「なぜか人がついてこない社長」の共通点と、謙虚さのすすめ
-
2026.08.09
-
- ビジネスモデルは安定している。給与も悪くない。それなのに、優秀な人ほど辞めていく。もしそんな悩みを抱えているなら、原因は事業や待遇ではなく、案外、経営者自身の無自覚なふるまいにあるのかもしれません。 変化の速い今の時代、「一人の経営者がすべての正解を握り、決断し続ける」やり方には、どうしても限界があります。
執筆:船井総合研究所 社長online編集部 吉嶺菜穂
INDEX
“無自覚な傲慢さ”が、組織のやる気を削いでいる

画像:生成AI
◆組織の成長には「リーダーの人間性」が重要
書籍『「リーダーシップのベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』(藤吉豊、小川真理子 著)では、多くのビジネス書に共通する「リーダーに必要な要素」が分析されています。
上位に並んだのは、良い目標を共有すること、心理적安全性をつくること、そして――「謙虚さ、誠実さ、素実さ」といった、「リーダーの人間性」でした。
戦略がどれほど緻密でも、それを実行する経営者の姿勢に社員が共感していなければ、組織は自ら動き出さないということでしょう。
では、自社にちゃんとその土壌があるのでしょうか。あるいは、自分が知らないうちに「無自覚な傲慢さ」に陥っていないでしょうか。次の3つの問いで確かめてみてください。
☑ 部下の報告を「要するに……」と途中で遮り、自分の結論を押しつけていないか
☑ 心のどこかで「指示通りに動かなかった部下のせい」「環境のせい」にしていないか
☑ セミナーや本に触れたとき、「社員に学ばせよう」とだけ考えて、自分が学ぶ側に立つことを忘れていないか
この3つに共通するのは「自分はすべてを知っている」というふるまいです。ひとつでも思い当たるなら、知らないうちに周りの声を遮るリーダーになっているのかもしれません。
◆「自称謙虚なリーダー」も組織には悪影響
そしてさらに厄介なのは、リーダー自身が「自分は謙虚だ」と思い込んでいる場合です。自称・謙虚なリーダーがよくとる言動は2つ。
ひとつは「現場に任せている」と言いながら、いざ失敗すると「なぜ相談しなかった」と責任を全部現場に背負わせるパターン。
もうひとつは、「何でも言ってくれ」と言っておきながら、耳の痛い意見が出た途端に不機嫌になったり、過去の成功体験で論破してしまうパターンです。
このような「自称謙虚」なリーダーは、親しみやすく相談しやすい雰囲기를まとっているので社員の期待が高くなりがちですが、いざという時、結果として突き放しているのが特徴です。この一貫性のなさや偽りの謙虚さに対して、社員は「二度と本音は言うまい」と心を閉ざしていきます。
▼ 記事の後半では、こちらについて紹介しています。
☑ 研究から分かった「真の謙虚さ」の正体
☑ 経営者が持つべき「窓と鏡」の思考法
☑ 謙虚さのために明日からできる4つのこと
研究から分かった「真の謙虚さ」

