常夏のハワイで“ダウンジャケット”は売れる?柿内尚文著『このオムライスに、付加価値をつけてください』 を5分解説
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2026.07.07
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- 今回の「速読・経営バイブル」では、著書累計55万部以上のヒットメーカー・柿内尚文氏の『このオムライスに、付加価値をつけてください』(ポプラ社)をピックアップしました。「差別化はしているのに、なぜか魅力が伝わらない」と悩む企業へ、今の時代に必須の「付加価値の作り方」とその要点をお届けします。
執筆者:船井総合研究所 平田賢司
INDEX
ある高級なレストランがありました。 そのレストランには、伝説のシェフがつくるシンプルな卵の料理がありました。 この卵の料理は、驚くほど高い値段でした。あるとき客が、なぜこんなに高いのかと質問をしました。 すると、シェフはこう答えたそうです。
「ただの卵を最高の味に仕上げるために、私は30年間修行を続けています」
このエピソードは大切なことを教えてくれます。 それは、「価値」とは何かということです。
(「はじめに」より)
付加価値とは何か?

ビジネスシーンでよく使われる「付加価値」という言葉。日頃、私たちはこの言葉をどう捉えているでしょうか。実は価値というものは、大きく次の3つに分けて考えると、一気に頭が整理しやすくなります。
- 既存価値: お客様にとって「想定内」の価値(あって当たり前のもの)
- 付加価値: お客様にとって「想定外」の価値(期待を超えるもの)
- 不要価値: 独りよがりになってしまい、顧客価値になっていないもの
こうして見ると、私たちの毎日の仕事は、決められた既存価値をつくる「作業」と、新しい価値を生み出す「付加価値づくり」の2つに分解できることに気づきます。もし日々の業務が「作業」だけで終わっていれば、それは他社やAIにいつでも代替されてしまうビジネスに陥ってしまいます。
経営者としては、社内の「作業の時間」を減らし、「付加価値づくりの時間」をいかに増やしていくか。これこそが、他社と差別化された「自社ならではの強い組織」へ変わる大きな分岐点になります。
目的と相手を変えれば「当たり前」も付加価値になる
「付加価値をつくるなんて、うちのような中小企業にはハードルが高い」と思われるかもしれません。しかし、決して難しい最新テクノロジーや巨額の投資が必要なわけではありません。私たちが「当たり前」だと思っている日常の中にも、実はたくさんの付加価値が眠っています。
例えば、日本の「電車が1分も狂わず時間通りに来る」「街中に自動販売機が多い」「公衆トイレが驚くほどきれい」という環境。日本人にとってはただの「既存価値(当たり前)」ですが、海外から来た観光客にとっては、感動を覚えるほどの凄まじい「付加価値」になります。
ここで、書籍のなかで出題されていた面白いクイズがあります。
クイズ:「常夏のハワイで、冬物のダウンジャケットを売るにはどうすればいいか?」
一見、不可能に思えるこの問いも、「目的」や「相手」を変えることで「付加価値」が見えてきます。
- アプローチ①(現地在住の方向け): ハワイ在住の人が旅行や出張で寒いエリアに行く機会を狙う。「いかに軽くて持ち運びやすいか」「旅行が楽しくなるデザインか」を伝える。
- アプローチ②(観光客向け): ハワイ旅行に来た観光客に、標高4,200メートルのマウナケア山(山頂は極寒で積雪もある名所)へ登るツアー用として提案する。
このように、「目的や相手に合わせて、商品の見せ方や魅力を再定義すること」。これこそが付加価値の正体です。お客様は、商品そのものだけでなく、この付加価値に惹かれて財布を開いているのです。
自社の価値を「不要価値」にしてしまう“伝えない問題”
もう一つ、例があります。洋食の皿に添えられている、あのグリーンの「パセリ」です。あのパセリは、既存価値、付加価値、不要価値のどれに当たるでしょうか?
まず、注文したメイン(コロッケやとんかつ)ではないため「既存価値」ではありません。では残りの2つのどちらでしょうか。実は、これは「どちらにもなり得る」のです。

パセリには、強力な殺菌効果や消化促進効果があり、口直しとしても優秀です。もしその価値を食べている人が知っていれば、それは立派な「付加価値」になります。しかし、知らなければただの飾り、あるいは残されてしまう「不要価値」になってしまいます。
つまり、自社としては素晴らしい技術やこだわり(付加価値)を持っているつもりでも、顧客にそれが伝わっていなければ、それは存在しないのと同じです。このように「伝えない問題」によって、せっかくの付加価値が「不要価値」のまま眠ってしまっているケースが非常に多いのです。
自社の隠れたパセリ(価値)を掘り起こし、言葉にして顧客に届けること。それもまた、経営者に求められる重要な役割です。――では、具体的にどうやって自社の商品やサービスに「付加価値」をつけていけばいいのでしょうか。ここからは、本書で紹介されている3つの具体的な付加価値づくりの手法について解説します。
方法①:「再定義化」

