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社長のキャリアアップに 変わるM&A5つのポイント

2023.07.17
「M&Aで会社を売る」これまではあまりイメージがよくなかったかもしれませんが、実際のところは大きく変わってきています。M&Aの誤解と最新の状況をお伝えします。

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今、市場の変化が激しく、先行きが読めなくなってきている潮流の中で、ありとあらゆる業種において、業界再編の波が押し寄せています。M&A市場が活況となり、上場しているM&A仲介会社の売上と株価も、軒並み右肩上がりです

近年でこそ、懇意にしていた知り合いの中小企業が、事業を売却したり、他社と資本提携したりという例が出てきているので、事業譲渡や企業買収を身近に感じることも増えたという声を耳にします。

他方で、公表されているM&A案件というのは、中堅・大手企業の案件であるため、まだまだ「M&Aは、規模が大きい会社がするもの」との印象を持っている経営者もまだまだ少なくありません。

では、なぜM&Aをするのか。特に中小企業側としては、業容拡大で他社を買収することはわかるが、なぜ今までかわいい我が子のように育て上げてきた会社・事業を、他社に売却してしまうのか。売却する会社の経営者の思考が、理解し難いという方もいるでしょう。

この記事の前半では、なぜ売却するのか?について、住宅不動産リフォーム業界の視点から、一般論と経営者の本音を紐解いてみることにしたいと思います。後半では、M&Aに対する先入観に迫り、経営の選択肢の幅を読者の皆さんに知っていただきたいと思います。そして最後に、M&Aで企業を売却するということが社長のキャリアステップの1つなのだという点について述べたいと思います。

1.事業を売却する7つの理由

画像提供:PIXTA

一般論として言われている売却理由は、2つあります。

①事業承継

親族や会社内に後継者がいない。ただ、廃業してしまうのはもったいない。自分が作ってきた歴史を蔑ろにしてしまうのではなく、会社または事業の名前が残り、経営者である自分は売却益で老後を穏やかに過ごせていけるだけで十分だ。こちらは、経営者が経営の現場から退くパターンです。

②戦略的成長

大手企業の傘下に入らないと、ジリ貧経営の坂道を転がり落ちるだけなのは火を見るより明らか。大手と厳しい戦いを続けるのではなく、グループ会社となれば、仕入力や採用力の強化、間接部門費の圧縮、投資コスト(例えばシステム投資コスト)の軽減など、規模のメリットが得られる。従業員の業務環境や福利厚生も改善する。この場合、多くは、オーナー社長ではなくなるが自分が経営権を持ち続け、事業の旗を振り続けられます。

これらの教科書的な理由のほかに、コンサルティングの現場からわかった、事業売却の背景を5つ付け加えたいと思います。

③アーリーリタイア

特に望んでいたわけではないが、先代から事業を継ぐしか道がなかったので、現在経営者をしている。事業や会社への熱が冷めてきており、会社員からすると憧れかもしれない「社長」というポジションへも、特にこだわりがない。表面上、「社員のため」と言うこともあるが、本音では売却益をもらってアーリーリタイアを希望する。事業継承を考えるには少し早い、40~50代の経営者にあるパターン。

④健康不安

年に1回の健康診断にひっかかった。三大疾病のリスクが指摘され、死を急に身近に感じるようになった。社長である自分がいなくなった後のことを、急に考え始めた。健康不安がある中で、企業を売却すると、値引き材料とされるので、家族にもM&A仲介会社にも告白できなかったが、売却後に本音を打ち明けてくださる経営者のパターン。

⑤事業部売却

住宅不動産系の本業ではなく、サブ事業(例:介護、飲食など)が、外部環境やライフサイクルの変化や市場縮小の壁に当たっている。成長期が終わり成熟期に入ってきたので、いったん利益確定をし、別事業への投資に回したい。会社を丸ごと売ることはしないが、ノンコア事業を立ち上げては売却し、売却益を複利的に新規事業に回していくことを繰り返す、ベンチャー界隈の「エグジット」の発想に類似したパターン。

