これが勝てる集客術!下呂温泉の3大改革
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2026.05.19
日本の温泉地が苦境に立たされる中、コロナ禍を乗り越え驚異的なV字回復を成し遂げた下呂温泉。今回の記事は、その再興を最前線で指揮した、老舗旅館「水明館」の経営者であり下呂温泉観光協会会長も務める瀧康洋氏に、改革の軌跡を伺いました。下呂温泉で推進されてきたのは全国の温泉街の一歩先を行く「マーケティング」「官民連携」「経営改善」という3つの改革です。データに基づき、組織や慣習を再定義して停滞を打破するプロセスは、あらゆる地方ビジネスに応用可能な「地域活性化の成功モデル」と言えます。本記事では、下呂温泉が歩んだ変革の道のりをまとめています。
INDEX
千年の歴史を持つ下呂温泉の衰退

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「3割以上の客が消えた」
有馬温泉、草津温泉と並び「日本三名泉」の一つに数えられる岐阜県の下呂温泉。千年以上の歴史を誇り、「美人の湯」として全国から親しまれてきたこの地も、時代の変化という大きな波に直面していました。
2000年には年間140万人を数えた宿泊客数は、2010年には106万人にまで減少。わずか10年ほどで、実に3割以上の客が消えてしまった計算になります。2014年には御嶽山(おんたけさん)噴火による風評被害が追い打ちをかけ、地域経済は深刻な落ち込みを見せました。
知名度だけでは選ばれない時代
さらにアクセスの難しさに加え、客層の高齢化といった慢性的な問題も抱えていました。かつての団体旅行頼みのモデルが崩壊する中、次世代のファンを作れていないという構造的な危機が忍び寄っていたのです。
どれほど歴史と知名度があっても、昔からのイメージに頼っているだけでは、数ある「温泉地」の中から選ばれ続けることはできません。こうした危機感のなか、瀧氏が旗振り役となり、下呂温泉の再生に向けて注力したのが「マーケティング」「官民連携」「経営改善」という3本の柱でした。
DMOによる「科学的マーケティング」への転換

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観光地経営の司令塔「DMO」の確立
復活への第一の歩みは、組織内に設置された「DMO(Destination Management / Marketing Organization:誘致宣伝委員会)」を司令塔とし、データに基づいた戦略的なマーケティングを導入したことです。
DMOとは、観光地全体の資源を統合的に管理し、地域が持続的に潤うための戦略を練る組織です。下呂温泉では、下呂市、観光協会、商工会、各施設、旅館組合が一体となり、地域全体の観光データを一元化する体制を全国の温泉のなかでいち早く構築しました。日本版DMOへの登録を通じて国(観光庁)からの支援も積極的に活用し、専門性の高いアプローチを強化してきたのです。
データに基づく「新たな宿泊プラン」の開発
それまでの経験や「勘」に頼る経営から脱却するため、客観的なデータ分析を徹底しました。具体的には、蓄積された宿泊者データを分析することで、市場のニーズに合致した「新たな宿泊プラン」の開発を地域全体で進めてきたのです。
状況の変化をデータでいち早く察知し、それに基づいたプラン開発や施策を迅速に実行する。この圧倒的なスピード感によって、2ヵ月という短期間で宿泊客数を前年同期レベルまで戻し、他地域に先駆けて復活を遂げることができたのです。
街歩きを楽しめる温泉街への変貌
データ活用は、宿泊施設の中だけにとどまりません。1万人規模のアンケート調査を実施。その結果、「食べ歩きや街歩きを楽しめる温泉街」というニーズをキャッチし、スイーツ事業の展開など、街全体の魅力向上に注力しました。下呂温泉は「データに基づかない施策は自滅の道をたどるだけ」という強い信念のもと、地域活性化のためのマーケティングを継続しています。デジタルを武器に、データを地域全体で共有し、即座にプラン開発や街づくりに反映させる。これこそが、下呂温泉に復活をもたらした原動力といえるでしょう。
対等なパートナーシップで補完し合う「官民連携」