付加価値を生み出す1つ目のアプローチは、商品の魅力を別の視点から見つめ直す「再定義化」です。
【事例】チョコレート菓子の「キットカット」
商品そのものは普通のチョコレートですが、九州方言の「きっと勝っとぉ(きっと勝っている)」という言葉の響きと結びついたことで、受験生を応援する「縁起物」へと再定義されました。中身を一切変えることなく、新たな付加価値を提案することに成功した見事な事例です。
この再定義化を自社で実践するためのアプローチとして、「当てはめ法」という考え方があります。これは、まったく異なる業界の仕組みや、世の中のトレンド(時流)を自社のビジネスにスライドさせて当てはめる方法です。

【事例】回転寿司の誕生
今では当たり前となった「回転寿司」。この生みの親である白石義明氏は、ビール工場を見学した際、ビール瓶がベルトコンベアでスムーズに流れていく様子を目にしました。そこで、「あの仕組みを寿司屋に当てはめれば、人手不足を解消し、安くて美味しい寿司を効率よく提供できる」と閃いたのです。異業種の仕組みを自社に「当てはめた」見事な再定義です。
【事例】豆腐メーカー・アサヒコの「豆腐バー」
国内の豆腐市場が縮小を続ける中、同社は「健康志向によるタンパク質市場の拡大」という世の中のトレンドに着目しました。そこで、従来の豆腐を「おかず・食材」として売るのではなく、手軽に栄養補給ができる「高タンパク商品(プロテインバーの代替)」へと再定義したのです。結果、大ヒット商品へと生まれ変わりました。
自社の商品やサービスを、そのままの形でどう売るか。それだけでなく、「異業種のアイデアや今の時流を組み合わせることで、新しい役割や目的(付加価値)を与えられないか」という視点を持つことが、再定義化の大きなヒントになります。
方法②:ネガティブを魅力に変える「言いかえ法」

付加価値を生み出す2つ目のアプローチは、表現の角度を変えることで言葉の響きをポジティブに転換する「言いかえ法」です。
その代表例が「訳あり」という言葉です。
「この家電、実は訳ありなのでその分お安くできるんです」「訳ありで50%オフです」と言われると、不思議と「どんな理由(わけ)があるんだろう?」と興味が湧いてこないでしょうか。
例えば、形が不揃いだったり、表面に少し傷があったりするものの、味はまったく同じの野菜。これをそのまま「傷あり野菜」と売ってしまうと、ただの欠陥品(マイナス価値)に見えてしまいます。しかし、これを「訳あり野菜」と言いかえるだけで、フードロスに貢献できるお買い得品という「付加価値」へと一瞬で生まれ変わるのです。
このように、ちょっとした視点の変化(言いかえ)によって、新しい価値が生まれるビジネスシーンはたくさんあります。
- 「待ち時間60分」 ⇒ 『熱狂まで、あと60分』
- 「田舎には何もない」 ⇒ 『田舎には「何もない」がある』
- 「ゲーム」 ⇒ 『eスポーツ』
- 「古い」 ⇒ 『レトロ・ヴィンテージ』
- 「手作り」 ⇒ 『クラフトワーク』
自社の商品やサービスに、もし「弱み」や「不便さ」があるなら、それは付加価値に変える大チャンスかもしれません。言葉ひとつで、顧客が受け取る印象をガラリと変えられるのが、この言いかえ法の最大の魅力です。
方法③:小話プラス
付加価値を生み出す3つ目のアプローチは、単にスペックや機能を紹介するだけでなく、お客様の心に響くエピソードを添える「小話プラス」です。
冒頭でご紹介した伝説のシェフの「30年の修行」という言葉がまさにそうであるように、人は商品そのものだけでなく、その背景にある「物語(ストーリー)」に強い価値を感じ、共感します。
自社のビジネスを振り返ったとき、以下のような「小話」が眠っていないでしょうか。
- 開発秘話: なぜこの商品を作ろうと思ったのか、そのきっかけ
- 苦労話・失敗談: 完成までにどんな壁があり、どう乗り越えたのか
- 想いや熱意: 自社がこのビジネスを通じて、世の中にどう貢献したいのか
- 思い出・歴史: 創業から今日まで、頑なに守り続けてきた伝統やこだわり
- 新発見: 開発の途中で偶然見つかった、意外な効果や驚きの事実
これらの要素が入ったストーリーには、理屈抜きで人間の心を動かす強力なフック(因子)があります。
機能や価格のスペック競争に巻き込まれないために、自社の商品にどんな「小話」をプラスできるか。経営者自らがその物語を言葉にし、発信していくこと自体が、他社には決して真似できない究極の付加価値になるのです。
本記事のポイント
今回は、『このオムライスに、付加価値をつけてください』の視点から、ビジネスを強くする付加価値づくりのヒントをご紹介しました。
日々の「作業」を減らし、いかに「付加価値」を生み出す時間を増やすか。こうした小さな視点の転換こそが、価格競争から抜け出す唯一無二の武器になります。
本書には、今回ご紹介した3つのほかにも、付加価値をつくるための20以上の考え方と技術が分かりやすく網羅されていますので、ぜひ手に取ってみてください。
☞今回の参考図書
『このオムライスに、付加価値をつけてください』
著者:柿内 尚文
株式会社アスコム常務取締役編集局長。 長年、雑誌と書籍の編集に携わり、これまで企画した本の累計発行部数は1400万部以上、10万部を越えるベストセラーは60冊以上に及ぶ。

