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経営者が注意すべき「3つの重大職場内ハラスメント」

2023.08.25

社長がハラスメントをしないために

令和4年4月1日より、労働施策総合推進法に基づき 「パワーハラスメント防止措置」が中小企業の事業主にも義務化されました。

日本の多くの企業に潜在していたハラスメントは最近になってようやく個々の会社の問題ではなく、全世界に向けて日本の恥ずべきトラブルとして扱われるようになっています。なかでも有名企業の社長や管理職がハラスメントの実態としてニュースで糾弾されることもあり、かなりの頻度で取り上げられるようになりました。

そうした状況、大企業だけの問題と考えがちです。しかし、大企業以上にハラスメントを気にするべきなのは中小企業であることを知っていますか?

それは、中小企業は社員間のかかわりが深く、問題が内在化しやすいからです。

本記事では、そんな中小企業の社長が自分の会社でハラスメントの被害が生じないためにはどうすればよいかについて、ハラスメントの定義や事例と共に解説します。

職場内ハラスメントとは

職場内のハラスメントとは、一体どのような被害のことを指すのでしょうか?

端的に言うと、職場内ハラスメントは職場の中で行われる「嫌がらせ」と「いじめ」のことを指します。

社内で起こる問題であっても、事件の重さによって刑法上の問題につながることもあり、このことから世間では「職場内ハラスメントがある会社=ブラック」という認識が常識になったといっても過言ではありません。

しかし、勤続年数や業界によっては自分の行動が職場内ハラスメントに当たるということすら認識しておらず、被害者をさらに傷つけてしまうこともあります。ただ、ハラスメントといってもこれはハラスメントになるのかならないのか、というのは現場判断となりがちです。

まずは、どのような行為が職場内ハラスメントに当たるのか、職場内ハラスメントは会社にどのような悪影響を与えるのかなどについて詳しく説明していきます。

代表的な職場内ハラスメントの3種類

ここからは、職場内で行われる代表的なハラスメントの三種類について説明していきます。最低限どういったものがハラスメントというカテゴリーになるのか知っておいて損はないはずです。

パワハラ

一つ目は、「パワハラ」と称される、パワー・ハラスメントです。

パワハラは職場内で発生するほとんどのハラスメントを含める広義のハラスメントであることから、厚生労働省ではパワハラの定義を以下のように定めています。

①優越的な関係を背景とした言動であって
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
③労働者の就業環境が害されるもの。

①の「優越的な関係を背景とした言動」とは、自分より役職が低い社員に対し、その上下関係を利用してハラスメントを加えることが代表例です。。

②の「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」は、言葉通り業務とは関係のないものを意味します。

③の「労働者の就業環境が害されるもの」は、身体または精神に苦痛や不快感を与えることによって就労意欲を低下させることなどを指します。

それでは、具体例を通じてどのようなポイントがその成立要件に当てはまるかについて検討してみましょう。

【具体例】
会社の宴会で恥ずかしがり屋の新入社員に対し、部長Bは「ここにいるみんなが笑うまで一発芸をやってみろ」と命令。気が進まない様子をする新入社員に対して部長は「滑ったら次のプロジェクトから外すからな」とさらに圧力を加えた。その後も新入社員の名前を呼びながら一発芸をやるよう周りに拍手を促し、その新入社員は精神的苦痛を訴えながら出勤を拒否した。

この例で、パワハラに当たるポイントはどこでしょうか。

まず部長は新入社員に対し、①の優越的な関係を背景として「滑ったら業務から外す」と圧力をかけ、②しつこく業務とは無関係の一発芸をやらせることにより、③新入社員の就労環境が乱されるほど精神的な苦痛を加えました。これは、たとえ冗談やその場のノリという言葉では片づけられたないことであったりします。会社文化として形成されものであったとしても、その人がどう受け取るかという観点が重要なのです。

このように3つの要素が満たされた言動はパワハラが成立し、労働施策総合推進法第30条の2で規制されるようになります。

「自分が新人だったころは普通だった」「これぐらいの根性は必要だ」と誤魔化すのは通用しない時代です。きちんと危機感を持ったうえで、自分の普段の言動に気を付けましょう。

