コンテンツに進む

人口400人の町から全国へ!群言堂に学ぶ「逆転の地方経営ブランディング」

2026.05.20
Email X Facebook Line
人口400人の町から全国へ!群言堂に学ぶ「逆転の地方経営ブランディング」

島根県大田市にある世界遺産・石見銀山の麓、人口わずか400人の大森町。この場所に拠点を置き、全国の百貨店や商業施設に店舗を展開し、熱狂的なファンを生み出し続けている企業。それが株式会社石見銀山群言堂グループ(以下、群言堂)です。

INDEX

同社は「地方から東京へ出ていく」だけでなく、「大都市で売上をつくり、さらに大都市から過疎の町へ人を呼び込む」という、一般常識の逆を突くビジネスモデルを確立しています。群言堂の代表取締役社長、松場忠氏に話を聞きました。同社の経営方針からは「地方で勝つ」ヒントが得られます。

特集の第1回はこちら
特集「地方だから勝つ!」新戦略①東京一極集中の限界と、見えないリスク

1. 「急成長よりもブランドの維持」ブレない世界観が育む、10年来の顧客との「LTV」


株式会社石見銀山群言堂グループ 代表取締役社長 松場忠氏

群言堂は、衣料品の製造・販売を中心に、カフェや宿泊施設(他郷阿部家)など、衣食住すべてを通じた「暮らしの提案」を行っている企業です。日本の伝統技術や素材にこだわり、全国に店舗を展開しています。

群言堂の顧客には、10年、15年と長く商品を愛用し続けるファンが数多く存在します。

「そういった方々になると、半分応援のような形で付き合ってくださっている」と松場氏は語ります。着心地がよく、体を締め付けない、ストレスの少ない衣服。外で着る服から、室内で着るワンマイルウェアまで、顧客の気分や状況に寄り添うラインナップを展開しています。そこにあるのは絶対に「残念な思いをさせない」モノづくりの徹底だといいます。

単なる「お店とお客様」という関係を超え、共に日本の生活文化を守る「伝え手」であり「人生のパートナー」として顧客と向き合う。このブレない姿勢こそが、同社の高いLTV(顧客生涯価値)の源泉です。

そのような姿勢が評価され、群言堂には全国のデベロッパーや百貨店からの出店オファーも増えています。その中には「昔よりも床面積の広い大型店を出してほしい」という要望もあるそうです。大きな店を出せればその分売上も大きくできますが、同社は、目先の売上に飛びつくことはありません。

「なんでも大きなお店を作ればいいわけではなく、場所の期待値に合わせていくことが重要です。店舗を広げれば広げるほど、坪効率は基本的に下がっていく部分があります」(松場氏)

大きい店を出すために、扱う商品の数を増やしたり、店舗に配置する人を多くしたりすることは、会社の目指すところではないのです。

松場氏は無理に広げて期待値と見通しがズレることこそが「一番非効率」であると断言し、丁寧なすり合わせを行い、自分たちが確実に約束できる価値だけを提供し続けています。

2. 「ぜひ石見銀山へ」——全国の店舗は本社への入り口である


(画像:石見銀山のある大森町の町並み)

群言堂の最大の独自性は、全国に店舗を展開しながらも、その心臓部が常に本社、本店のある「石見銀山・大森町」にある点です。全国のお店と本店のコンセプトや扱う商品は基本的に同じで、その世界観はまったく変わりませんが、本店には「わざわざ足を運ぶ理由」が用意されています。

「群言堂本店は300坪あります。カフェやアートギャラリーも含め、ここに来ないと見られない『余白』や『余剰』があるんです。当社が扱っているモノの背景を垣間見ることができるのが石見銀山です」(松場氏)


(画像:本店の内観)

百貨店など全国の商業施設は、あくまで「その館(町)の役割の一部」としての出店です。しかし、顧客のライフスタイルに深く入り込む群言堂は、全国の店舗を「自社ブランドへの入り口」として機能させています。

その最たる例が、独自のポイント制度です。群言堂では、各店舗での買い物でポイントを貯めると、石見銀山にある自社の宿泊施設に泊まることができる体験サービスを提供しています。この仕組みなどを利用し、なんと年間で約100組もの顧客が、はるばる石見銀山まで宿泊に訪れるといいます。

1時間や2時間の買い物では伝わらない深い世界観を、1泊、2泊と滞在し、24時間近く使って体感してもらう。大都市の店舗でファンになった顧客を、自らの本拠地へと誘い込む導線が構築されているのです。

3. 空き家を「資産」に変え、町に投資する

群言堂の視野は、一企業としての成長だけにとどまりません。過疎化や空き家問題といった「マイナス」と捉えられがちな地域の課題を、利益を生み出す「事業資本」へと転換させています。

