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やる気ある社員を引き寄せる「社長の言葉」の伝え方

2024.06.19
企業が長期的にビジネスを継続していくためには、組織の中で活躍してくれる人材を採用し、定着してもらうことが大切。
ですが昨今の人手不足で、人材獲得競争はさらに厳しくなることが予想されます。採用力を高め、良い人材を引き寄せるためにはどうしたらいいのでしょうか?

2024年は、約8割の企業が賃上げを予定

社員の離職率が高い、ミスマッチ採用が多い、社員の愛社精神が低くモチベーションが下がっている……。いつの時代もこうした悩みを抱える経営者は多いものですが、昨今の人手不足によって、人材確保はさらに難しくなっています。

帝国データバンクの調査によると、企業の約5割が人手不足だとされています。業種を問わず賃上げの波も到来しており、優秀な人材を他社に取られまいと、給与で対抗しようと考えるかもしれませんが、行うのがそれだけではおすすめできる戦略ではありません。


次の表は、2024年における市場全体の賃上げ予定状況を示したものです。

引用:東京商工リサーチ 2024年度「賃上げに関するアンケート」調査

産業を問わず「賃上げ予定」と回答した企業が、そうでない企業を上回っています。産業別で見ると、製造業では88.6%、建設業では87.84%、全産業を通しても85.65%の企業が賃上げを予定しています。また、正社員だけではなく、アルバイトや契約社員についても賃上げが繰り返されている状況です。


「人手不足」という状況が続く中、長年にわたって上げられずにいた給与を引き上げ、人材を集め、なんとかビジネスを遂行しようとする企業が増えているわけです。

給与を上げても、人はついてこない

ですが、賃上げで一時的に人は集まってくるものの、それだけでは人材を定着させることは難しいのが実態です。「人が辞めるたびに、より給与を上げて人を集める」ということを繰り返していけば、中核的な人材も減少しますし、採用コストが重くのしかかります。

そして忘れてはならないのが、「そもそも、お金で人はついてこない」ということです。アンダーマイニング(過正当化効果)という心理現象がありますが、これは「圧力をかけられる・報酬を与えられる」といった外発的動機づけから発生した行動を続けていると、人間はやる気が削がれてしまうというものです。

高額な報酬で人材を確保したり、社員を奮い立たせたりした場合、やる気そのものが報酬と置き換わってしまいます。給与が2倍になってもやる気が2倍になるわけではないですし、給与明細だけが会社と社員をつなぐものだという状態は、お互いにとって健全ではありません。

また、ここ数年で他社も賃上げしていることから、高額な報酬で惹きつけるのにも限界があります。もちろん、あまりにも低い給与には問題がありますが、高い給与を提示することで人を呼び込んだ場合、その人は、より高い給与を提示する会社があれば、その会社に乗り換えてしまうでしょう。

では、給与以外の何を提供すればよいのでしょうか?

人材会社のマイナビが行った調査によると、転職者が重要視している「やりがい」として挙げられているのが次の項目です。

・スキルアップ、自己成長を実感する 34.3%

・昇給・昇進する 33.3% 興味のある分野の仕事をする 27.7%

・自分の働きが直接的に自分への賃金や報酬に反映される 25.1%

・新しいことに挑戦できる 22.8%

・自分の裁量で仕事を進めることができる 21.5%

※引用:マイナビキャリアリサーチLab「転職動向調査」

現代の価値観として、金銭的な報酬以上に、仕事での成功体験や自己成長を重視しているということです。ほかにも、「顧客に評価される(19.6%)」「社会に貢献する(17.9%)」など、顧客・社会に対して良い影響を与えられる仕事かどうかも、重要な要素となっています。

企業は、これらを複合的に提供することで、社員から「自分の居場所はここだ」と感じてもらうことが必要です。

主体的な社員を増やすには?

