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社長のための文章術~経営者の情報発信法

2023.07.18
SNSの発達や飛び交うメール、リモートワークの普及などで、やりとりが「口頭」から「テキスト」に代わる機会が増えました。
それに伴い求められるのが、「社長としての、文章としての情報発信」です。高い効果のある方法を、現役記者が伝授します。

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高まっている「文字で発信すること」の重要性

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皆さんは朝礼や月次の会議、年始の場などで、たびたび社長としての発言、ご自分のお考えを伝えることをされていると思います。

その多くは、社長ご自身の口からの発信ではないでしょうか。

船井総研ホールディングスの代表取締役中谷貴之は「文字で残すこと」の重要性を以下のように語っています。

創業オーナー社長は「テキストベース(文字化)にして社員に発信する」ことはほとんどありません。いわば「言いっぱなし」の状態です。 それを100万回言うことで社員も理解する、それが「昭和の教育」でしたが、令和の時代は、デジタルのテキストベースで残していくことが大事です。 言語化する、誰もがわかるようにする。そうすることで、伝わるスピードも早まり、耳だけでなく目でも見ることで、社員の記憶に残る度合いも上がっていきます

文字化することの重要性を、別の経営者も実感したといいます。誰もが知る有名なスーパーマーケットが、出版社より本を出さないかと言われ、創業からの歴史や会社として大切にしていることをまとめた書籍を出版しました。

その企業がその本を社員にも配ったところ、社員からは以下のような感想が、次々に寄せられたと言います。

「会社が小さな街のお店として始まったころから変わらない大切にしてきたことが、今も受け継がれていることに感動しました!これからもお仕事を頑張ります!」

それらの声を聞き、その会社の社長はとても嬉しかった半面、複雑な気持ちにもなったそうです。 「会社が小さな街のスーパーとして始まったころから変わらない大切にしてきたことを、俺は朝礼や会議などで、ことあるごとにしゃべってきたはずなんだが……」

“話を聞く”のと“文字として読む”では、受け手への伝わり方がまったく異なります。後者のほうが、定着ははるかによいものです。また、“聞く”以外に“読む”も加わることで、受ける側に新たなインプットのルートができるのです。

船井総研の創業者、舩井幸雄は膨大な著書を遺しました。舩井幸雄の考えが広く知れ渡っているのは、やはり文字として存在しているからです。

船井総研のコンサルタントも、時代が変化したなどで新たな対応を考えなければならないときに、舩井幸雄の著書を読むことで「そのときに合った発見がある」といいます。

テキスト、文字が存在することで、読み手への理解が深まり、またのちの時代にも遺していくことができます。 「今の人は文字を読まない」かというと、そのようなことはありません。

スマートフォンの普及やSNSの利用などで、今の時代の人は「文字で読む」機会が増えていて、親和性も高まっています。 社長もぜひ「文字で発信する」ことを大事にし、また行っていただければと思います。

自分で書かない。「話して書いてもらう」

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ここまで読んでいただいた方の多くが、以下のようなことをお考えではないでしょうか。

「とはいえ、文章苦手なんだよな……」

「書くといっても時間が取れない」

多くの経営者が抱える悩みです。

そのようなお悩みの解決策があります。

それは「自分で書かない」です。

社長が自らペンを執る、パソコンで打ち込む必要などありません。社長は伝えるべきテーマを決めて、それを話し、誰かに文章にしてもらえばいいのです。

秘書や、会社の広報担当の方など会社で文章として発信する業務の人に、話した内容をまとめてもらう、それがもっとも手っ取り早い方法です。

社長が行うのは

・テーマを決める 

・そのテーマに基づき話をする 

・作成された文章をチェックし、話した意図と異なる部分に修正指示をする 

です。

ご自分で書くよりも、はるかに手間が省けます。「この形ならできそう」という方も、多いのではないでしょうか。

社長が話して文章化することには、文章が出来上がる以外にも実はメリットがあります。

大きく2つあり、1つは「話す」というアウトプットを行うことで、社長自身の思考が整理されることです。

話すという行為を通じて「実はこういう風に思っていたのか」「こことここはつながっていたんだ」というように、ご自身の考えがクリアになることはよくあります。

また、このような形での発信を続けていくと、だんだんと「わかりやすい文章にしやすい話し方、発信の仕方」を話し手の社長自身も意識するようになります。そうなると、朝礼など口頭での発信の際も、整理された聞き手に伝わりやすい内容になっていきます。それがメリットの2つ目です。