「空き家は地域の課題である一方で、視点を変えれば財産です。それを資産として展開する観光事業の開発も考えています」

特筆すべきは、同社のマーケティングの考え方です。一般的な企業がLTV向上のために多額の広告宣伝費を投じるのに対し、群言堂は「その費用を町に投じている」と松場氏は明かします。


(画像:群言堂が宿泊施設として展開する「他郷阿部家」)


(画像:他郷阿部家内部の様子)

町の宿泊所を増やし、ハードを整え、行政とも連携してソフトを拡充する。心地よく過ごせる町を作ること自体が、訪れる人にとっても住民にとっても幸せであり、結果としてそれが最高のマーケティング(LTV向上)に繋がっていくという、極めて高度な「地域経営」を実践しているのです。

※注釈:【地域経営(エリアマネジメント)】
単独の企業が利益を独占するのではなく、官民が連携し、地域の資源(景観、文化、不動産)を持続的に活用・保全しながら、地域全体の価値と収益力を高めていくマネジメント手法。

4.「何のための効率化か?」全国展開と「捨てる勇気」

群言堂は業界としては「アパレル」にあたります。この業界はいかに効率よく作り、効率よく売るかが問われる世界です。しかし、群言堂のスタンスは少し異なります。手間をかけたものづくりをしている群言堂は、効率を重視していないようにも見えます。しかし松場氏は「効率は重要であり、効率自体は捨てていない」と前置きした上で、本質的な問いを投げかけます。

「何のために効率化するのか、自分たちがアパレルでモノを作るのは何のためなのか、という目的が一番重要です。一般論の効率とは違う効率を求めなければいけません」

目的があっての効率化。その言葉通り、群言堂はコロナ禍において大きな決断を下しました。複数あったブランドを1つにまとめ、商品の型数を約半分にまで絞り込んだのです。

「作らないものを決める」という選択により、より手間のかかる質の高いモノづくりを追求しつつも、結果的に1品番あたりの売上高や回転率が向上し、店舗オペレーションも容易になるという「真の効率化」を実現しました。

5. 中を掘り下げることこそが、外へ広がる時代


(画像:群言堂 本店への入口)

かつて、地方の企業が成長するためには「外(大都市)に出ることで、中(地方)へインパクトを与える」のが定石でした。中にいるだけでは事業は広がらず、地域に使えるお金も増えなかったからです。

しかし、インターネットやSNS、さらにはAIが普及した現在、外と中の情報の壁はもはや取り払われました。

「今は、中を掘り下げていった方が外に広がる時代になってきていると思います。より自分たちのありようや実態を磨き込んでいくことこそ、外の人が見つけて興味を持ってくれることに繋がるのです」

この哲学に共鳴し、群言堂で働くべく多くの人が大森町に移住してきています。現在では大森町の人口約400人のうち、約60名から70名が移住者で占められています。群言堂の従業員も県外出身者が非常に多く、島根県出身者のほうが少ないほどだと言います。地縁のない人を多々雇用する、圧倒的な採用力を誇っているのです。

拡大を前提とした成長設計の難易度が極めて高くなっている現代。群言堂は、右肩上がりの売上至上主義を追うのではなく、「緩やかに成長しながらも中身が良くなっている」という、事業拡大だけではない新たな成長のあり方を模索し続けています。

6.「やはり本店は違う」と思わせる設計になっているか


(画像:群言堂 本店カフェの内部)

群言堂の全国展開策についてお伝えしました。

「強い会社」は、その場所を離れた全国展開をしながらも、そのブランドイメージを崩すことのない世界観を作り上げています。

And、近くの店舗でその会社や商品に触れた顧客が、本店を訪れる機会があるときに「やはり本店は違う」と思わせるだけのものがあるものです。

それは店舗の大きさか、扱うものの数の多さか、はたまた別の要因か。

群言堂の本店がほかの店とは違うと感じさせる部分に「大きさ」があります。300坪の建物の中に、百貨店の中の小さな店舗では表現しきれないような「世界観」を、大きなスケールで詰め込んでいるのです。

松場氏の言うように、百貨店の中の店舗は「デパートという町のなかの一画」です。本店は、自社の世界観をほかの影響を一切受けることなく形にできる場所です。

そのような確固たる場所があるからこそ、各店舗で「うちのお店を気に入してもらえたならば、ぜひ本店にお越しください」と自信を持って言えるのです。

また、そこまでのものを作り上げられているからこそ「人がわざわざ訪れる理由」になっています。売上を増やす、成長のための全国展開は大切ですが、そこにはやはり一本芯となるものを通せることが「都市から人を呼ぶ」戦略には必須となります。

【お知らせ】

無料登録で本サイトの全コンテンツが読み放題になります。

登録はこちら