中小企業のブランド力はどう高める?シャボン玉石けんが実践する最強の広報術
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2026.08.16
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- シャボン玉石けん株式会社は、無添加石けん専業メーカーとして知られています。1910年創業、従業員数は168名(2025年1月現在)で、今期100億円の売上を見込んでいます。業績好調の理由の一つには同社の強力なブランド力が挙げられますが、その裏には、広報活動に対する同社の驚異的な熱意が隠されていました。
執筆:船井総合研究所 吉嶺菜穂
INDEX
どれだけ良いモノでも、知られていなければ売れない
もともと合成洗剤を製造・販売していた同社が、無添加石けんのみの製造販売に移行すると決めたのはちょうど50年前。今日にいたるまで「無添加石けんの良さを伝える」という啓発活動をずっと変わらず続けてきたといいます。
「モノが良いからといって売れるものではありません。はじめから、商品の良さを伝えない限り、当社の売上は伸びないと分かっていました」(森田隼人氏)
同社三代目の社長である森田隼人氏はこう語ります。
「われわれがずっと努めているのは、健康と環境にやさしい『無添加石けん』の良さを多くの方にお伝えすること。
シャボン玉石けんの無添加石けんは、その原材料へのこだわりや製造工程の手間から、他社製品とくらべて価格が高いのが現実です。生活者に選んでもらうためには、なぜ高いのか?どう違うのか?を納得してもらう必要があります。
一度使ってもらえれば良さは伝わりますが、最初に手に取るきっかけとして、商品の良さ、価値を伝えなくてはいけません。これは啓発活動に近いと思っています」(森田隼人氏)
ここまで啓発活動を重視する経営者は、あまり多くありません。たしかに同社の広報活動は、従業員168名の中堅中小企業とは思えないほど多岐にわたっており、その覚悟がうかがえます。
長年にわたる無添加石けんのたゆまぬ広報・啓発活動が、シャボン玉石けんの認知度をここまで高めたといえるでしょう。
3冊の書籍が運命を変えた!
シャボン玉石けんは、1910年に雑貨商として創業。それから石けん卸売業者となり、電気洗濯機が普及した1960年代には、その需要増から合成洗剤の製造販売を行うようになったという経緯があります。
ところが1974年、二代目社長である森田光德氏は、合成洗剤の製造販売をすっぱりとやめ、無添加石けんのみの製造販売に完全移行します。その結果、売上は一時100分の1以下に落ち込み、17年連続赤字という苦難の時代が長く続くことになりました。
▼ 記事の後半では、こちらについて紹介しています。
☑ シャボン玉石けんを黒字転換させた「3冊の書籍」とは
☑ 「無添加石けん」の良さを啓発する、多角的な広報活動の全貌
☑ ブランディングを成功に導く、経営者自身の「覚悟」
同社が大きく経営方針を転換させた同年、朝日新聞で有吉佐和子氏の小説『複合汚染』の連載が開始されました。この連載は環境汚染が題材となっており、作中では合成洗剤についても指摘されていました。その後、それを読んだ読者から無添加石けんの注文が殺到。同社の売上は一時的に向上します。しかし、黒字転換とまでは至らず、ブームはそこで終息してしまいました。
黒字転換のきっかけとなったのは、1991年に先代社長が執筆した書籍『自然流「せっけん」読本』(農山漁村文化協会)でした。出版社や周囲からの勧めによって森田光德氏が事業運営の傍ら執筆したもので、石けんと合成洗剤の成分比較、それぞれがもたらす体や環境への影響などがまとめられています。
巻末には、全国の石けんメーカーを一覧にして掲載。当時はネット販売が主流でなかったことから、読者がどの地域に住んでいても購入できるように、製造元の連絡先を掲載したのです。
この書籍がヒットし、シャボン玉石けんの認知度は急激に向上、一躍全国区となりました。書籍を通じて商品を知った消費者からの注文が殺到。この時、無添加石けんへの完全移行から18年目にして、ようやく黒字化を実現しました。
