新規事業の成功確率を高めるための戦略〜スモールスタートと量産の時代

2026.01.13

新規事業の立ち上げは、多くの経営者にとって大きな挑戦です。起業家・プロジェクトメーカーとして知られる金杉肇氏は、今の時代、スピード感をもってスタートさせることが成功のカギだといいます。では、どのようにしてそれを進めていけばいいのでしょうか。『プロジェクト大全』(日本実業出版社)著者でもある金杉氏に新規事業の立ち上げ方を聞きました。

新規事業の成功確率は30% AI時代の新しい戦い方

※画像提供:PIXTA

新規事業の立ち上げは、かつては、膨大な予算と人員を投入し、綿密な計画を立てることが成功の鍵とされてきました。特に大手企業の新規事業立ち上げはそれが顕著でした。リスクを最小限に抑えるため、完璧を求める傾向が強く、意思決定にも多大な時間を費やしていました。

しかし、デジタル時代の今、その常識は大きく変わりつつあります。最大の要因は、情報伝達と市場テストのスピードです。そのため、大企業の新規事業の立ち上げも大きく変わりつつあります。数ヶ月を要していた市場調査は現在、AIの登場でフリーツール(ChatGPT、Wix、Canva)の登場により、専門家に依頼せずともできるようになりました。

マーケティング1つをとっても、顧客の反応は、ランディングページやSNSを通じて瞬時に把握できるようになりました。例えば、ウェブサイトを立ち上げ、適切なツールを使えば解析は即座にできてしまいます。

技術の進歩は、新規事業の初期投資コストを劇的に下げてくれたのです。

新規事業のためにチームを組み、何ヶ月もかけてマーケティングをするという従来のやり方をしなくても、たった一人でも新規事業をスタートできる時代となったのです。これは中小企業にとっても朗報です。新規事業を気軽に始めることができるからです。コストは低コストですみますし、かける時間も短くてすみます。プロダクトを作る時のプロトタイプも、驚くほど速くできてしまいます。

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この恩恵を最大限に活かすための最も重要なキーワードは「MVP(Minimum Viable Product)」と「量産」です。従来の大規模投資型のプロジェクト運営から、小さく、素早く、柔軟に事業を立ち上げる手法へと、多くの企業が移行しています。

ここで、新規事業の成功確率について、現実的な数字を押さえておきます。一般的に、新規事業の成功率は30%程度と言われています。つまり、3〜4本の事業を立ち上げれば、1本は成功する可能性があるということです。

重要なのは、この「1本」にこだわることではありません。これまでは、テストを何度も繰り返し、「コレこそは!」と思う1つの事業に力を注いで試してみるというのが事業立ち上げの主流だったかと思います。今はむしろ、複数の小さなプロジェクトを同時に走らせ、市場の反応を素早くキャッチすることが成功への近道となっています。

こう話すと、経営者の人の中には「ではいったい、どうやって新規プロジェクトを量産するのか?」とたずねてくる人がいます。どのようにするかは、社内にどんな人材がいるかによっても変わると思います。一人1本のプロジェクトを複数人の社員が立ち上げることもあるでしょうし、力のある人がいるなら、一人が複数のプロジェクトを立ち上げて、量産するのでも構いません。

■MVPのポイント
① 最小限の機能(本当に必要な要素のみに絞る)
② ユーザーが実際に使える状態にする
③ フィードバックを基に改善を繰り返す。

継続かピボットかは3か月で見極める

では、実際にどのように行うのか。MVP型プロジェクトでは、企画→開発→公開→評価の4つのフェーズを繰り返しながら短期間で市場に適応し、事業の成功確率を高めていきます。

この時、プロジェクトは、できる限り少人数(1〜3人)で立ち上げます。大企業のように多くの人員や予算を投入する必要はありません。むしろ、小さく始めることで、リスクを最小限に抑えられます。

また、初期の段階で、なんらかのランディングページを作ると有効です。市場の反応を即座に測定するツールとして、ランディングページは非常に便利だからです。デザインにこだわりつつ、シンプルな機能に絞ったページを作成し、アクセス解析を行うことで、顧客の興味や反応を把握していきます。ChatGPTやWix、Canvaなどの無料ツールを最大限に活用すれば、専門家に依頼するよりも、自社で素早く、低コストでランディングページを作成できます。

例えば、世界的に広がりを見せている宿泊シェアサービス「Airbnb(エアビーアンドビー)」も、始まりはとても小さなことでした。サンフランシスコ在住の創業者たちが、家賃の支払いに困ったことを発端に生まれたサービスでした。サンフランシスコでデザイン会議が開かれる時期、宿泊場所に困る旅行者が多くいることに気がつきます。そこで、自宅を短期間レンタルすることを思いつき、シンプルなウェブサイトを作り、宿泊希望者を募ったのです。実際に3人の旅行者に利用され、ニーズの存在を確認、事業化にいたりました。

未完成のプロダクトを市場投入し、失敗から学び大きく成長した会社もあります。

Instagramは「Burdn」というチェックイン機能つきのSNSとして開発されたのがきっかけです。「Burbn」は当初、市場からのウケは悪く、利用者は伸び悩みました。失敗を分析した結果、利用者は直感で使えるものを求めていることが分かります。さらに分析を進めた結果、最も使われていたのは写真投稿機能でした。そこで、写真共有に特化したSNSとしてピボット(方向転換)したところ、爆発的にユーザーが増えていきました。

ピボット(方向転換)は、小さく始めていたからこそ気軽にできるという側面もあります。

では、いったいどのくらいの期間でプロジェクトをそのまま続けるか、方向転換するのかを見極めたらよいのかという質問を受けることがありますが、新規事業の初期評価は、3ヶ月を目安に行うのが良いと思います。

なぜなら、Instagramの例を見ても分かる通り、新規事業は不確実性が高く、最初の仮説が外れることも多いものです。早い段階で方向性を見極められれば、効果の薄い領域に時間や資金を投じ続けるリスクを防ぐことができます。「うまくいかない」と分かること自体が重要な学びですから、失敗しても落ち込む必要はありません。撤退や方向転換を早く判断できれば、被害は最小限に抑えられ、うまくいかないことのデータを蓄積できるので、これも大きな学びとなります。そして、最も重要なのは「やるかやらないか」の意思決定です。

テクノロジーの進化により、かつてないほど新規事業に挑戦しやすい環境が整っています。スピード感を持ち、柔軟に挑戦し続けることが、これからの経営者に求められる資質です。MVPのアプローチは、デジタル時代の新しい戦略だと思っています。重要なのは、プロセス自体を学習の機会と捉え、柔軟に対応する姿勢です。失敗を恐れず、スピーディーに挑戦を繰り返すことで、イノベーションを加速させることができるのです。

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 金杉肇

起業家/プロジェクト専門家。ドワンゴほか20社を超える企業の経営に参画。クリエイティブ、エンタメを中心にした企業の新規事業や多業種に渡るプロジェクトを数多く立ち上げる。著書に『プロジェクト大全』(日本実業出版社)、共著に『マネーと国家と僕らの未来』(共著:堀江貴文・茂木健一郎、廣済堂出版)がある。lit.linkはこちら

※執筆/社長onlineパートナーライター宮本さおり