セクハラ

二つ目は「セクハラ」と呼ばれる、セクシュアル・ハラスメントです。

人事院は官公庁ながら、定義をしっかりと開示しています。参考すると、以下の二点がセクハラに該当するとされています。

① 他の者を不快にさせる職場における性的な言動
② 職員が他の職員を不快にさせる職場外における性的な言動

会社内だけでなく、宴会や外出など社外で行われた言動についても認められるということを抑えておきましょう。

一方、セクハラと聞くと、「性的な身体接触」が最初に思い浮かびますが、近年では広い範囲までセクハラが認められています。

具体的には、①性的な関心や欲求に基づくものをいい、②性別により役割を分担すべきとする意識に基づく言動、③そして性的指向や性自認に関する偏見に基づく言動などが含まれているのです。

①性的な関心や欲求に基づくものは、身体のサイズを聞いたり、性的な経験を聞くことなどが含まれます。②と③に比べるとセクハラとして最も広く認知されていると言えます

②性別により役割を分担すべきとする意識に基づく言動は、女性社員にだけお酌をさせたり、男性社員にだけしつこく体力や根性を求めるなど、性役割を押し付ける言動ももちろん含まれます。

③性的指向や性自認に関する偏見に基づく言動は最近になってようやく問題意識が生まれた問題ですが、ジェンダーに関する差別的な該当します。「自分はLGBTQの人間とは働きたくない」などといった発言がその例です。

これらの言動も男女雇用機会均等法第11条で規制されており、被害の内容によっては刑法に基づいた処罰を受けることもあります。

パワハラと同様、年齢によっては自分が加害者になっていることすら認識していない場合もあるので、あらかじめ自分を含めて周りにもセクハラに関する問題意識を共有しましょう。

一方、職場内のセクハラと聞くと「中年の男性が加害者で、若い女性社員が被害者」というイメージが思い浮かぶのではないのでしょうか。

しかし、セクハラの種類はそれだけではないのです。

たとえば「女性社員が男性社員の身体を不適切な表現で褒めること」「男のくせに~するな、と差別的な発言をすること」などもセクハラに当たります。また、今回は発言について大きく取り上げましたが相手がセクハラと感じるような行動や指示、命令もまたハラスメントの範囲内になると思っておくとよりよいでしょう。

これは社長でも役職者でも同一です。歳や年齢を問わず、不適切な言動や行為をしたら誰でも加害者になるということに気を付けましょう。

モラハラ

三つ目は「モラハラ」と呼ばれるモラルハラスメントです。

モラルに反した行為を続けることにより、相手を精神的に苦しめることがモラハラに当たります。

よくある例は「一人にだけ挨拶を返さない」「仕事を振らず、周りに無能と思わせる」などがあり、学校でのいじめと似たような性格を持ちます。

モラハラの場合も事件の重さによっては刑法上で定められている侮辱罪、名誉棄損罪が成立する重大な問題ですので、周りが加害を始めてきた場合は賛同せず救済方法を探しましょう。

具体的な職場内ハラスメントの事例

定義は理解していても、具体的にどのような言動が職場内ハラスメントとして処罰をされるのか気になるところですね。

それでは、中小企業におけるハラスメントの事例をいくつかご紹介します。

パワハラの事例

家電量販店の従業員Jが派遣労働者Aさんに対して販売促進用ポスターを丸めた紙筒様の物で頭部を強く約30回殴打し、その次にクリップボードの表面及び側面をある程度力を込めて更にAの頭部を約20回殴打。他にもAさんはDさんやIさんからも暴行を受ける。

裁判の結果、加害者たちには合わせて約140万円相当の損害賠償が命じられた。また、お店側に対しても使用者責任が問われ、Aさんが業務上のミスによって大腿を3回蹴られたことに対してお店側が10万円を賠償することになった。

