なぜ売上・利益ばかり追う社長の会社は潰れるのか?「数字に強い社長」になるための財務入門
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2026.07.11
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- 「今月も増収増益!儲かっている!」と喜んでいませんか?実は、それだけでは会社の本当の健康状態は見えていません。売上や利益が出ているにもかかわらず、手元の現金がショートして倒産に追い込まれる「黒字倒産」の危機は、多くの企業に潜んでいます。
解説:株式会社船井総合研究所 片山孝章
INDEX
「財務」や「決算分析」は、重要だと分かってはいても「専門用語ばかりで難しい机上の空論」と敬遠されがちです。企業の実態を示す「決算書」は、一定の会計知識がないと非常に「見えにくい形」で情報が掲載されているため、経営から遠ざかる一因になってしまうのも無理はありません。
そもそも、経営者は税理士や会計士を目指す必要はありません。すべてを完璧に理解しようとするのではなく、シンプルに自社の現状を把握し、今後の正しい財務戦略を打つために決算を活用できれば十分なのです。
ここで、元・寺田倉庫 代表取締役社長兼CEOである中野善壽氏の言葉をご紹介しましょう。
「会計にはいろんなカラクリの技術があるけれど、全体が増えたか減ったか、その総量は嘘をつかない。そして、その増減には必ず理由があります。だから、僕が会社の経営をチェックするときには、『グループ全部の預金通帳を持ってきて』と言います。そして通帳全部の残高を足して、半年前と比較する。会社の規模からして3000万円くらいの差は大したことはないけれど、例えばですが、32億円あったのが20億円に減っていたら、重要な何かがある。そうやってお金の流れを見ていけば、大きな判断を間違うことはない気がします。」
本記事では、経営者が最低限知っておくべき「数字に強い社長」になるためのファーストステップとして、財務の本質と見方の「型」を分かりやすく解説します。
なぜ「P/L(損益計算書)」だけではダメなのか?B/Sこそが企業の「耐久力」を表す
自社の決算書や試算表を開くと、大きく分けて「損益計算書(P/L)」と「貸借対照表(B/S)」の2枚があります。
- 損益計算書(P/L):会社のある一定期間における売上・費用・利益を示す、いわば「通信簿」
- 貸借対照表(B/S):企業のある一時点における資産、つまり会社が何を持っているかを示す「持ち物リスト」
日々の売上や利益を追い求める中で、会社の業績が直接記される「P/L」はイメージしやすいものの、「B/S」は何となく捉えにくく、使い方も分からないという経営者の方が多いのではないでしょうか。
しかし、企業経営においてまず重視すべきなのは、間違いなく「B/S(貸借対照表)」です。
どんなに「通信簿(P/L)」の成績が良くても、「持ち物リスト(B/S)」の中身がボロボロであれば、不測の事態に直面した際に会社は持ちこたえられません。
特に、原材料価格の高騰のような不測の事態において企業の地盤が揺らいでいる今、売上・利益を一時的に回復させること以上に、企業の「耐久力の指標」であるB/Sの資産性を正確に把握することの重要性が高まっています。
▼ 記事の後半では、こちらについて紹介しています。
☑ まずはB/Sの「ここ」だけに集中せよ
☑ 利益は「率」だけでなく、「額」も見る
☑ 経営の意思決定に繋げる「財務分析の5ステップ」
まずはB/Sの「資産の部」だけに集中する
B/Sは大きく分けて以下の3つのエリアに分かれているため、一見すると複雑に見えるかもしれません。
- 資産の部:会社がその時点で持っている財産のリスト
- 負債の部:いずれ返済しなければならない債務(借入など)のリスト
- 純資産の部:これまでの活動で蓄積してきた、返済不要の自己資本
まずは難しい複合的な関係は横に置いておき、「資産の部」だけに集中して眺めてみましょう。

「現預金はいくらあるのか」「売掛金はどの程度か」「建物や土地は帳簿上どのような金額で記載されているか」を把握することが、ぼんやりしていた企業価値を定量化し、財務改善をスタートさせる第一歩となります。
利益は「率」だけでなく、スケール感を示す「額」で見る
P/L(損益計算書)を見る際、財務指標の勉強をした経営者ほど「粗利益率が何パーセントか」「営業利益率が何パーセントか」といった、いわゆる「率」ばかりに目が行きがちです。しかし、実際の経営現場で活かすべきなのは、「率」と「額」両方の視点に他なりません。