画像:PIXTA
◆優秀な経営者のあるべき姿勢――「窓と鏡」
経営学者ジム・コリンズは、長く優れた成果を出し続けた企業のリーダーに、ある共通点を見つけました。「深い個人的な謙虚さ」と「猛烈なプロとしての意志」という、一見矛盾する2つの性質を併せ持っているということです。彼はこれを「第5水準のリーダーシップ」と称しました。
その本質をよく表すのが、「窓」と「鏡」の話です。うまくいったときは、「窓の外を見る」=成果は仲間や顧客、運のおかげだと考えます。うまくいかないときは、「鏡を見る」=原因は自分の判断や、仕組みの甘さにあると捉えるのです。
歴史を振り返れば、日本の経営者たちも、この「窓と鏡」を体現してきました。松下幸之助氏は、私心を捨て、物事をありのままに見る「素直な心」を重んじた人です。1964年、巨額を投じた大型コンピューター事業からの撤退を決めたとき、彼は自らの判断の誤りを率直に認めました。その決断が、のちの致命的な損失を防ぎえています。稲盛和夫氏もまた、「謙虚にして驕らず」を大切にし、毎日の反省を習慣にしていました。
この日本を代表する二人の名経営者に共通するのは、判断に迷ったとき『論語』や『自省録』といった古典を心の鏡にしていたことです。時代を超えた言葉に触れることで、判断の質を保っていたのでしょう。
◆組織を活かす「真の謙虚さ」とは
「謙虚なリーダー」が組織にもたらす効果は、数字でも裏づけられています。東京大学の調査※によると、リーダーが謙虚さと誠実さを持っている場合、心理的安全性が高まり、
「組織の生産性低下が避けられる」ことが分かっています。
つまり同調査は、心理的安全性が高くない職場では、心身の不調により本来のパフォーマンスを発揮できない社員が生じ、企業が「見えないコスト」を支払わされている事実も指摘しているのです。
同調査における「謙虚なリーダー」の定義は、次の通りです。
自らの能力の限界や過ちを正確に把握する意欲があり、他者の強みや貢献を評価し、学びの姿勢を持つというリーダーシップのスタイルです。このようなリーダーシップが示されると、従業員の仕事へのコミットメント、ポジティブな感情、そしてパフォーマンスが向上するとされています。
一般的に「謙虚」というと、「へりくだった姿勢」だと誤認されることもあります。しかし経営者における「謙虚さ」とは、弱腰になることでも、自分の意見を抑えて社員に迎合することでもありません。
真の謙虚さは、むしろ強さに根ざしています。自分の知識や能力の限界を冷静に認め、他者の専門性を尊重する。しかし、最終的な決定権と責任は自分が引き受ける。一方、「謙虚だ」と言って、不確定な未来に対して決断を避けたり、対立回避のために主張しないのは弱さです。
また、経営者自身が自分の不完全さを開示し、人の力を借りる姿を見せることで、「失敗を恐れず挑戦していい」という安心感が生まれます。そして、その姿勢が社内へ波及していくことで、真の心理的安全性が醸成されていくのです。
※研究論文「日本の組織における謙虚なリーダーシップとプレゼンティズムに対する心理的安全性の媒介的役割」松尾明子
謙虚さのために明日からできる4つのこと

画像:生成AI
とはいえ、心構えを唱えるだけでは行動は変わりません。「窓と鏡」を実践するための、具体的な行動を4つおすすめします。
1. 叱る前に、3分だけ紙に書く
ミスに苛立ったら、その場で説教を始めず、「もし自分の指示や仕組みに原因があったとするなら…?」という前提で、思い当たることを3分だけ書き出します。感情を鎮めつつ、原因を自分に向けて仮説を立てることができます。
2. 主語を「われわれ」に変える
「私が決めた」「私の経験では…」という言い出しを、「われわれ」「わが社」「みんなの協力で」に置き換えてみましょう。主語を変えるだけで、社員を主役とした文章構造になります。
3. 会議での「発言」と「質問」の回数を数える
会議や普段の会話で、意見を通した回数と、質問した回数を記録します。質問が押しつけを上回るよう意識すれば、「社員から学ぶ人」へと、自然と立ち位置が移っていきます。
4. 一日の終わりに、5分間内省する
松下幸之助氏や稲盛和夫氏がしていたように、一日の終わりに古典や先人の言葉を1ページだけ開き、「今日の判断に、プライドや過去の成功への固執がなかったか」を静かに振り返ります。その時間をスケジュールに組み込むことが、無自覚な傲慢さへのブレーキになります。
――
組織が育たないのは、社員の能力が低いからではなく、会社が成長の機会を奪っていたからかもしれません。謙虚さは一朝一夕には身につきませんが、謙虚なリーダーが強い組織の源泉となっていることは間違いありません。