社長や創業者の価値観・想いを発信することは、企業にとって非常に大切なことです。 特に、創業者の価値観については「創業者精神(ファウンダースピリッツ)」と言われますが、この事業を作り出したころの想い、仕事への向き合い方、理想とする世界など、さまざまな要素が含まれています。 「社長の価値観」や「創業者精神」を伝えることには、次のような効果があると考えられます。 創業者精神(ファウンダースピリッツ)の伝承 – 創業者が掲げていた理想や理念を継承することができる – 会社の方向性を定める、道しるべになる – 大事にしている価値観を共有できる 愛社精神が高まる – 哲学に共感した社員が定着する(離職率が下がる) – 高いモチベーションを持って働く(結果として業績が上がる) – 会社が一体化する

人手不足の現代において、人材の確保・定着の次に考えなくてはならないのが、人材育成です。

 先ほど、「人間は外発的動機づけからの行動を続けると、やる気が削がれる」と説明しました。では、やる気のある社員でいてもらうためには、社員それぞれが「内発的動機づけからの行動を取る」必要があります。内発的動機には、個々の内面から沸き起こった興味・関心や好奇心、コミュニティに属することそのものの価値などが挙げられます。

内発的動機の中でも、今回特に紹介したいのは「価値観への共感」や「一体感」です。この会社が行っている事業が好きだ、社会にとって意味のある事業だ、そもそも経営者の考え方が好きだ。このような意識を持つ社員は、おのずと主体的な行動を取るようになります。

例えば、パナソニック株式会社の例を見てみましょう。ご存じのとおり、創業者の松下幸之助は明治から昭和にかけての名経営者です。しかし、近年の新入社員の中には、松下幸之助を知らない、ナショナル・松下電機という社名を聞いたこともないという人もゼロではありません。

パナソニックでは、一部の社員に社員寮を提供していますが、寮の食堂や本棚に、松下幸之助の著書『道を開く』をさらりと置いているそうです。「会社への理解を深めるために、それが意外と重要な役割を果たしているのではないでしょうか」と同社の人事は語ります。

書籍『道を開く』は、言わずと知れた、松下幸之助の人生観や仕事観をつづった随筆集です。経営者目線であることはもちろん、働き手の目線としても書かれています。新入社員が寮でこの本を手に取り、「仕事とどう向き合うか」「人生とはどういうものか」と考えるきっかけが生まれるというわけです。

こうして松下幸之助の価値観に影響され、共感した社員は、その価値観に沿った行動を取りたいと考えることが自然です。言い換えると「会社が大切にしているもの(=価値観)」に共感することで、愛社精神が育まれるということです。

組織で活躍するのは「価値観に共感している人材」

価値観への共感がいかに大切か、別の事例を紹介しましょう。

昨年夏の甲子園で107年ぶりに全国制覇した慶應義塾高校野球部、監督の森林氏は『Thinking Baseball』という書籍で、自身の野球に対する考え方を著しています。

『Thinking Baseball ――慶應義塾高校が目指す”野球を通じて引き出す価値”』森林貴彦/2020/東洋館出版社

この書籍を読んだ選手が、森林氏の提唱する「楽しんでやる野球」「自分で考える力を育む」という考え方に魅力を感じ、50校以上からの誘いを断り同校に進学したといいます。そして彼は、エースとして慶応高校で活躍することになりました。

このように、経営者(指導者)の思想への共感や共鳴が、活躍する人材のカギだと言えます。そして、そのためにも、まずは経営者(指導者)の思想を社員または組織のメンバーがまず知ること、そして理解することが必要です。

 

社長の価値観(創業者精神)を伝えることのメリット

社長や創業者の価値観・想いを発信することは、企業にとって非常に大切なことです。

特に、創業者の価値観については「創業者精神(ファウンダースピリッツ)」と言われますが、この事業を作り出したころの想い、仕事への向き合い方、理想とする世界など、さまざまな要素が含まれています。

「社長の価値観」や「創業者精神」を伝えることには、次のような効果があると考えられます。

創業者精神(ファウンダースピリッツ)の伝承

– 創業者が掲げていた理想や理念を継承することができる

– 会社の方向性を定める、道しるべになる

– 大事にしている価値観を共有できる

愛社精神が高まる

– 哲学に共感した社員が定着する(離職率が下がる)

– 高いモチベーションを持って働く(結果として業績が上がる)