「そうはいっても社内にも頼める人がいないんだよね」という社長のために、宣伝になり恐縮ですが社長onlineでは「社長のためのアウトプットサポートサービス」を行っています。経営者のお話をお聞きし、時には質問も交えることで、アウトプットによる思考の整理をお手伝いするほか、お聞きした内容をまとめて納品するものです。

ご興味のある方は、この記事の最後に問い合わせフォームをつけてありますので、そこからお問い合わせください。

「それでも自分で書く」ためにまず必要なのが「環境整備」

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社長が自ら書く必要はないとお伝えしましたが、すべては誰かに任せていられない、ある程度は自分で書いて発信しなければとお考えの経営者もいらっしゃることと思います。

その方のために、細かい文章のルールや方法論は後半記事でお伝えしますが、まずは大枠の整えたいことについてお伝えします。

文章を書くうえで大事なのは「執筆のスケジュールを決める」ことです。「時間ができたら原稿を書こう」と思っていると、その時間は永遠に来ません。

たとえば社内報に掲載する原稿の依頼があるとして、当然「○月○日までにお願いします」と頼まれるでしょう。

締め切りがあることで、「いつまでに書く」が決まります。

締め切りがなく書くものに関しては、締め切りを自分で定めます。「○日に原稿を渡すから載せて」というように、周りに宣言するのも効果的です。

締め切りを決めるのと同じように大事なのが「執筆に集中する時間を確保する」ことです。原稿というのは「空き時間に書く」ことができないものです。

ある作家は「原稿を書くときは、脳を執筆モードにする」といいます。その間はメールも見ず「今は話しかけるのを禁止」とするなどして、ほかの情報を遮断して書くことだけに集中するのです。

プロの記者も「1日のこの時間は原稿を書く」と決めている人が大勢います。プロの人間でも、原稿を書くためには環境を整備しているのです。書くのが本業でない方はなおのこと「自分が書きやすい状況をつくる」ことを意識していただきたいと思います。

締め切りと執筆に集中する環境を整えたならば、最後に考えたいのが「文章作成に対する自分のタイプを知る」ことです。

執筆に関して、世の中には大きく2つのタイプがいると私は考えています。1つは「頭の中で考えに考えて、まとまってからアウトプットするタイプ」で、もう1つは「まずアウトプットして、整理しながらまとめる、完成を目指していくタイプ」です。

文章作成のプロは頭でまとめ切ってから一気に書く、という人もいますが、文章作成を生業としない多くの人は後者に属します。

文章は、いきなり完成する必要はありません。まずは手を動かしてみて、日本語がおかしい、論理がつながっていない、続きは何を書いてよいかわからなくなったなど、やってみたからこそわかることがたくさんあります。

やってみてわかったことに、その都度対処する。そのプロセスを繰り返して、文章を完成に近づけていきます。

みなさん「しっかりしたものを書かなければ」と力が入り、それが動きを遅くし、また面倒だからやりたくないと考えがちです。

試し書きは、誰かが見るものではありませんから、何度でも行えばよいのです。その繰り返しを経て、よい文章へと仕上がっていきます。

書くために押さえたい6つのポイント

社長自身が原稿を書くほかにも、社長の名前で書いてもらうために話をする、上がってきた文章を直す際にも役立つ内容となっていますので、書くことは完全に任せている社長も、ぜひご参照いただければと思います。

ポイント①「構成」を固める。文章における構成は、家を建てる際の設計図

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「文章を書くのが苦手」と言う人の多くに、どのように書いているかを聞くと「いきなり文章をパソコンで打ち込んでいる」ケースがよくあります。

