「やめる」改革が会社を強くする
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2026.10.07
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- 「物流の2024年問題」で話題となった物流業界。さまざまな改革が進んだことで、経営のヒントが盛りだくさんの業界の1つです。今回ご紹介するのは、過去の過剰なサービスをやめ、従業員の満足度を高めた会社の事例です。何かをやめる際に発生する現場の反発や不安を、経営者はどのように解消すべきでしょうか。船井総研サプライチェーンコンサルティングの田代三紀子が事例をもとに解説します。
解説:船井総研サプライチェーンコンサルティング 田代三紀子
INDEX
物流現場で重要性増す「やめること」
大阪のメーカー・A社が実施した、物流の改革についてご紹介します。
同社は、子会社に物流会社、孫会社に運送会社を持ち、東日本と西日本に物流拠点を設けるなど、強固な物流体制を強みとしていました。
しかし、メーカーの本業は「よい製品を作り、サービスし、たくさん売ること」。物流はあくまで裏方であり、いかに低コストで、よいサービスを提供するかが関心事でした。
実際、多くの現場で、営業担当者はお客さま満足のために「当日発送、翌日届けます」「空き箱を回収します」「指定の場所までお届けします」といった手厚いサービスを提案します。しかし、その実行を担う物流側にはこのサービスを行うインセンティブがなく、拒否することもできず、責任範囲もあいまいなままでした。
結果、物流現場は慢性的な残業に追われ、疲弊していたのです。
しかし、2024年にはトラックドライバーの時間外労働時間の上限規制が適用され、物流会社の経営環境は厳しさを増しています。多くの経営者はこうした状況下において、AI・DXなどの「新たな手」を考えます。
しかし本当に必要だったのは、過剰なサービスを「やめること」でした。
当日出荷をやめて残業約4割減

画像提供:PIXTA
大阪のメーカー・A社がやめたこと。それは「当日受注・当日出荷」でした。「当日受けたものを当日中に出す」という運用から「当日受けたものを翌日に出す」に切り替えたのです。
結果からお伝えすると、この改革は大成功を収めました。現場の時間にゆとりが生まれて作業シフトが組みやすくなり、結果として総残業時間が37.8%も削減されたのです。懸念されていた大きなクレームや失注も発生せず、多くの顧客が物流業界の実情を理解してくれました。この成功体験が、社内を協力体制へと向かわせたのです。
いかに物流改革を成し遂げたのか
しかしご想像のとおり、実行の直前には社内から反発が起きていました。営業部門からは次のような声が上がります。
「届くのが遅くなれば、お客様は他社に流れる」「売上が下がったらどうするのか?」
とはいえ、これまで通りのサービスを維持しようとすれば、いずれトラックドライバーを確保できなくなり、荷物の運び手が不足し、サービス自体が立ち行かなくなる恐れがありました。そこで、経営トップが覚悟を決め、トップダウンで号令をかけたのです。
▼ 記事の後半では、こちらについて紹介しています。
☑ 営業の不安を払拭した「ある団体」の活用法
☑ 実態調査で判明した「実は不要な無駄業務」
☑ 現場の反発を抑え込む「行脚」と「研修」
「やめる」ために取り組んだ3つのこと
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なぜ、反発していた他部署が歩み寄り、改革が進んだのでしょうか。その最大の理由は、経営陣が「物流の2024年問題」に伴うパワーバランスの変化を読み取り、課題ごとに「大義」を掲げて改革を進めたことにあります。
営業の「恐怖」を取り除く
営業が恐れていたのは、サービスが悪化すること以上に、競合他社にシェアを奪われることでした。
「A社がやめた即日発送、ウチなら対応しまっせ」
と競合に言われれば、顧客が他社製品に流れてしまうかもしれない。そんな恐怖心が強かったのです。
そこで同社は、単独で動くのではなく、所属する業界団体での立場を活用しました。他社も巻き込み「業界全体で一斉に、得意先へ物流緩和のお願い文書を出す」という動きを主導したのです。
業界全体と足並みを揃え、競合との意識合わせを図ったことで、営業部門の不安を払拭しました。
顧客に聞き取り調査、「実は不要な無駄業務」の削減
営業が良かれと思って引き受けていた無料サービスも、これを機に見直しました。
【見直した過剰サービスの例】
- 朝9時ジャストに届けてほしい
- 運んできた荷物を倉庫の指定の棚に収めてほしい
こうした細かいサービスは、トラックの配送効率を大幅に下げる上、運賃を稼ぎにくくなるため、運送会社から嫌われる要因だったのです。