– 会社が一体化する

採用強化

– 自社の価値観に合った人材を引き寄せる

ブランディング

– 自社の強みや独自性が可視化される

– 集客力が高まる。単価アップや、解約率の減少につながる

– 高い視座で、新たな交友が生まれる

経営者の価値観を打ち出していくことで、人材の確保、定着、社員のモチベーションアップや主体性の育成といった社内への影響だけでなく、ブランド力の向上につながり、ビジネスにおいても有利になります。特に、人材の確保という点においては、特に影響力を発揮します。

一方的に聞かされている状態では、社長の言葉は伝わらない

どの経営者も、社員が定着し、同じ価値観を持って主体的に行動できるようになることを望んでいるでしょう。そのために、さまざまな方法で社員とコミュニケーションを取ろうと考えているはずですが、それでも「全然伝わっていない」というケースが起こります。

例えば、小規模な企業が急激に成長した場合。人数が少ない間は、社員一人ひとりと十分に会話する時間を取ることができますが、この1on1形式でのコミュニケーションは、会社の規模が大きくなるにつれて不可能になります。

自然と、新しく入った社員は、社長と話す機会がほとんどなくなっていきます。そうすると社長の人柄も分かりませんし、創業の目的・社会への貢献意識も、伝わらなくなっていきます。

対策として、朝礼や朝会、1on1ミーティング、社内への標語掲示や、OKR(達成目標)を全員で唱和する……などが考えられますが、あまり効果はないように思います。というのも、これらはすべて受動的なインプットの一部だからです。 命令され言わされている唱和、聞けと言われたから聞いている講演。それらはすべて「受動的インプット」となり、あまり記憶に残らないと言われています。一方、自分の興味関心から自発的に調べて得た知識、自らの手で選び取った知識は、「能動的インプット」と言われ、記憶への定着率が高く、行動に繋がりやすいものです。

これは、先に紹介した「外発的動機づけ」と「内発的動機づけ」の関係にも似ています。

共感を生む「情報量」と「ストーリー性」

そこで、社長の価値観を伝えるのに役立つのが書籍です。情報量が多いことに加え、読むには自ら手に取ってみる必要があります。また、創業からの歴史がストーリー形式であることや、社長の人柄が伝わるような内容であれば、読み手の記憶に残りやすくなります。

とある有名スーパーマーケットを題材した書籍がありますが、その中には、会社の成り立ちや、経営者の理念、顧客への向き合い方などが分かりやすくまとめてありました。

この本の出版後、消費者や取引先への影響もさることながら、社員からの反応が大きかったと聞いています。「会社の成り立ちや、目指していることが良く分かった」「大事にしている価値観が理解でき、ますますこの会社が好きになった」といった社員の声が続出したとのこと。

このように、会社の歴史や経営者の考え方を1冊にまとめることで、社員に対して大きな印象を残すことができるというわけです。

なお、その話には後日談があります。その会社の社長は、寄せられた社員の声がうれしかった一方で、こうも思ったそうです。 「会社の成り立ちや目指していること、大事にしている価値観を、オレは朝礼など事あるごとに話してきたはずなんだが……」

受動的なインプットの効果が低いことが、ここでも実証されています。

まとめ

昨今の人材不足に打ち克ち、ビジネスを継続していくためには、採用のミスマッチを防ぎ、モチベーション高く活躍してくれる人材に定着してもらう必要があります。そのために、経営者の価値観やビジョンを対外的に発信することは、大きな意味があります。

採用活動は、未来の会社を作る活動でもあります。

価値観に深く共感している人が会社に来てくれて、組織の中で活躍してくれれば、これほど嬉しいことはありません。社長がメッセージを発信することは、愛社精神を醸成するための一つの方法とも言えるでしょう。

そして、メッセージの伝え方にはさまざまな手法がありますが、その中でも今回は、情報量の多さ、そしてストーリー性を持たせることができるという意味で、書籍を通じて愛社精神を培った事例について紹介しました。

今回取り上げた本のほかにも、創業者精神・価値観を伝える書籍は数多くあります。人手不足の今だからこそ、改めて読み直し、人々の共感を呼び起こす哲学・価値観はどんなものがあるのか、確認してみるのも良いかもしれません。

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