様子。講師を務めるのは山川隆司さん

このようなカリキュラムを月曜から金曜まで受けていただきながら、復職に必要な準備を整えていきます。会社と全く同じことをするのではなく、再び働くために必要な土台の準備を一緒に行っていると考えてください。

基本的には以下のステップ 1~3の順で進んでいき、全てをクリアして、リワークを卒業するのは最短でも3ヶ月ほどかかります。

ステップ1「生活習慣・健康状態を整える時期」

ステップ2「休職原因分析や再発予防準備時期」

ステップ3「復職間の負荷を確認する実践時期」

経営者の方にとっては、期間が長いと感じられるかと思いますが、メンタルヘルスは目に見えないため、復職の判断が非常に難しい部分があります。しっかりリハビリテーションを行いながら準備をしていく必要があるのです。

ゴールは復職ではありません。その後も働き続けられることがゴールであると捉えてください。

利用者は30~50代、管理職も多く

◆サービスを利用している業界や職種について

企業規模は中小企業が多く、幅広い業界、様々な職種の方からご相談を受けています。

私たちのリワークを利用している方の年齢層は30代~50代の方が多く、まさに働き盛りの方が様々な理由で休職されているのが現状です。「役職が上がった後にプレッシャーを感じて不調になってしまった」など、ある程度の役職になられた方からのご相談もあります。

メンタル不調の原因で最も多いのは人間関係の悩みです。会社は人で成り立っていると考えると、人間関係の問題が最もストレスが起こりやすい部分であると感じます。次いで多いのが業務関係です。業務量や仕事が自身に合う・合わないといったことを負担に感じてしまう方もいます。

精神疾患患者は増加傾向、人材の確保が課題

◆今後リワークが重要になってくる理由

厚生労働省の調査によると、精神疾患の患者数は年々増加傾向です。それが今後減っていくとは考えにくく、増えることが前提になっていきます。それに伴い、精神疾患からの回復、再発予防、安定就労へと導くことの社会的ニーズは高まっていくと考えます。

精神疾患は、重篤化してしまうと入院したり、最悪の場合働けなくなってしまったりする可能性もゼロではありません。そうなると企業はただでさえ減りゆく人材の中から再び人を採用しなければならず、更なる育成のコストとマンパワーを割く必要があります。

従業員がメンタル不調に陥っても会社を辞めることなく、治療やリハビリを通じて安定的に働ける状態に戻すことができるリワークが今後、非常に重要になっていくと感じています。

なお残るメンタルヘルスへの偏見

◆経営者が知っておくべき従業員のメンタルヘルス

日本では人口に対する精神疾患患者数は約5~6%であるのに対して、アメリカは18%~20%とのデータがあります。一見すると、患者数は日本よりアメリカの方が多いです。しかし、先進国の7カ国での自殺死亡率が最も高いのは日本です。

私がこのデータから感じているのは、日本と海外では精神疾患の考え方に違いがあるのではないか、ということです。

海外は健康経営を含めて、メンタルヘルスに対する考え方がかなり進んでいると考えます。精神医療が進んでいるからこそ、患者は適切な時期に治療を受けられており、重篤化せず、自殺率も少ないのではないか。メンタル不調になったとしても、回復して再び働けられる方は多いのではないか。

おそらく、日本にはまだ精神障害に対するアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)があると思います。

従業員側は、休職すればキャリアが途切れてしまったり、会社に迷惑がかかったりしてしまうと考える傾向にあるでしょう。経営者側も、メンタル不調になる従業員を面倒だと考えがちです。その方に退職してもらい、新たな人材を探した方がいいのではないか、との考えは少なからず残っていると思います。

しかし今後、メンタルヘルスの不調をきたす人は増えることはあっても、減ることはないと考えます。メンタルヘルスの不調に陥ったとしても、きちんと働ける状態に戻せる環境を整備していかなければ、人材の確保そのものが難しくなっていくでしょう。

適切な治療とリハビリ=「リワーク」によって、休職した従業員を再び働ける状態に戻すことが可能です。私たちは「メンタル不調に陥っても大丈夫」という考え方を浸透させていき、日本でも早期にメンタル不調の相談や治療ができる体制が整っていくことを目指しています。

健康経営が進む中、企業側に変化も

今年、健康経営に関連する展示会に初めて参加しました。そこで、非常に多くの企業に来訪いただきました。企業側は、休職した従業員に対するリハビリなどの復職支援に関して、これまで以上に課題感を持っていると感じています。

高齢化が進み、働く人材はどんどん減っています。これまで手塩にかけて育成してきた従業員がメンタル不調で働けなくなってしまうのは、企業にとって非常に大きな損失です。より多くの企業、経営者の方にリワークを知っていただき、世の中が変わっていくことを願っています。

取材協力 運営会社:インクルード株式会社 運営施設:ニューロリワーク

メンタルヘルス対策における職場復帰支援は、厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」でも解説されています。