さらにシャボン玉石けんの認知度を盤石なものにしたのは、その8年後となる1999年に出版された『買ってはいけない』(週刊金曜日、船瀬俊介著)でした。この本は当時ベストセラーとして話題をさらい、テレビや雑誌でも似たような特集が多く組まれました。この本の中で、「買ってもいい商品」として同社の商品が紹介されたのです。
1999年当時、シャボン玉石けんは販路拡大のため、当時では珍しいインターネット通販を開始していました。このブームから発生した、全国各地からの注文に応えられるようになっていたのです。そのため一過性の情報に終わることがなく、実際に商品を使った人たちの印象に残り、より一層ファンを増やしていくことができました。
1990年代というのは、環境問題に対して世間の意識が高まった時代でした。そんな中、『自然流「せっけん」読本』『買ってはいけない』の2冊がベストセラーとなったことで、シャボン玉石けんは、無添加石けんのパイオニアとしてのブランディングを確立することに成功したのです。
「無添加石けん」の良さを啓発する、多角的な取り組み
度重なるヒット作との出会いによって認知度を高めた同社ですが、それ以降も広報活動に手を抜くことはありませんでした。重視しているのは「無添加石けんの良さを伝え続けること」。シャボン玉石けんの広報、それはすなわち、「石けん」の啓発活動でもある、と森田隼人氏は語ります。
広報に関わる取り組みは非常に多岐にわたっており、いわゆるプレスリリースの配信や、展示会への出展だけではありません。ここで、同社が取り組んでいる広報活動の一部を取り上げてみましょう。
<工場見学>

(画像:シャボン玉石けんプレスリリースから)
シャボン玉石けん株式会社の三代目社長・森田氏に取材を申し込み、まず最初に案内されたのは、北九州市若松区に37年前からあるという、同社の工場でした。
現在のシャボン玉石けん工場。2026年には生産能力向上のため拡張予定
まずは「石けんとはそもそも何なのか?」という説明を軽く受けたあと、広報・マーケティング担当の川原さんの案内で工場内部を見学させてもらいます。一巡して戻ってくると、最初に説明を受けた広場に、小学3~4年生ほどかと思われる子どもたちが列をなしていました。
「ほとんど毎日、工場見学を受け入れているんです。北九州市内の半数以上の小学校が社会科見学で来場されています」(川原さん)
工場では、シャボン玉石けんの商品製造ラインや、搬出の様子を見学することができます。1週間かけて油脂を煮詰めるという巨大な釜と、石けんを炊き上げる様子。そして吹き抜けの倉庫は圧巻で、多くの見学者を魅了します。
膨大な商品を倉庫から搬出するため、吹き抜けとなったラックと商品をピックアップする自動アームの迫力には目を奪われます。
(筆者撮影)
工場見学の受け入れ人数はオンラインも含めて年間約15,000人。毎日のように小学校や団体客が訪れるほか、小売店バイヤーや医療関係者なども見学に来ているとのこと。一般申込も受け付けており、北九州市の観光地として旅情報雑誌などにも紹介されています。
【事例】営業担当者の評価制度
工場を見てもらえれば無添加石けんの良さは伝わる。こうした考えから、評価制度も一風変わっています。同社の営業担当者には、売上のノルマがありません。その代わり、小売店や取引先を工場見学に誘致したら担当者の評価に反映される仕組みになっています。普通のメーカーではなかなか思いつかない発想ですが、これも啓発重視の経営方針により考え出されたものでしょう。
<大学との共同研究機関を運営>
石けんの良さを伝えるために、石けんを科学的に分析。得た知見は、定期的に学術論文として発表するという取り組みも行っています。
- 2009年、産学連携で「感染症対策研究センター」を設立。石けんの持つ抗菌効果・抗ウイルス効果をはじめとした様々な研究を行っており、感染制御の普及や発展を目指して活動しています。
- 2011年には、こちらも産学連携で「石けんリサーチセンター(北九州市学術研究都市内)」を設立。洗浄力や泡立ちのほか、石けんの持つ特性を他の分野に活かせないかといったことを研究しています。
<企業ノベルティの制作>