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行政と民間が「対等」に議論する緊張感
データに基づく戦略を形にするため、下呂温泉が重視したのは、行政と民間が対等な立場で補完し合う関係性です。単に行政の指示に従うのではなく、現場の動向を熟知する民間サイドが、客観的なデータを根拠に提案を行い、行政を動かす姿勢を貫きました。
行政の提案に対しても、DMO(誘致宣伝委員会)が「本当に効果が見込める事業か」をシビアに判断します。限られた財源の中で、双方が「やるかやらないか」の意思決定に深く関与するプロ同士の緊張感が、地域再生の土台となりました。
エコツーリズムとDMOを融合した「E-DMO」の挑戦
この連携をさらに進化させたのが、エコツーリズムの考え方とDMOを融合させた「E-DMO」という独自の挑戦です。地域固有の資源を適切に管理し、環境保全と観光振興を両立させることが、下呂の持続可能な発展に不可欠であるという確信に基づいています。
その象徴的な取り組みが、地域の魅力を再発見する「宝探し事業」です。住民アンケートや地元の小中学校の協力を得て、地域に眠る資源を掘り起こした結果、 集まった「お宝」は実に2,714種類に及びました。ここから「昭和の裏路地巡り」や「酒蔵見学ツアー」「滝をめぐるエコツアー」といった企画が生まれ、日常の風景が観光客にとっての「価値ある資源」になることを証明したのです。
そして、この事業は単なるコンテンツ開発に留まらず、住民が地域の魅力を再発見し、地区間の心理的な壁を解消するきっかけにもなりました。「自分たちの地域には何もない」という思い込みが誇りへと変わり、市全体が一つの観光圏であるという共通認識が醸成されました。行政任せを脱し、民間が主体となって行政や住民を巻き込み、対等に成果を分かち合う。こうした高い志によって下呂温泉の官民連携が高く機能しているのです。
旧態依然とした旅館経営からの脱却
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徹底した経営改善
下呂温泉復活を支えた最後の柱は、個別の宿泊施設における徹底的な「経営改善」です。
まず着手したのは、長年温泉地を支えてきた「団体客頼みのビジネスモデル」からの決別でした。個人客が主流となる市場変化をデータで読み解き、一律の会席料理やマニュアル通りの接客を見直し。データに基づいた新たな宿泊プランの開発などを次々と打ち出しました。
具体的には以下のような改善です。
- 多角的なサービス体制: 従来の会席料理一択ではなく、部屋食やレストラン食を自由に選べる体制への移行
- スイーツ事業の展開: 地元商店と連携した「スイーツ巡り」や、SNSで話題となり1日80個近く売れるヒット商品となった「まっちゃティラミス」などの開発
- トヨタ生産方式(TPS)の導入: 清掃業務などを一人で完結させる「セル方式」への転換による、年間数百万円規模のコスト削減
- オペレーションの構築: 動線改善を徹底し、スタッフ一人が10テーブルを効率的、かつ質を落とさず接客できる体制
- 人材投資: コロナ禍において人員削減ではなく、あえて「採用と研修」を強化し、業務の内製化を推進
現場の自律を促す職場環境の再構築
また、瀧氏はそれらを行うスタッフの育成や職場環境の整備に注力しました。長時間勤務が常識とされていた業界の慣習を見直し、ムダな動きや行程を改善することで作業時間を削減、ひいてはシフトの削減を実現。柔軟なシフト制を導入しました。
さらに、定期的な面談を通じて現場から上がった「設備の老朽化」や「作業道具の改善」といった提案を、経営陣が即座に実行に移す文化を根付かせました。トップダウンの指示を待つのではなく、現場のリーダーが自律的に声を上げ、実行する。このボトムアップの当事者意識こそが下呂温泉の原動力となりました。
これらの「経営改善」で捻出した時間と資金を、スタッフの教育に再投資し、サービス品質のさらなる向上につなげています。この経営改革こそが、下呂温泉を支える実行力を生み出し、次世代に引き継ぐべき「持続可能な温泉経営」の形を世に示したのです。
地域復興は「熱」を絶やさないこと

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下呂温泉の復活劇を振り返ると、そこには常に現状に安住しない「攻め」の姿勢がありました。しかし、その戦略や手法のさらに奥底にあるもの——それは、この地で生き、この地を愛する人々の「熱い想い」に他なりません。
瀧氏が最も伝えたかったのは、観光業の本質とは単なる経済活動ではなく、地域の文化や人々の営みを支える「基盤」そのものであるということです。
- 日本の温泉文化を次世代に引き継ぐため、地域資源を守り育てる教育や、若者が地域に根ざして働ける人材育成へのあくなき投資
- インバウンド集客やDXといった最新の手法を駆使しながらも、その根幹には常に「地域住民の温かい心」と「目に見えない地道な努力の積み重ね」があるという謙虚な視点
- 「自分たちの宿さえ良ければいい」という考えを捨て、地域住民と観光客の両者がいつまでもこの場所を愛し続けられる、持続可能な観光プランニングへの挑戦
地域復興とは、各地域がその特徴を活かして自律的に動き出し、経営者同士、地域同士が切磋琢磨しながら協力し合うことです。誰かに頼るのではなく、一人ひとりの当事者が抱く「地域の未来をより良くしたい」という熱量が、結果として日本の観光業を、そして地域社会の明日を大きく変えていくのです。
参考図書
本稿でご紹介した下呂温泉の変革プロセスや、データに基づく戦略、官民連携の詳細は、以下の書籍に詳述されています。より深く具体的な手法を学びたい方は、ぜひお手にとってご覧ください。
『旅行客を惹きつける観光改革 下呂温泉 価値創出プロジェクト』