それで書けないのは当たり前で、文章作成に必要なのは下準備です。

文章作成において大事な下準備が「構成を固める」ことです。構成は、家を建てる際の設計図に当たります。

設計図なしに、なんとなくの場所に釘を打ち始める人はいないでしょう。文章も同じで、まずは「どのような内容を書くか?」をしっかり考えます。

構成を固めるのは、時間をかけて構いません。むしろしっかりした構成が固まっていればいるほど、書くのは簡単になり、結果的に時間も短く済むのです。

「書きたいことがしっかり決まった。あとは手を動かすだけ!」と言い切れるくらいに構成を練る、固めることを、行っていただきたいと思います。

ポイント②話すように書く、粗くてよいので最後まで文章を作成する

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文章が苦手な方はまじめで「しっかりしたものを書かなければならない」と考える傾向があります。

そのような方へのアドバイスは「話すように書くのでOK」です。

構成をしっかり固めたならば、伝えたい内容はもう頭の中にあるはずです。それを、人に話すように文章にしてみます。

細かい日本語の間違いや、表現として適切かといったことは、一切考える必要はありません。

伝えたい内容をすべて一度話して録音し、それを文字起こしするのでも構いません。

文章作成において大事なのは「まずは粗いものでよいので一度最後まで形をつくる」です。文章が苦手な人はよく「この部分は調べないとわからない」といった部分が出てくるとそこで止まってしまうのですが、わからないならば「ここはあとで調べる」というようにして、まずは最後まで終えることが大事です。

一通り文章ができると、すべての要素があるからこそ見えてくるものがあります。また、「ここは調べないと」と後回しにした部分が、全体を見渡してみると不要になることもあります。しっかり調べた箇所でも、使用しなければ調べた時間も労力も無駄になります。まず最後まで終えるのは、そのような余計な作業をしないためでもあるのです。

ポイント③解釈の分かれる表現をしない。主語と目的語を省かない

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まずは最後まで文章を作成したならば、その内容を見返します。読み返してみると、いろいろ直したいところが出てくるものです。「この部分はちゃんと調べられていない」「論理がつながっていない」「表現が稚拙」などなど。

そのようなところを直していきます。文章はいきなり完成しなくてよいので、何度でも読み返して直していく、そのつもりで書いてください。粗い文章でも、ご自分以外に誰かが見るものではありません。

文章のプロでも一発で完成することはまずなく、見直し、書き直しに時間を割いています。

文章の見直しをする際に気を付けていただきたいのが「解釈の分かれる表現になっていないか?」です。

政治家が失言に対し「そのような意味で発言したわけではない」と釈明している場面をよく見ますが、文章は受け手がどう解釈するかがすべてです。

特に社長の文章は、間違った意味で解釈されると多大なマイナスが生じます。

なぜ解釈が分かれる文章になるかというと、省略されているからです。たとえば

私とA社長が話し合い、M&Aをしました。

という文章があるとします。上記の文章では、「M&Aをしたのが誰か?」が書かれていません。

私がしたのか、A社長が行ったのかで、解釈が分かれてしまいます。

なぜ解釈が分かれるのかというと、「省略」がされているからです。解釈を分かれさせないためには

私とA社長が会い、私の会社がA社長の会社をM&Aしました。

というように、主語や目的語をきちんと書く。そうすれば、そこに解釈が分かれる余地はありません。

話しているのであれば、主語や目的語をいちいち言うのは「くどい表現」になりますが、文章は解釈を分かれさせないために、しっかり主語や目的語を入れることが大事です。

なお、会話と文章の違いとして「文章は会話よりも受け手の情報量がはるかに少ない」ことを知っておいていただければと思います。会話においてはやりとりが1回で終わらず何度も行っていることが普通ですから、1回の発言で主語や目的語を省略しても、トータルのやりとりで間違いのないように伝わるものです。

