事業承継の相談が自然と舞い込む社長の「任される力」
-
2026.09.03
-
- 葬儀業などを手掛ける株式会社蓮華(茨城県筑西市)は、事業承継を経て数年でグループ売上約3億円規模へと成長しています。同社の高宮暁伸社長は九州の信用金庫出身。北関東に土地勘はなく、葬儀業は未経験です。にもかかわらず、老舗の葬儀会社から承継を頼まれ、さらに飲食、ジムなど異業種の承継相談まで舞い込み、いずれも成功させています。なぜ承継の相談が集まり、うまく事が運ぶのでしょうか。一言で言えば、「任される力」にあります。
株式会社蓮華 高宮暁伸社長
執筆:社長online編集部 山内淳史
INDEX
「栃木で葬儀会社をやってほしい」
高宮社長のキャリアはユニークです。大学卒業後、地元の信用金庫に入庫し、7年半勤務しました。その後、外資系生命保険会社を経て保険代理店へ転職します。
この保険代理店に誘った先輩、すなわちこの代理店のオーナーが、後の高宮氏の人生を大きく動かす人物でした。保険業のかたわら海外での会社設立やカフェ事業など多方面に手を広げ、いつの間にか、栃木県で僧侶の資格まで取得していたといいます。これがのちに、高宮社長が葬儀事業を手掛けるきっかけになります。
2017年、オーナーが保険代理店を大手生命保険会社に売却。その後、古参メンバーにそれぞれ新しい事業の立ち上げが割り振られました。
オーナーから高宮氏に発せられたミッションは、自身が僧侶の資格を取った栃木で「葬儀社を立ち上げてほしい」という内容でした。
しかし、そこは縁もゆかりもない土地。未経験での参入の壁は想像以上でした。
まず、ローカルな葬儀市場では、昔から地元の人々はどの葬儀社に頼むか決まっており、また「家族葬」という言葉自体が世間にほとんど認知されていなかったのです。
さらに大きな壁となったのが、葬儀業界の閉鎖性でした。葬儀に不可欠な料理業者や花屋に声をかけても、「地元の既存葬儀社との付き合いがあるから」とことごとく断られます。
そこで高宮社長は、隣町や隣の県にまで声をかけ、協力業者のネットワークを広げました。取引先は増やしたいが、既存の地元葬儀社と角を立てたくないという業者側の心理があったのです。
葬儀業界に「明朗会計」を持ち込む

画像提供:PIXTA
厳しい環境下で、高宮社長が気を配ったのは、料金の透明性でした。
葬儀業界の費用は一般の人にとって「ブラックボックス」です。見積もりを安く見せかけ、実際には見積もりよりも高く請求するケースが珍しくないといいます。
【葬儀業界でよくある料金トラブルの例】
- 必要日数分のドライアイスを見積もりに入れない。
- 料理の単価を実際より低く設定する。
- 返礼品の数を極端に少なく見積もる。
国民生活センターにも、こうした料金トラブルの相談が多数寄せられています。
参考:依然として多い葬儀サービスの料金トラブル-「家族葬だから安い」と思っていませんか?-(国民生活センター)
高宮社長自身も、保険営業時代に根拠の薄いまま「お葬式費用に備えて500万円の保険に入りませんか」と提案しつつ、実際にいくらかかるかは分からない状況に違和感を抱いていました。
葬儀は、一般の人にはとてもわかりにくい。そこで蓮華グループでは、事前に総額を提示。お花代、料理代、ドライアイス、返礼品まですべてを見積もりに含め、さらに「予備費」まで計上します。
「見積もりだけでぱっと比較されると、うちは高いんです。しかし最終的な支払額で比較すれば、むしろ安心感のある価格設定ですし、見積もり金額を請求が超えることは絶対にないんです」(高宮社長)
この方針と、親身な接客により、最初の拠点である小山あんしん葬祭はGoogle Map上における評価は299件、5点満点中4.9という高評価を獲得(2026年8月時点)。口コミと紹介が新規顧客の主要な流入経路になっています。
↑Googleマイビジネスにおける小山あんしん葬祭の口コミ(2026年8月19日時点)
▼ 記事の後半では、こちらについて紹介しています。
