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安売りは今すぐやめなさい!フランスに学ぶ価格競争から抜け出す方法

2026.07.01
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安売りは今すぐやめなさい!フランスに学ぶ価格競争から抜け出す方法
フランス流の高値経営を解き明かした一冊『高く売るフランス人、安く売る日本人』。今回の記事では、本書に散りばめられたフランスの商習慣やエピソードをもとに、現代の経営者が安売りから脱却するためのヒントを、客観的な視点からまとめ直しました。 異なる価値観に学ぶことは、自分の中の「当たり前」を問い直すことでもあります。フランスの知恵と日本の強み、その両方を見つめ直す旅へ──さあ、ここから一緒に出かけましょう。(はじめにより)

執筆者:船井総合研究所 平田賢司
参考:『高く売るフランス人 安く売る日本人~フランス式 高くても選ばれる戦略~』高橋克典 著

INDEX

なぜシャンパンはスパークリングワインの「10倍」で売れるのか?


一般的なスパークリングワインが1本900円〜1500円程度で手に入るのに対し、シャンパンは小売店でも2倍から10倍以上の価格で取引され、高級レストランともなれば1杯2800円といった価格でも飛ぶように売れていきます。味の違いがわかる専門家でなくとも、私たちは「大切な記念日だから」と、あえて高価なシャンパンを指名買いしてしまいます。

なぜ、これほどの圧倒的な価格差を維持できるのか。その裏には、フランスが国家レベルで行う「高値維持の仕組み(ルール形成)」があります。

その仕組みとは、徹底的な排他性と供給制限です。

シャンパーニュ地方の限られた「17の村」で生産されたものだけ、指定された品種のみ、そして認証された製法で造られたものだけしか「シャンパン」を名乗れない。かつてアメリカや日本にも溢れていた“偽シャンパン”を訴訟で徹底的に排除しつつ、17世紀末から続く歴史やロマンをブランドの盾にする

つまりフランス人は、単に「美味しいお酒を造ろう」としただけではありません。自ら厳格なルールを作り、市場に出回る流通量を制度によってコントロールすることで、絶対に値崩れしない仕組みを構築したのです。

この「高く売るためのルール設計」はワインだけに留まりません。「チーズ」をはじめ、多くの農産物や加工品にまで「原産地呼称統制法(AOC)」という法律を適用し、官民一体でブランド価値を保護しています。目的は明確で、「生産地域を限定して供給を少なくし、生産者の利益を確保する(値崩れを起こさせない)」ためです。

世界屈指の品質を誇る農産物を持ちながら、日本がブランド力で損をしがちな背景には、一つこの仕組みの差が存在します。フランス人が実践する「高値で売る」本質は、現場の技術磨きだけではなく、「価値を守り、供給をコントロールする仕組みのデザイン」にもあるのです。

価格競争から“はみ出す”のがフランス式


価値を守るためには、他社と同じ土俵に立たないことが大前提となります。

【事例】フランスの個人主義と日本の独自戦略

パリの区民プールに足を運ぶと、レジ袋やシャワーキャップを頭に被って泳ぐマダムがいれば、上半身裸で堂々と日光浴をする人がいるそうです。そして、周囲の誰もそんな“はみ出した”姿を気にも留めません。
フランスの社会には、公共の場であっても個性を尊重し「他人と違うこと」を恐れない強烈な個人主義が根付いています。

日本においても、この「はみ出す」アプローチで独自の価値を築いている企業は存在します。
たとえば、東京のとあるショコラティエは、多店舗展開の誘いを断り続け、チョコレートの品質管理が難しい8月は丸々1か月間も店を閉めてしまうそうです。もうひとつの極端な例が、浅草の老舗パン屋です。一般のパン屋が種類を増やして幅広い客層を狙うのに対し、同店は長年「食パンとロールパンの2種類だけ」に商品を絞り込んでいます。この極限の割り切りが、圧倒的な利益率と連日の行列を生み出しているのです。

学生時代から「反論しなさい」と教えられ、他人と違う発想を養う彼らのマインドは、ビジネスにおいても「価格競争からの脱却」という強力な武器として機能します。他者と違う商品やサービスを堂々と提供することこそが、高くても売れる持続可能なビジネスモデルの源泉なのかもしれません。

高価格でも顧客に支持され続けるためには、品数を増やして他社と同質化するのではなく、逆に商品数を絞り込み、自社の「こだわり」と「一貫性」を際立たせる。横並びの安心感を捨て、いかにして自社のビジネスを「はみ出させる」か。これらの企業の取り組みは「値下げ競争」から抜け出すヒントが詰まっていると言えます。

フランスは「国ぐるみ」で値下げを禁止する


商品を絞り込んで独自の価値を作ったなら、次に必要になるのは「安売りをしない」というスタンスです。

年中どこかでセールが行われている日本とは対照的に、フランスには「値下げを法律で阻止する」思想があります。その象徴が、年2回の公式バーゲン「SOLDES(ソルド)」に対する厳格な規制です。大資本による価格競争から中小店舗を守るため、セールの期間はわずか2週間程度に制限され、ルール違反の値下げには私服巡回員によって罰金が科せられるそうです。

「消費者にとって不利益では?」と思われるかもしれませんが、この法律にはフランス政府の明確な哲学が感じ取れます。「安売りで消費者に迎合するよりも、企業の健全な経営を維持し、労働者に適正な賃金を払うことを優先する」。労働者は必ず消費者でもあるという大原則が、国のシステムとして機能しているのです。