⑥専門店売却

⑤のパターンの派生形。FCや業態専門店として、ブランドや屋号が浸透している事業は、いざ売却となると、のれん代で売却額が高くつく傾向がある。同じFC内や同一業態専門店に高く売却する動きが近年みられる。不動産系では、大手FC本部が、加盟店をロールアップする動きもあり、今後リフォームや新築でも同様の動きが加速するものと思われる。

⑦強力なNo.2

企業規模が大きくなり、社長である自分が事業1つひとつへの関与度が下がってきた。それに反比例する形で、事業の統括トップを担うNo.2が現場から強大な信頼を得ている。経営者としては、現場における社長の居場所を感じることができなくなりつつあり、一線を退くことを考えた。売却後は、No.2が雇われ社長となり、引き続き事業を推進するパターン。

売却には、会社を買われてしまうなんて……乗っ取られてしまうなんて……社長の座を奪われてしまうなんて……という、なんとなくネガティブなイメージが日本には存在します。その「印象」が、近年のM&Aの動向により覆されてきていると言えるでしょう。その理由は様々でしょうが、M&Aで売却をした会社の社長の顔やエピソードを思い出すと、よく言われるM&A理由①②は表向きの建付けなのだろうと思わざるを得ません。実際には売主となる社長の、したたかな思惑、経営者としての不安、投資家的発想などが、背景にあるのです。

2.M&A売却にまつわる3つの勘違い

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ここまで読んで、M&A、とくに売却するということに対して、「あれ?」「勘違いしていたかも?」と思われた点があるのではないでしょうか。

①「売却後は社長を続けられない」という勘違い

会社を売却すると、社長の座を退かなければならないと思われていることがあります。しかし、それはごく一部。実は、契約内容によっては、傘下に入った後、グループ会社の社長として役員報酬をもらいながら、事業を引き続き推進し、グループ会社間のシナジーで業界へのインパクトを引き起こそうとしている社長も、たくさんいます。M&Aによって、中小零細規模ではできなかったスケールの業界革新を起こすことも、視野に入ってくるでしょう。

②「売却したら自社の良さが消滅してしまう」という勘違い

他社の傘下に入ると、これまで育ててきた社員、築き上げてきた仕組み、そのベースとなる風土や文化などが、1日にして崩れ去るというイメージがあるかもしれません。実際のところ、売却後に社員が活躍のフィールドを広げられたり、専門店や既存ブランドの強みや仕組みを生かしたりして、事業展開を加速させることにつながることもあります。

③「M&Aでは会社を丸ごと売らなくてはならない」という勘違い

会社を丸ごと売るケースももちろんありますが、実は今住宅不動産業界で活発になりつつあるのは、多事業展開している会社の1事業だけを切り出して売却する動きです。主に、メイン事業を売るのではなく、サブ事業を売却する場合です。その売却益を新しい事業の投資に回すという発想で、事業の立ち上げ自体が好きで楽しみたいという経営者もいるほどです。

現在、住宅不動産業界の中小企業の間でムーブメントとなりつつあるM&Aは、「買ったほうが勝ち」「買われたほうが負け」というイメージのM&Aではありません。社長職を失うことなく、よりスケールメリットを生かせる環境に身を移すことも可能になる売却もあれば、事業の立ち上げと売却を繰り返す起業家・投資家を志す場合もあるのです。いわば、M&Aは勝ち負けのゲームではなく、「事業売却する」ということすら経営戦略として欠かせない要素となっています。

3.M&A売却4つのメリット

とはいっても、やはり会社や経営者自身にメリットがなければ、これまで人生をかけて築き上げてきた会社を売るという行動は、簡単にはとれません。では、企業売却・事業売却をした社長は、何にメリットを感じたのでしょうか。

①優良企業にグループインして一気に仕組み化が進む

1つ目は、大手企業の傘下に入ったり、資本提携を受けたりすることで、大手企業のノウハウや仕入れメリットを共有できるようになる点です。中小企業では整っていないことの多い、ビジネスプロセスの仕組み、管理職や新入社員の育成、離職を抑える評価制度、財務体制。これらが、大手のノウハウを注入することで一気に進むことがメリットの1つ目に挙げられます。