☑ 異業種を次々M&Aする蓮華グループの多角化戦略
☑ 高宮社長のもとに事業承継の相談が集まる理由
☑ 任された後、経営を軌道に乗せる3つのコツと「桃鉄型M&A」
同業の葬儀会館を承継
2022年、小山あんしん葬祭は開業4年、年商4000万円の小さな会社でした。
その小さな会社に、1つの転機が訪れます。同業者から事業を引き継ぐことになったのです。
取引業者の紹介で知り合った、常楊葬祭(茨城県筑西市)の葬儀を手伝っていた同社。現場で働く中で常楊葬祭の前社長から「うちには跡取りがいないから、引き継いでもらえないだろうか」と頼まれたことを契機に、2022年5月に承継しました。
常楊葬祭会館(蓮華 公式ホームページより)
ここで話は終わりません。前社長から「近所にもう1社、跡取りのいない葬儀社がある」と持ちかけられます。それが株式会社蓮華でした。蓮華は常楊葬祭の「のれん分け元」にあたる老舗で、自社葬儀ホールを3棟持ち、年商は約2億円。2022年11月に、同社の承継が決まります。
これにより、蓮華グループの売上は約3億円、スタッフはパート・アルバイトを含め約50名規模に成長。栃木・茨城の葬儀店として、認知が広がっていくことになります。
ジム、飲食を次々M&A
この承継と前後して、高宮社長は異業種にも進出していきます。
きっかけは、葬儀の利用者の声でした。
「お葬式の仕事をする中で、ご遺族の皆さんが後悔の言葉を結構口にされるケースがあるんですよ。もっと元気なうちに旅行に連れて行ってあげれば良かったとか、最期は全然ご飯が食べられなかったから、元気なうちに好きなもの食べさせてあげれば良かったとか。」
そこで、高宮社長は「生きている時間を豊かにする事業」を多角化させていきます。それまでの葬儀事業に加えて、英国製ペーパークラフトの輸入、販売を行う「スマイルポート」を新規事業として立ち上げました。
スマイルポート 公式ホームページより
さらに、福岡でジムを、北関東で飲食店をM&A。
一見すると全く異なるこれらの事業は「生きている時間を豊かにする」という点で一貫しています。このうちジムとラーメンは、相手からやってきたM&Aだといいます。
【蓮華グループが展開する異業種M&Aの事例】
- ラーメン店「横濱家系ラーメン幸家 水海道店」(2024年4月)
- パーソナルジム 「ボニーズ(boneedz)」福岡に2店舗([1号店]2025年5月、[2号店]同9月)
- 韓国料理店「豚熟」(2025年7月)
- アサイーボウル店「アサイー工房宇都宮店」(2026年2月)

(左上)ラーメン店「横濱家系ラーメン幸家 水海道店」(右上)パーソナルジム 「ボニーズ」(左下)韓国料理店「豚熟」(右下)アサイーボウル店「アサイー工房宇都宮店」(いずれも画像提供:蓮華)
高宮社長が「任される」理由
なぜ高宮社長のもとには、これほど多くの事業承継の相談が集まるのでしょうか。
しがらみがない安心感と信用力
高宮社長は「業界人っぽくなかったからではないか」と分析します。
長年、葬儀業ひと筋にやってきた昔気質な経営者と、葬儀業界にしがらみもなければ、地縁もない高宮社長は、ある意味で対をなす存在でした。
部外者ならではのプレーンさ、フラットさがあったからこそ、引き継ぎを検討する側の経営者にとって非常に相談しやすい安心感になったとみています。
自身の会社のほかに、同業者から「手伝ってあげてほしい」と頼まれれば、足を運び、仕事を手伝っていました。その数ヶ月に及ぶ真摯な働きぶりを見て前社長から「ここを引き継いでくれないか」と打診されています。
財務力
元金融マンという経歴もプラスに作用しました。事業を引き継ぐ上で最も重要となるM&Aの組み立てや、引き継ぎ後のリファイナンスなどを理解しているため、銀行との折衝も比較的スムーズに進みます。
実際、蓮華の事業承継を検討していた当時、高宮社長が立ち上げた年商4000万円の小山あんしん葬祭とは規模がまったく異なり、資金も不足気味でした。