この高値維持の仕組みは、過酷な価格競争がもたらす「薄利多売の罠」を浮き彫りにします。

一般に、単価を下げれば売上を維持するために「より多く」作り、売り、接客しなければならず、それは必然的に現場の長時間労働を招きます。逆に、商品の単価を適切に高く維持できれば、必要な販売数や接客数を抑えられるため、労働時間を削減しつつ利益を確保できます。

年間最低5週間の有給休暇の完全消化が義務づけられているフランスにおいて、企業が生き残るためには「単価を上げる(=安売りをしない)」こと以外に選択肢がなかったとも言えます。適正価格の維持こそが、従業員の労働環境と高賃金を支える唯一の基盤なのです。

一流ブランドほど絶対に「安売り」をしない


国のルールだけでなく、個々の企業レベルでも価格を守ることはブランド防衛の要となります。自社の価値を高め、不毛な価格競争から抜け出すための最後のピースとして、本書から読み取れるのが経営者の「値下げしない勇気」です。

【ケーススタディ】「変わらない一貫性」がブランドを創る

1854年にパリで旅行鞄店として創業したルイ・ヴィトンは、深刻なコピー品の横行に悩まされたそうです。そこで1896年、日本の家紋から着想を得て生み出されたのが、あの有名な「モノグラム」でした。模倣しにくい独自のシンボルを製品に刻むことで、ブランドの確固たる地位を築き上げた歴史が紹介されています。

ここで注目すべきは、彼らが100年以上もの間、このモノグラムのデザインを「変えなかった」という事実です。世の中には定期的にロゴや商標を変える企業も多いですが、せっかく定着した顧客の記憶をリセットしてしまうのは危険な行為です。変わらないデザインを守り抜くことこそが、「老舗」「品質」「信頼」の証となるのでしょう。

この「変わらない一貫性」は、価格戦略においても全く同じことが言えると言います。
たとえば、室町時代後期から続く和菓子の老舗「虎屋(とらや)」が、年2回のバーゲンセールで羊羹を安売りする姿を想像できるでしょうか。自社のロゴ(のれん)に誇りを持ち、いつ行っても同じ価格で売られているからこそ、顧客は安心して「大切な人への手土産」として購入できるのです。むやみに値下げをすれば、むしろその信頼を失うリスクすらあると気付かされます。

競合が安売りを仕掛けてきたとき、つい価格を下げて目先の客数を追いたくなるのがビジネスの常かもしれません。しかし、安易な値下げを避けることこそが、既存顧客の「自分が買った価値は下がらない」という安心感を維持する戦略になります。「値下げしない勇気」と一貫性を持って自らを「Only One」の存在に高めることこそが、どのような環境下においても企業を持続させる最大の武器になるのだと、これらの事例は教えてくれます。

日本の強みは「引き算の美学」にあり


ここまで、本書を通してフランスが実践する高価格戦略やブランド構築の仕組みを見てきました。その根底に共通しているのは、無駄な供給を絞り、商品ラインナップを絞り、安易なデザイン変更や値引きを削ぎ落とするという「引き算」の戦略だと読み取れます。

著者は、この「引き算の美学」こそ、かつての日本人が世界に誇っていた本来の強みだったのではないかと指摘しています。

無駄な装飾を極限まで削ぎ落とした伊勢神宮や出雲大社の建築。あるいは、自然との調和を明快な構図で描いた江戸時代の浮世絵。これらはマティスをはじめとするフランスの芸術家たちに絶大な影響を与えました。かつての日本文化は、形式に縛られず無駄を排した「引き算の極み」として、世界から高く評価されていたのです。

しかし戦後、アメリカ式の資本主義が導入されると状況は一変したと言います。日本企業は「ライバルに負けまい」と機能やサービスを次々と付け足し、より安く大量に生産する“足し算”の競争へと突き進んでいきました。いつの間にか、日本は自らの武器であった「引き算の美学」を見失い、逆にフランスがその本質をブランド戦略として洗練させていったという歴史の皮肉にハッとさせられます。

【本記事のポイント】

  • 私たちが今、フランスのビジネスから学ぶべきは、単なる海外事例の模倣ではないのでしょう。それは、自社のビジネスにまとわりついた不要な“足し算”を取り除き、日本人が本来持っていた美意識を再発見することです。
  • 売上を追うために、無駄な商品を増やしていないか。競合の動きに合わせて、不必要な値引きをしていないか。
  • これからの時代に必要なのは、大量生産・薄利多売の幻想から抜け出し、シンプルで高品質なものを誇りを持って提供することです。
  • 自社のビジネスの無駄を削ぎ落とし、研ぎ澄ませた「Only One」の価値を見出すこと。それこそが、価格競争から抜け出し、持続可能で強い企業を作るための最大の道標となるはずです。

今回参考にした書籍にはたくさんの値下げしないヒントが詰まっているので、ぜひ実際に本書を手に取ってみてください。

【参考図書】

『高く売るフランス人 安く売る日本人~フランス式 高くても選ばれる戦略~』

【著者】高橋克典
1957年東京生まれ。玉川大学文学部(フランス語専攻)を卒業後、ハナエモリ入社。1987年フランス商工会議所のディプロムを取得。その後SBAコンサルティンググループにて、欧州ファッションブランドの日本市場におけるマーケティングとコンサルティング活動を行う。1990年にテラノス&アソシエイツを設立した後に、東京とパリに事務所を開設。欧州ブランドの日本市場におけるマーケティング計画の立案と遂行に尽力する。現在はアルシュ(フランス靴企業)代表取締役。著書多数。

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