また、シャボン玉石けんでは、他社ノベルティの制作も数多く手がけています。
トヨタ社の高級ブランド「LEXUS」の販売店からの依頼を受けて制作したのは、ブランドロゴ入りのプッシュ式ハンドソープ。また、TOTOからは、タンクレストイレの最高級ラインである「ネオレスト」のフォルムをかたどった固形石けんが、ノベルティとして配られました。

左:レクサスロゴ入りハンドソープ 中央&右:ネオレスト型の固形石けん
こうしたノベルティ制作の依頼は一般企業だけではなく、神社などからも声がかかっているといいます。「お客様に配布するものは、せっかくだから体に優しいものを」という理由で選ばれていることが多いとのこと。
他社のノベルティ制作を積極的に受けることで、これまでシャボン玉石けんを使ったことがなかった人との新たな接点を生み出すことにも成功しています。
<もちろん一般的な広報活動も>
プレスリリースの配信やメディアリレーション、SNSの活用、講演活動、イベント出展といった、基本的な広報活動にも積極的に取り組んでいます。認知度がまだ低い若年層へアプローチするため、InstagramやTikTokアカウントの運用は、現在、若い世代が中心となって取り組みを強化しているとのことです。
また、石けんの良さを伝えるために、「石けんと合成洗剤の違い」を説明するパンフレットやYouTube動画を多く作成しており、パンフレットや小冊子は工場見学に行くと必ずもらうことができます。
さらに展示会への出展のほか、メディアへの広告出稿も継続的に行っていることは、みなさんもご存知のことでしょう。マスコットキャラクター・シャボンちゃんのCMソングは、九州地方を中心に多くの人に知られており、まさに全方面的に広報・広告・宣伝活動をしているのが同社の特徴なのです。
「石けん」の啓発がシャボン玉石けん社のブランディングにつながる
書籍『自然流「せっけん」読本』をきっかけに、17年続いた赤字から黒字経営へと転換させた同社ですが、無添加石けん専業のメーカーとして舵を切った当初から、「石けんの良さを伝えない限り売上向上はない」とはっきりと認識していました。
環境にも人体にも優しい製品を作っているというだけでは足りない。それを知ってもらわなくては意味がない。
この意識を持ち続けることで、シャボン玉石けんは50年という長い期間、啓発活動を最も重視した経営を行ってきました。その結果が、現在の確固たるブランディングにつながっています。
森田隼人社長は、取材依頼や講演依頼を一切断らないと言い切ります。どんなテーマの依頼であっても、企業理念や無添加石けんに対する想いを抜きに語ることはできないため、取材や講演を通じて、シャボン玉石けんの理念が世間に伝わる機会を一つでも多く増やしているのです。
もちろん、社長だけでなく社員も「シャボン玉の輪を広げたい」という強い想いを持っています。シャボン玉石けんのInstagramやFacebookには多くの社員が登場していますが、SNSを見れば、社員全員が広報を担っているという意識の高さを感じることができるでしょう。
多岐にわたる経営活動のなかでも、啓発活動やブランディング施策は、えてして後回しにされやすいものです。営業やマーケティングと比べて成果が出るのに長い時間がかかること。認知度=売上とは限らないため、成果軸があいまいになりがちなこと。その結果、「いつかはやらなきゃと思っているけど……」と、着手できずにいる、または一度取り組んでも途中で諦めてしまうという企業も多いのです。実際、2009年のリーマンショック発生時、業績悪化した企業が真っ先に予算を削ったのは広告費用、そして広報・ブランディング費用でした。
同社が驚異的なのは、17年連続赤字という苦境の中でも啓発活動の手を緩めなかったこと。そして50年間という長期にわたって、次世代の経営者である森田社長に対しても連綿とその考え方が引き継がれていることにあります。1年や2年だけ取り組んだところで、お金をどぶに捨てるような結果になりかねません。
ブランド力を高めたいと本気で考えるなら、同社のように十年単位で覚悟を持ち、経営者自身が率先して取り組むことが必要なのではないでしょうか。