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そこで納品先の実態調査を行い、顧客に対して次のように伝えました。
「同様の作業を続ける場合は、料金を請求させていただく必要があります」
すると、多くの顧客から次のような回答が得られたのです。
「自発的にやってくれるから頼んでいただけ。お金がかかるなら、そこまでしてもらわなくても大丈夫ですよ」
調査により、顧客の声という大義を得て、過剰だったサービスをスパッとやめることができたのです。
「物効法」をチャンスに組織改革
世の中の意識の変化も後押しになりました。
2026年4月に「物流効率化法(物効法)」が施行されました。大量の荷物を扱う「特定荷主」には物流担当役員(CLO)の選任が義務付けられ、対応を怠れば社名公表などのペナルティのリスクが生じます。
参考:物流効率化法(船井総研サプライチェーンコンサルティング 物流用語辞典)
同社は、これまで営業本部の下部組織として物流部門が配置される「縦割り」構造でしたが、特定荷主に該当した機会を生かし、この体制を改革。営業部と並列の「物流本部」として独立・格上げさせました。経営陣は、このコンプライアンス上の大義を活用し、組織のフラット化を実現したのです。

A社の旧組織図(社長online編集部作成)

A社の新組織図(社長online編集部作成)
ただし、現場の理解あってこそ
組織を動かすという点で、ここで1つつまずきやすいポイントについて触れておきます。それは「人は大義だけでは動かない」ということです。
組織が大きくなり、社員が増え、経営陣との距離が広がっていればなおのことです。
この会社では、のちに物流本部長となる人物自らが全国の地方営業部をくまなく回る「全国行脚」を実施し、営業担当者の不満や意見を直接ヒアリングして回りました。
同時に、社内に物流部門の実際を知ってもらう取り組みも始めました。新入社員や昇進した管理職に対し、物流センターでの「現場研修」を必ず受けてもらうようにしました。
「自分たちのリップサービスが、いかに現場を追い詰めているか」を営業担当者に肌で感じてもらい、無駄なサービスの断捨離と顧客交渉をスムーズに進める風土をつくったのです。

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同社では現在も、荷主としての社会的責任を果たしつつ、持続可能な物流体制の構築に積極的に取り組んでいます。
もはや、顧客至上主義は最善ではない?
物流に限らず、取引先・従業員・社会との関係において「いつまでもお客だけが偉い時代ではない」。この認識を持てるかどうかが、これからの経営の分かれ道です。
環境変化に伴う力関係の逆転を察知し、適応できれば、変化に強い会社として生き残る力は増していきます。一方で、いつまでも顧客至上主義に走り、現場の疲弊を見ないままでは、会社は土台から崩れていくでしょう。
顧客の顔色をうかがうだけでなく、長期的な視点で改革を断行できるか。それが結果的に顧客への安定したサービス提供につながります。物流業界をのぞいてみると、そんな未来図が見えてくるのです。
解説:船井総研サプライチェーンコンサルティング 執行役員 コンサルティング本部 副本部長 田代三紀子(たしろ・みきこ)
製造業・小売業を対象に、物流戦略策定を軸とした拠点戦略、コスト評価、委託先見直し、物流部門構築などのテーマを中心にコンサルティングを行っている。製造業・小売業物流部門責任者向け研究会「ロジスティクス・リーダーシップ・ソサエティ」を主宰。