セクハラの事例

従業員Aさんに対して自分の不貞相手との性生活についてしばしば話していた上司X。彼の言動は懲戒の対象とされ、出勤停止や給与の減額などが下された。

最終的にXは、子会社への異動を命じられ大幅な減給に。最終的に同社を退職することとなった。

モラハラの事例

保険会社の社員であるYさんは上司であるXさんから「意欲がない、やる気がないなら、会社を辞めるべきだと思います」などと記載された電子メールを、Xとその職場の同僚に送信。Xはこのメール送信が不法行為に当たるとして、損害賠償を求める訴えを提起し裁判所でこれが認められた。結果的に裁判所は上司のXさんの言動が侮辱的言辞であったと認め、Xさんに5万円を賠償することを命じた。

職場内でハラスメントが発生した際の影響

職場内でこのようなハラスメントが発生した場合、会社にはどのような影響が現れるのでしょうか。

一見、組織内で解決すれば済む問題であるように思われがちですが、実は会社の運命を左右するほど重大な問題になります。

具体的には以下のような影響が考えられます。

・会社に対する社会的評価が悪くなる
・悪評により、人材確保が難しくなる
・被害者から慰謝料を請求される
・職場の雰囲気や社員間の関係性が乱される

どれも会社の経営に深刻な影響を及ぼすということがわかりますね。

「あそこはハラスメントが蔓延するやばい会社だ」と一度認識されてしまうと、新卒採用や営業の実績が悪化したり、出資先の募集が難しくなるなど様々な分野で不利益を受けるようになります。

安定した経営基盤を維持するために職場内ハラスメントは防止・対処が不可欠な問題なのがわかりますね。
H2:社員間のハラスメントを防ぐためには
こうしたハラスメントは経営者自身が気を付けるだけで終わるような問題ではありません。

民法で定められている使用者責任の規定により、社員間で発生したハラスメントについて会社側が責任を負担する場合もあるからです。

つまり、社員がハラスメントのない安全な環境で働けるようにすることが使用者の義務であるところ、その監督義務を果たさなかったことに対して責任が求められるのです。

このような責任から逃れ、社員が安心して働けるような会社環境を作るために経営者はどのようなことをすればよいのでしょうか。

以下で、多くの企業が取り入れているハラスメント防止制度について説明します。

相談窓口の設置

一つ目は、相談窓口を設けることです。

相談窓口は事前策と事後策の両方の役割を持っており、被害が起きる前に対策を講じることや、被害が起きた後に被害者をフォローすることができます。

被害にすぐ対応できるという長所もありますが、秘密が漏れた場合被害者は二次被害に陥られるため、相談窓口では秘密順守義務が特に重視されます。

ハラスメント研修の実施

二つ目は、ハラスメントの研修を実施することです。

ハラスメント研修ではハラスメントに該当する言動や成立要件などを専門家が詳しく説明するので、職場環境の改善に大きく役立つと評価されています。

特に年齢や性別を問わずハラスメントに対する認識を統一することができ、「問題になるとは思わなかった」「自分が若手だった時代では大丈夫だった」などといった事態を防げるという点は大きなメリットになりますね。

社内における実態検査の実施

三つ目は、社内における実態検査を実施することです。

いくら防止策を講じたとしても、複数の人々が同じ場所で密接に関わりながら仕事をしている以上、ハラスメントが発生するのは避けられない問題です。

そこで社内で実態検査を実施し、潜在化していた問題を公にすることで迅速な対応を可能にするのです。

しかし、社内実態検査も相談窓口と同様、秘密順守が最も重要なポイントになります。

検査の結果をもとに被害者が被害を記載したことを公にして被害をより深刻化したり、人事評価で被害者が不利益を被ることがないよう、透明性の確保が必要となります。

ハラスメントという悲劇を生まないために

ここまでで、職場内ハラスメントに関する説明は以上です。

お分かりの通り、職場内ハラスメントはただの「いじめ」で終わる問題ではありません。世間の評価や法的処置により、会社に膨大な影響を与えるようになります。あなたが社長であれば、そうした事態の発生は起きてからでは取り返しがつきません。

自分がハラスメントを犯さないように意識するだけではなく、会社全体において「誰も加害をしない、誰も被害を受けない」という環境を整えられるよう心がけましょう。