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町工場から世界のボーイングへ! 脱・属人化で売上約3倍を実現した自動水栓蛇口メーカーの戦い

2026.08.03
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町工場から世界のボーイングへ! 脱・属人化で売上約3倍を実現した自動水栓蛇口メーカーの戦い
米国のボーイング社の航空機や新幹線の自動水栓、さらには大手コンビニ3社で標準仕様に採用されている蛇口を企画製造しているのが、長野県にあるメーカー「株式会社バイタル」です。 従業員約60名の中小企業が、いかにして商品製造における「職人気質」や「属人化」を克服し、世界基準の品質文化を根付かせたのでしょうか。2014年からの10年で売上を3倍(約14億円)、出荷台数を2倍(約50万台)へと急成長させた土屋社長に、その過酷な軌跡と組織改革の全貌を伺いました。

株式会社バイタル 土屋智宏社長
執筆者:船井総合研究所 社長online編集部 吉嶺菜穂

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圧倒的シェアなのに知名度がない……


長野県佐久市で水栓蛇口を企画製造する株式会社バイタル(画像:同社Webサイトから)

長野県佐久市、新幹線佐久平駅から車で10分の田園風景の中に建つ社屋には、大手コンビニや航空機メーカーの担当者が頻繁に訪れます。同社が製造しているのは、店舗用としてシェアナンバー1の「デルマン」をはじめとした自動水栓蛇口です。

「デルマン」最大の強みは、単3アルカリ乾電池4本で10年間作動するという、他社を圧倒する省電力と、電源コード不要による設置の容易さにあります。1998年にセブン-イレブンで標準品に指定されて以降、ローソン、ファミリーマートと大手コンビニ3社全店で標準仕様として採用され、累計導入台数は約10万台に上ります。JR東日本の新幹線に至っては、100%同社の蛇口が採用されています。


同社の主力商品である「デルマン」シリーズのV-88。コンビニや外食チェーンで見かけることができる(画像:同社製品サイトより)

これほどの圧倒的な技術力と実績がありながら、エンドユーザーにおける知名度は無に等しい状態でした。それが残酷なまでに露呈したのが、コロナ禍です。

非接触需要が高まり、学校や医療機関、一般住宅においても自動水栓蛇口が設置されるようになり、一時的な特需が発生。LIXILやTOTOといった大手メーカーの自動水栓が相次いで欠品した際、土屋社長は「次は、蛇口メーカーで製造数も多いウチに問い合わせが来るはず」と待ち構えていたといいます。しかし、現実はそうではありませんでした。一般消費者はおろか、住設商社すらバイタル社の存在を知らず、電話は一切鳴らなかったのです。

自社の技術力への絶対の自信があったからこそ、土屋社長はこの「社会的な知名度不足」に強烈なもどかしさと焦りを感じました。そこから「このままではいけない」と、エンドユーザーであるコンビニや外食チェーン本社だけでなく、管材商社への営業を強化します。

その結果、後述する航空機需要の落ち込みをカバーするほどの過去最高の売上を達成。2014年に約6億円だった売上が、2024年には約14億円となり、10年で売上約3倍、出荷台数2倍の急成長を遂げました。

コロナ禍が浮き彫りにしたもう一つの壁 世界基準「JISQ9100」への挑戦


画像:PIXTA

現在の売上を支えている「営業力の抜本的な見直し」を進める一方で、土屋社長は当時、もう一つの大きな壁に直面していました。それが、売上の3分の1を占める航空機事業における「マネジメントの壁」です。

コロナ禍でボーイング社の航空機製造がストップし、当時ボーイング社へ蛇口を提供していたバイタルも、その分の売上を失うことになりました。

その間も、同社はただ手をこまねいて待つのではなく、さらなる品質向上を目指し、航空宇宙品質マネジメント規格「JISQ9100」の取得に向けて動き出します。しかし、そこで待っていたのは「良い物を作っていれば伝わる」という日本の職人気質が一切通用しない世界だったのです。

「規格に適応するには、ただ製品を作ればいい、製品品質を保証すればいいだけではありません。加工プログラムから何から、すべてのプロセスを書類で証明し、それを11年間保管しなければならないのです。つまり『書類も商品と一緒』。製品が完璧でも、書類が揃わなければ出荷できません」(土屋社長)

情報漏洩や防衛の観点から、受注から納品、立ち入り制限、不良品の廃棄方法までが厳重に定められている規格において、「属人的な対応」は絶対に許されません。すべてをオープンにし、誰もが同じ手順を踏めるよう平準化することが至上命題となりました。

属人化を打ち破る、「3つの小さなルール」

それまで、航空機関連の取引はたった一人の担当者が行っており、会社としてどのようなやり取りが発生しているのかブラックボックス化していました。この「脱・属人化」を果たすべく、バイタル社はkintoneやサイボウズといったITツールを導入します。しかし、これまでのやり方に慣れている社員にとっては、努力してもすぐに馴染むことができませんでした。

「ルールや規定を作っても、人はすぐには動けません。今まで自由にやってきたし、過去のやり方のほうが効率が良いと体が覚えてしまっているため、忙しくなると元のやり方に戻ってしまうのです」(土屋社長)

長年会社を支えてきたベテランへのリスペクトがあるからこそ、経営者としての苦悩は深いものがありました。

そこで土屋社長は、急激なIT化を一旦置き、「決めたルールを全員で守る」という組織文化を草の根から育てるための「3つの約束」を徹底することにします。

  • 駐車場は社屋側から詰めて停める
  • 返事は『はーい』ではなく、明確に『はい』
  • お客様への挨拶はしっかりと『いらっしゃいませ』

一見、品質管理や業務効率化とは何の関係もない、誰でもできる簡単なルールです。しかし、これこそが組織の体質改善における「準備運動」となります。まずは駐車場や挨拶といった「誰でもできる基礎的なルール」を全員で共有し、「会社に在籍するということは、その組織の文化・ルールを守ること」という筋肉(基礎体力)を組織全体につけていったのです。

この土壌が形成されたことで、結果的にkintoneへの入力や緻密な書類作成といった、本来の目的である「業務プロセスルールの徹底」への抵抗感が薄れ、平準化が一気に進むことになりました。

規格遵守はコストではない! 最強の「参入障壁」を生む組織改革


画像:PIXTA

JISQ9100規格への厳しい適応プロセスを経て、職人仕事の平準化を成し遂げた結果、バイタル社の売上は過去最高の約14億円となりました。

業務のルール化が進んだことで、情報を探す時間は劇的に減少し、業務フローが可視化されたことで上司が部下をフォローしやすい盤石な体制が完成しました。さらに、50名規模の中小企業でありながら、品質保証部内に「業務管理課」を新設。社員からの業務上の悩みを吸い上げ、常にプロセスを改善できる仕組みを整えました。

「一流の要求に応える」という姿勢は、単なる精神論ではありません。ボーイングが求める厳格なプロセスを遵守し、属人化を排除して「誰もが同じ品質を安定して出せる仕組み」を構築したこと自体が、他社には決して真似できない最強の参入障壁(競争力)となったのです。


土屋智宏社長

職人のカンやベテランの背中に頼る「昭和のモノづくり」から脱却し、ルールと仕組みで世界基準の品質を担保する。それこそが、地方の町工場が世界で戦い、売上3倍を実現できた確かな生存戦略なのです。

<取材協力>
株式会社バイタル
代表取締役:土屋 智宏
所在地:〒385-0034 長野県佐久市平賀900
創業:1971年6月
事業内容:自動水栓の企画製造販売

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