しかし、銀行が重視するルールや心情を熟知していた高宮社長は、銀行との信頼関係を構築していき、銀行から資金準備とバックアップを確約してもらえたため、承継を決断したといいます。
葬儀業のみならず、引き継いだパーソナルジムも2店舗合わせて単月黒字化を達成。ラーメン店も、事業継続が困難な状態から引き継ぎ、体制を立て直しています。
任された後、経営を軌道に乗せるコツ

画像提供:PIXTA
事業を承継しても、その後のPMIや黒字化に悩むケースは多々あります。しかし同社では、事業継続が困難な状態にあった小規模事業を引き継ぎ、体制整備・収益化・成長を推進してきました。
承継した事業を次々軌道に乗せた背景を見ていくと、以下の3つにまとめることができます。
①軌道に乗るまで、自ら現場に入る
高宮社長は、引き継いだ事業を人任せにせず、まずは自分自身が現場を理解するようにしています。
常楊葬祭の承継時は、引き継ぐ前から何度も手伝いに通い、引き継ぎ後も数ヶ月、社長と一緒に働いたといいます。
2025年7月に承継した韓国料理店の買収後には、半年間毎日店長として勤務。午前に葬儀の仕事を済ませ、午後は韓国料理店でサムギョプサルを焼く日々を過ごしていたと言います。
サムギョプサルを焼く高宮社長(画像提供:蓮華)
②誰に対しても「誠実さ」を意識する
金融機関時代に、羽振りの良かった社長が急に資金繰りに窮する姿を何度も目にしてきた高宮社長。いつ立場がひっくり返るか分からないという実感があるからこそ、誰に対しても誠実に対話し、「高宮さんなら間違ったことや裏切りはしない」という信頼関係を醸成しています。
③人員を融通し合い、シナジー発揮
近隣の葬儀社をグループ化したことで、経営効率と労働環境を改善しています。
人材のなり手が限られると言われる葬儀業ですが、複数の拠点がまとまったことで会館同士で足りない人員を補充し合うことが可能になりました。
これにより、人材配置の難易度が大きく下がり、社長自身が現場に張り付く労力も削減できたといいます。
将来的には、「後継者不足に悩む日本の食文化を担う会社も引き継ぎたい」(高宮社長)と意欲をみせます。
地方でこそ「桃鉄型M&A」が活きる
地域にこだわらず、ご縁とタイミングを大切に全国各地の事業を承継してきた高宮社長。その奔走する姿を見て、娘さんはある日こう口にしたそうです。「パパって『桃太郎電鉄』をリアルでやっているみたい」
プレイヤーが社長となり、日本全国を巡りながら物件を買い集め、資産を増やしていく国民的ゲーム。高宮社長の歩みは、確かにその実写版と言えそうです。
人口減少が進む地方において、すでに地域で自走している事業をポートフォリオに入れていく「桃鉄型M&A」も、中小企業の1つの戦略なのかもしれません。
蓮華グループは今後、基盤の北関東と、パーソナルジムがある九州で、事業承継と規模拡大をすすめ、それぞれの事業ごとに社長業を任せられるように育て、会社全体として「生きている人の人生をサポートする伴走企業」を目指すといいます。
「私自身もそうなんですけれど、最期はいい人生だった、楽しい人生だったなって思って終わりたい。仕事を通じて、そこに向けてのお手伝いをやっていきたいですね」(高宮社長)
【取材協力】
社名:株式会社蓮華
代表者:代表取締役 高宮 暁伸
設立:1985年3月6日設立(2022年11月、現代表がM&Aにより引き継ぎ)
本社:茨城県筑西市門井1428-1
福岡支店:福岡県福岡市博多区空港前2-5-40-1F
資本金:1000万円
従業員:55名(アルバイト含むグループ全体)
【社長プロフィール】
高宮 暁伸(たかみや・あきのぶ)
福岡県北九州市出身。大学卒業後、北九州八幡信用金庫に入庫し7年半勤務。2004年から外資系生命保険会社および保険代理店での勤務を経て、2017年栃木県で株式会社INORIを設立、「小山あんしん葬祭」を創業。2022年に有限会社常楊葬祭、株式会社蓮華の代表に就任。3児の父。趣味は料理。WEB小説執筆にチャレンジ中。