それに対し文章は、相手に伝える情報の量がその文章しかありません。そのため、そこで省略があると、相手に伝わる情報に不足が生じてしまうのです。

そのような違いがあることを、ご認識ください。

ポイント④口語と文語を、シチュエーションや読む人に分けて使い分ける

会話と文章で違うものに、使用する言葉があります。会話で使用するのが「口語」文章で使用する日本語が「文語」です。

以下は文語と口語の違いの一例です。詳しく知りたい方は「文語 口語 違い」などで検索していただくと、実際のものが数多く出てきます。

文語と口語の例として、以下のようなものがあります。

文語も口語も、どちらも日本語として正しいのですが、文章において口語が多いと、全体的に「軽い」印象を与えます。

文語も口語も、どっちも日本語で正しいんだけど、文章じゃ口語がたくさんだと、やっぱりなんか変な感じじゃないですか?

文語は対外的に発信するものや、社内の公式文書用の言葉です。逆に、公式なものでなければ、口語でも構いません。

特に今の時代、SNSなどで口語の使われている文章に触れる機会が増えていますから、口語の文章でも受け入れられやすくなっています。

文章作成の基本は「誰に向けて書くか」です。

社長が社員に親しみやすさを感じてもらいたければ、あえて口語を盛り込んでみるのも1つの方法です。

ポイント⑤推敲する。「社長の文章としてふさわしいか?」を誰かに見てもらう

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とはいえ、いくら親しみやすさを出したくとも、あまり軽い表現を用いて「社長は正しい日本語も使えない」と思われては、社長としての威信に関わります。

発信する前に「社長の発信するものとして適切な形になっているか?」を意識していただきたいと思います。

ここでも行うべきは「推敲」発表をする前に、この内容で問題ないかをしっかりチェックします。

できれば事前に誰かに見てもらうようにしましょう。

上場企業であれば、社長の発信するものを広報や秘書が事前に見て、その内容を発信してよいかをチェックしています。

経営者の発信するものは株価に影響しますから、社長のアウトプットがマイナスに作用しないための形が整えられています。

社長の発信の重さは、上場していようといまいと同じです。特に文章は残りますから、社長の思っていないところまで広がっていく可能性があります。

そのときに違う解釈をされた内容が独り歩きしてしまうと逆効果です。この記事の前半でテキストとして発信することの重要性をお伝えしましたが、発信はマイナスに作用する可能性もありますから、適切なコントロールをしていただきたいと思います。

ポイント⑥「読ませる文章」「面白い表現」は不要

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最後に、まじめな人ほどやりがちな注意点について触れておきます。まじめな人ほど「読む人のために、何か気の利いたことを盛り込みたい」「読み手が面白いと感じることを書きたい」と考えがちです。

単刀直入に申しますと、社長の文章に「面白いこと」は一切不要です。

メディアの記事であれば、読ませるために目を引くタイトルをつけたり、記事を読ませるための表現を多々用いていますが、それは興味のない人を引き付けるためで、社長の文章は、発信者が社長の時点で社員や関係者は自然と読みます。

面白いかどうかなど考えず、真剣に読むものです。

「政治家の失言」がどういうときに起きているかというと、その政治家の後援会のスピーチのような場面のことが多いです。

その場には味方しかいない、何か気の利いたことを言うのが求められている、そう感じて余計なことを話す、が失敗のもとです。

同様に気を付けていただきたいのが「たとえ」です。発言に批判が集まる「炎上」の多くは「たとえ」が原因で起きています。

「生娘をシャブ漬けに」という発言が問題になり、発信者の所属する会社のイメージを大きく下げた事件がありました。

私が発したものではありませんので詳細は省きますが「牛丼になじみのない若い女性向けのマーケティングをする」という趣旨は間違っていないと考えられますが、たとえの内容が問題視されました。

「気の利いたことを書こう」と思わないこと。それを肝に銘じていただきたいと思います。

社長のための文章術、実際に書くためのポイントを6つお伝えしました。トップの発信するテキストは力がある分、よい方向に働くようにしたいところです。

経営者の方が文章を書かれる際、文章のチェックをする際にご参照いただければ幸いです。

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