社員を「静かな退職」に追い込む降格人事と、社員を伸ばす降格の違い
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2026.07.02
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- 人事制度が年功序列からジョブ型や成果主義に切り替わりつつある昨今、「降格人事」は避けて通れないテーマです。不用意な降格は対象者の不満・離職や組織の生産性を下げるリスクがあります。では、どうすればいいのでしょうか。本記事では、「人材開発研究大全」(中原淳・編)の内容をかみ砕き、対象者を再び戦力化するための「正しい降格人事」のあり方をお伝えします。降格後の離職やモチベアップに悩んでいる方、将来的にジョブ型雇用へのシフトを検討されている方、ぜひご覧ください。
執筆者:船井総合研究所 山内淳史
INDEX
そもそも「降格人事」とは、
- 懲戒処分…就業規則に定めた業務命令違反や勤怠不良などが散見される場合に行う罰としての人事
- 人事異動…当事者の業績不良や能力不足を原因とする、組織改編としての人事
の2通りがあります。
そして降格方法として
- 役職(職位)を下げる
- 賃金を下げる
の2通りがあります。
従来の年功序列型の人事制度を取り入れている場合、能力不足に起因する降格人事を行うことはほぼ無かったと思われます。一方、2021年にパーソル総合研究所が実施した調査では、
ジョブ型人事制度の導入企業が18%、導入検討中は39.6%と、予備軍を含めれば企業の過半数がジョブ型になる可能性をはらんでいます。
ジョブ型であれば、能力を鑑みた人事を行う必要があり、場合によっては役職や賃金を引き下げる必要性が生じます。本記事では「降格」について、「役職ないし職位の引下げ(降職)」を意味するものと定義しています。
降格対象は「危機感あれど変化できぬ」人

まず、降格人事はどのようなタイミングで発生するのでしょうか。2015年に日系大手サービス業で実施された、降格者36名の上司と人事を対象とする調査では、降格対象者の「意識」の傾向として以下の5つを挙げています。
- 環境変化に対して自らの意識や行動を変えていない
- 組織へのコミットメントが高い
- 能力に限界を感じ、キャリアをあきらめている
- 降格対象になったことに理解はしているが、納得はしていない
- 自らの市場価値を検討した上で、組織にとどまる決断をしている
つまり降格対象になりやすいのは「危機感はあるものの、自ら変化できない」人材であるということです。
外部環境の変化に不安や危機感を抱いているにもかかわらず、これまでの仕事のやり方を変えようしません。危機意識はあっても変革できない人材こそが、降格対象となっているのです。
経営者は、いつ降格すべきか

では、対象者がこのような心理状態にある中で、企業はどのようなタイミングで降格に踏み切るべきなのでしょうか。
意外にも、降格対象者は、降格人事に対して一定の理解(自覚)を持っています。実際の調査でも、
「降格について理解していた(あてはまる・ややあてはまる)」が75.0%を占めています。
これは予め提示されていた営業目標を大きく下回っている、マネジメントをうまくできなかったなど、本人に能力不足の自覚があったことが背景にあると思われます。
むしろ問題なのは、「降格について納得していた(あてはまる・ややあてはまる)」はわずか27.8%にとどまるという点です。
これは降格対象者が、通告の前から環境の変化を察知し、現実をあきらめ、受け入れていることが推察されます。そのため、降格すべき明確なタイミングというものはありません。いつ降格しようとも、「降格対象になったことに理解はしているが、納得はしていない」それが対象者の心理です。
降格して辞めない人は「静かな退職」リスクが高い
降格によって役職や給与体系が下がれば、当然モチベーションも低下します。しかし前の章でお伝えしたとおり、調査における降格対象者は「⑤自らの市場価値を検討した上で、組織にとどまる決断」をしています。
その主な原因について本書は、
「転職しても今以上の給与や待遇が期待できないから」と指摘しています。
見方によっては、「会社にしがみついている状態」と言えるかもしれません。現状維持から脱することなく、これ以上の降格にならない、最低限の仕事だけをこなす「静かな退職」に陥るリスクが高まりそうです。
降格後に、いかに速やかに当事者のモチベーションを回復させるか。ここが経営者やマネジメント層の腕の見せ所となります。
▼ 記事の後半では、こちらについて紹介しています。
☑ 【テーマ1】伝え方のNG
☑ 【テーマ2】大切なのは「〇〇」なフィードバック
「降格させるがまた頑張れ」をどう実現するか