②事業間シナジーが生まれる

企業間で顧客を紹介し合えたり、新たな商品を開発できたりといったシナジーが期待できるのが2つ目のメリットです。例えばリフォーム会社が、不動産会社にM&Aで事業売却する場合、不動産会社にとってはリフォーム会社が持つ施工技術を生かして、管理物件の価値向上リノベーションをより低価格で提案できるようになるでしょう。リフォーム会社にとっても、不動産会社から、中古物件の仲介を受けたお客様を紹介してもらい、リフォーム提案を行うことができれば、集客チャネルがひとつ増えたことと同等になります。

③資格者の活躍フィールドを広げられる

M&Aで売却価格が高い会社の傾向として、社員に資格者が多いことが挙げられます。資格は取得するのに時間もコストもかかるので、買い手企業としてはその資格者を手っ取り早く社内人材にしたいという思惑があるのでしょう。これを、アクハイヤー(aquire獲得とhire雇用をくっつけた造語)ということもあります。他方で買い手企業にとっては、規模の大きい会社に合流することで、仕事のスケールが大きくなったり、これまで手掛けたことのないような仕事が舞い込むことで、資格者がもっと活躍できるようになるというメリットが考えられます。

④現金が必要なときの一手

そしてなんといっても、売却すると現金を手にすることができるという点も、人によっては魅力的に映るかもしれません。M&Aと並んで検討される経営戦略にIPOがあります。上場することは、勝ち組や成功者のイメージがありますが、現金を手にするという点ではベストな戦略とは言えないかもしれません。というのも、全株売却がしづらいからです。IPOで得られる利益は、創業者利益として、一部の株売却やストックオプションで得られる利益、そして配当利益くらいしかないのです。他方で、M&Aでは全株売却を実施し、一括で現金利益が得られます。一括売却の場合は、売却益に対して一定の税金がかかりますが、経営者の所得税より全株売却した時の税額が安くなることも往々にしてあるので、全株売却するという選択にメリットがあるということは、実はあまり知られていない事実です。

4.「売ったことに1ミリの後悔もない」売却企業経営者の言葉

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実際にM&Aで会社を手放し、うまくいった例をお伝えします。

首都圏で住宅不動産事業を手掛けるA社は、経営者が健康不安を抱えた際に、跡を継いでくれる子どももいなかったことから、東海地方のB社に事業を売却しました。

以前より同業者の会合などで経営者同士の面識があり、事業に対する考えに共感していたことから「買ってもらうならばぜひあそこに」という思いがありました。

買収する側のB社も、A社に対し「自社にない強みを持つ会社」と敬意を払っていたので、買収の話をもらったときの感想は「うちでいいんですか?」だったそうです。

B社の社長は「A社のよさを、ぜひうちに取り入れていきたい。A社に学ばせてほしい」と語り、A社の社長にも引き続き経営者として残ってもらう形を整えました。

健康不安を理由に売却を決断したA社の社長ですが、現時点で経営への影響はありませんから、新たな会社での経営への参画に意欲的です。

地域の有力企業であるB社に加わったことで、A社が単独ではできなかったスケールメリットを利かせることができるようにもなり、

B社の「A社のよさを伸ばしたい」という方針も相まって、より可能性が広がりました。

「会社を売ったことに、1ミリの後悔もない」

A社の社長はそう語ります。

まとめ

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様々なM&A事案をこれまで見てきましたが、総じて言えるのは、M&A売却は、社長のキャリアステップの1つだということです。

いわば、社長の「転職」に似ているのかもしれません。

年収アップを望んで転職を希望する社員がいるように、自分の仕事や責任の範囲を変えたいと考える社長もいますし、仕事のステージを一気に高めてキャリアアップしたいと考える社長もいるでしょう。

しかし社員のように無責任に会社を畳むわけにはいきません。

だから会社を他社に託すという選択をするのです。

M&Aという選択肢が、中小企業のなかでも一般的になる中で、適切なタイミングで、ベストな経営戦略が取れるよう、参考にしていただければと思います。

船井総研 M&A室

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