簡単な例で考えてみましょう。
- A:1つ100円で、粗利益率40%の飴玉(1つ売れると、粗利「額」は40円)
- B:1つ500円で、粗利益率30%の飴玉(1つ売れると、粗利「額」は150円)
Aのほうが「率」は高いものの、手元に残る「額」はBのほうが圧倒的に多くなるでしょう。
いくら粗利益率が高い商売であっても、スケール感(額)がないビジネスでは、次の投資や事業拡大に大きく踏み出すことはできません。経営者には、率の高さによる効率性だけでなく、事業を拡大するための「額(スケール感)」を求めた経営判断も同時に織り交ぜていく視点が求められます。
自己資本比率は「静」ではなく「動」でシミュレーションする
企業の安全性を測る代表的な指標に「自己資本比率」があります。
自己資本比率(%)= 純資産額 ÷ 総資産額
これは、会社の全資産のうち、これまでの利益の蓄積である「純資産(企業体力)」がどの程度あるかを計算するものです。一般の財務書籍では「自己資本比率は高い方が良く、毎年黒字を出して蓄積していくべきだ」という当然の結論が書かれています。
一方で、豊富な資金を持つ大手企業とは異なり、中小企業が成長するためには金融機関からの融資が欠かせません。融資を利用すれば一時的に自己資本比率は小さくなるため、一概に「一律で●%以上でなければならない」と決めつけることには意味を持たないのです。

ここで最も重要なのは、自己資本比率を「静(一時点の数字)」ではなく「動(シミュレーション)」で見るという視点です。
- 「もし自社がこれからやりたい投資に踏み切った場合、比率はどう変化するか?」
- 「仮に不測の事態で今期損益が赤字になってしまった場合、どれだけ持ちこたえられるか?」
- 「新たにM&A(企業の合併・買収)を検討した場合、財務バランスはどうなるか?」
このように、今後の具体的なアクション(投資、赤字、事業展開)を想定したシミュレーションに活用して初めて、自己資本比率という指標は活きた経営ツールへと昇華します。
バラバラな数字を経営の意思決定に繋げる「財務分析の5ステップ」
経常運転資金、要収益返済借入金、キャッシュフロー……これまでに耳にしたことがある財務指標は、それぞれ単体でも活用可能ですが、バラバラに計算するだけでは実際の経営課題を解決するには至らないことがほとんどです。
そこで、プロの財務コンサルタントが経営実態をシンプルかつ大まかに把握するために活用している「財務分析の5ステップ(型)」をご紹介します。複雑な指標も、以下の5つのカテゴリに分けて上から順番に計算することで、自社の本当の姿が見えてきます。
- 資金調達構造:自社の借入は運転資金見合いが多いのか、それ以外に活用しているものが多いのか?
- 収益力・返済能力:自社の収益力は、現在の借入対比で適切なものと言えるか?
- B/Sの構造:自社の企業体力は、借入対比で十分に蓄積していると言えるか?
- 収益構造:自社は売上に対して十分に利益を確保できているか?
- 資金繰り:自社は既存の融資を返済するに足るだけの、健全な資金繰り環境を作れているか?
材料が多く複雑になりすぎると、情報過多で混乱を招き、シンプルに実態を把握することが難しくなります。まずはこの「5ステップ」の型をマスターし、順番に計算することから始めましょう。
まとめ:テクノロジーの時代だからこそ、経営者に求められる「吟味する力」
貸借対照表(B/S)や損益計算書(P/L)の元となる「複式簿記」の仕組みが完成したのは、西暦1500年前後と言われ、実に500年以上の歴史があります。人類史上最高の発明とも言われ、企業の経営実態を体系的に表すこの仕組みは、今も変わらずビジネスの共通言語です。
近年では、エクセルやBIツール、会計ソフト、AI等を活用すれば、専門知識がなくても一瞬で大量の財務データが処理・分析できるようになりました。しかし、ここで意識すべきなのは、「技術を利用するのは常に人間である」ということです。
どれだけテクノロジーが進化し、財務分析が効率化されたとしても、「その数字の裏にある経営課題を見抜き、次の打ち手を吟味する力」までコンピュータが勝手に持ってくれるわけではありません。
完璧な会計知識を持つ必要はありません。まずは決算や毎月の試算表が出たときに、「資産の部」を眺めて違和感がないかチェックする。その違和感こそが、まだ誰も気づいていない自社の経営課題をあぶり出すのです。
次回は、「黒字倒産を防ぐ!資金繰り・キャッシュフローの鉄則」をお届けします。