降格人事に際して最も大切なのは、降格という厳しい事実をしっかり伝えつつ、納得してもらい、さらに仕事に励んでもらう、再戦力化のプロセスです。
降格させておきながら、口では「これからも会社のために頑張ってほしい」と伝える、両価性(アンビバレンス)のある行為になります。では、再び彼らを奮い立たせ、社員を再戦力化するにはどうすればよいのでしょうか。
「あなたはこの課題がある」と伝えるだけではNG

まず、多くのマネジメント層が降格前に行っているものの、行動変革への効果が乏しいアプローチとして「課題を伝えること」が挙げられます。調査の中では上司が最も実践している行動として紹介されており、
実施率は83.4%を占めます。
しかし、単に課題を指摘するだけのフィードバックは、本人の改善につながる有意な結果は出ていません。むしろ度重なる課題の指摘が本人のモチベーションを奪い、意識③の「能力に限界を感じ、キャリアをあきらめている」結果につながっている可能性があります。
モチベーションを維持・向上させる観点で言えば、課題の指摘よりも強みにフォーカスした長所伸展のフィードバックに比重をおいたほうが、はるかに効果的です。
具体的な役割と、行動をどう変化させるべきかを伝える
「君もさらに○○すれば、もっと戦えるじゃないか」
「いや、頭では分かっているんですけどね」。
そんな部下の行動を変えたいとき、最も力を発揮するのが、部下に日々「役割と期待」を伝えることです。経営者やマネジメント層が、自身の知見を総動員し、対象者が納得するよう、繰り返し働きかけを徹底するのです。
厳しい状況下で対象者のパフォーマンスを高めるためには、以下の3点をフィードバックすることが重要であると論文は指摘しています。
- 本人の役割や期待をしっかり理解させる
- 役割や目標を達成するために、何をすればよいか具体的にアドバイスする
- 仕事を振り返ってもらい、学びを引き出す
言い換えれば、過去の失敗を責めるのではなく、「会社にとってなぜあなたが必要なのか」、そして「未来に向けてどのような行動をとってほしいのか」を語ることです。
基本的には、先述の通り、前向きなフィードバックのほうがモチベーション向上につながりやすいとされています。ただし、単純に前向きな言葉をかければよいというわけではありません。
自己効力感や役割の明瞭性が高い社員の場合、前向きなフィードバックは「無駄な情報」(余計なお世話)として受け取られることもあるため注意が必要です。特に、論理展開が早く課題を見つけるのが得意な「指導型」タイプの社員は指示されることを好まない傾向にあり、物事を批判的にとらえるため、過度にほめるのは逆効果です。
素早く継続的なフィードバックが大事

特別なスキルや経験がなくても今日から実践できる方法があります。それが、「素早く」「継続的な」フィードバックを即座に導入することです。
例えば、ちょっとした成功体験を実現したら、その場ですぐに褒める。逆に、自分がCCに入っているメールでビジネス用語を誤用していたら、サッとチャットツールなどで指摘してあげる。調査では、このように良いことも悪いことも早いうちにフィードバックすることが、結果的に良好なパフォーマンス向上をもたらすことが明らかになっています。
日常業務の中で小さな変化を見逃さず、素早く根気よく対話を重ねていくことで、降格を防ぎ、降格した後もポジティブに「周りの人のためにもうちょっと頑張ろう」と感じてもらえるのです。
ぜひ検討いただきたいのは、降格のリスクがある社員に「メンターをつける」ことです。迅速なフィードバックが効果を発揮することが分かっているにもかかわらず、先述の調査では「メンターを付けた」上司は全体の1割にとどまります。
「課題を指摘する」マネジメントは83.4%の上司が実施しているのにもかかわらず、です。
正しい降格人事とは、「反抗を恐れてナアナアで運用する」ことでもなければ、恐怖政治的に運用するものでもありません。マネジメント層が「鼓舞」する仕組みとセットで行われるべきでしょう。
【本記事のポイント・まとめ】
課題に固執し過去の改善点をネチネチ責めても、経営者やマネジメント層が求める結果は生まれません。これまで述べたような具体的なフィードバックやメンター制度を実践することで、組織の成長と人材の再活性化をより円滑に進められるようになるはずです。
出典:
・人材開発研究大全 中原 淳 氏(編)東京大学出版会 https://www.utp.or.jp/book/b307456.html
・「降格人事と上司の管理行動」(田中聡 氏/中原淳 氏/保田江美 氏/齊藤光弘 氏/辻和洋 氏)
・パーソル総合研究所、ジョブ型人事制度の実態に関する調査結果を発表 ジョブ型人事制度である企業の割合は18%、導入検討は39.6% https://rc.persol-group.co.jp/news/202106251200/
・従業員に対し「能力不足」による降格を実施する場合の法的留意点と踏むべき手順 https://jinjibu.jp/article/detl/hr-survey/971/
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