離職率を下げるたった2つの「魔法の言葉」
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2026.07.30
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- 社員の心を離さないために、今日から即座に実践できる言葉遣い「ストローク」「ペップトーク」の技術についてご紹介します。解説は企業・団体向け1on1やマネジメント、コーチングなどを手がける、船井総研ホールディングス・グループカルチャー推進室エキスパートの中川貴司です。
解説:船井総研ホールディングス 中川貴司
執筆:船井総合研究所 社長online編集部 山内淳史
INDEX
どんなに素晴らしい経営戦略があっても、現場の社員の心が離れていては成果は上がりにくいものです。重要なのは従業員の「心の健康」を保つことです。
実は、健康経営と離職率には相関性があります。健康経営のレベルが高い企業のほうが、離職率は低いとされています。健康経営銘柄2025に選定された企業の平均離職率は3.5%であり、全国平均の12.1%と比べても、離職率は3分の1以下に抑えられています。(参考:経済産業省)
<解説プロフィール>株式会社船井総研ホールディングス 中川貴司

金融機関、ファシリティサービス、コンサルタントとして20年以上にわたり中小企業支援・組織運営に従事。現在は企業・団体向け1on1、マネジメント研修、コーチング研修を手掛ける。また少林寺拳法道場を主宰し数多くの世界大会出場者を輩出するなど「人を育てること」に40年近く関わり続ける。
魔法の言葉2つ。「ストローク」と「ペップトーク」
では、社員の心の健康を保つ方法とはどのようなものでしょうか。
最も簡単な方法は、部下にかける「言葉」を変えることです。難しい専門知識は要りません。たった2つの「魔法の言葉」を知っておくだけで、会社の空気は確実に変わり始めます。
社員の意欲を引き出し、定着を促すための手法には、大きく分けて2つのアプローチが存在します。それが「ストローク」と「ペップトーク」です。
ストロークとは、相手の存在そのものを認める働きかけを指します。一方、ペップトークとは、スポーツの試合前などに行われる、短く肯定的で、相手の背中を力強く押す言葉がけを指します。
魔法の言葉①「〇〇さん、おはよう」(ストローク)

画像:生成AI
「〇〇さん、おはよう」。これはストロークの技法です。
単に「おはよう」と言うのではなく、「〇〇さん、おはよう」と名前を添えて呼びかけます。これにより、相手は「自分は1人の人間として認識されている」と感じ、承認欲求が満たされるのです。
このほかにも、「感謝の言葉」「労いの言葉」「笑顔を見せる」などがストロークに当てはまります。これを日常的に継続すること(=ストロークシャワー)により、心が離れてしまった離職寸前の社員が、再び周囲を牽引する戦力へと復帰する場合があります。
【事例:退職寸前の社員が戦力に変わるまで】
ある40代の女性社員の事例をご紹介します。彼女は仕事そのものは優秀な一方で不平不満が多く、周囲も腫れ物に触るように接している状態でした。本人も「もう辞めたい」と口にし、最低限の業務しかこなさなくなり、まさに退職寸前という状況だったのです。
そこで対話を試みますが、対応は極めて素っ気ないものでした。
「仕事をしていて、何か課題はない?」
「別にありません」
「職場で気になっていること、あるんじゃないの?」
「何で話す必要なんかあるんですか?」
それでも、毎日意識的に名前を呼んで挨拶を行い、些細なことでも感謝の言葉を伝え続けました。また、意識的に笑顔で接するよう心掛けました。

画像提供:PIXTA
すると3ヶ月後、彼女の態度に大きな変化が現れました。
自発的に、「こうやるといいかなと思うんですが...」「私でも手伝えることはありますか?」といった前向きな言葉が出てくるようになったのです。
そして最終的には、「会社を見返してやるつもりで頑張ります」とポジティブな姿勢を取り戻し、周囲を驚かせるほどの戦力へと変貌を遂げました。
人間には「返報性の法則」、すなわち「他者から与えられたものを返したくなる」という心理傾向が備わっています。ストロークを積み重ねることで、「この人は自分の味方だ」と相手に信頼感を持ってもらえるようになり、その想いに報いようと、協力的な姿勢を示してくれたのでしょう。
▼ 記事の後半では、こちらについて紹介しています。
☑ 魔法の言葉②「ペップトーク」のビジネスへの活用法
☑ やる気を削ぐ「Dワード」などのNGなコミュニケーション
☑ 職場を劇的に改善する「引き算」のアプローチ
魔法の言葉②「勝つことを考えよう」(ペップトーク)
「勝つことを考えよう」――これは2023年のWBC決勝戦において、大谷翔平選手がチームメイトへ残した有名なペップトークです。
まず、スピーチの全文をご紹介します。(SHOHEI OHTANI CHANNEL より)
僕から一個だけ。憧れるのをやめましょう。ファーストにゴールド・シュミットがいたりとか、センター見たらマイク・トラウトがいるし、外野にムーキー・ベッツがいたりとか、野球やっていれば誰しもが聞いたことあるような選手たちがいると思うんですけど。今日一日だけは、やっぱ憧れてしまったらね、超えられないんでね。僕らは今日超えるために、トップになるために来たんで、今日一日だけは、彼らへの憧れを捨てて、勝つことだけを考えていきましょう。さあ、行こう。
日本を勝利に導いた32秒の「構造」
この32秒のメッセージを慎重に読み解くと、人のやる気を最大限に引き出すための「構造」が隠されていることが分かります。
このスピーチは、主に3つのパートで構成されています。
- 事実の受け入れ(受容)
「ファーストにゴールド・シュミットがいたり…」と、対戦相手がスター軍団であるという不安や緊張を伴う現実を、まずはそのまま受け入れました。 - 捉え方の変換(承認・変換)
「憧れるのをやめましょう」と呼びかけ、相手の強さに気後れするのではなく「憧れを超えていくのだ」と意識の転換を促しました。 - して欲しいこと(行動喚起)
ここでの決定的なポイントは、「勝ちに行きましょう」とは言わなかった点です。相手が存在する以上、勝敗という結果自体を自分たちだけでコントロールすることはできません。しかし、勝利を「目指して思案する行動」であれば、自分自身の意思でコントロールが可能です。
日本が強豪アメリカ代表を打ち破るほどの強い波及効果を秘めた言葉の裏には、このような緻密な論理構造が存在していたのです。
ビジネスへの応用:禁止ではなく肯定で
このペップトークの思考法や構成は、ビジネスの現場においても極めて有効に機能します。
「ミスをするな」「緊張するな」といった否定命令形の言葉は、受け手の脳内にミスや失敗のイメージをかえって強く定着させてしまいます。
そうではなく、「繊細さが求められる仕事だからこそ、順番通りに作業を進めていこう」「大事なプレゼンだね、気合が入っているね」と、やってほしい望ましい行動を肯定的な表現で伝えます。これが脳にポジティブなイメージを描かせ、結果として自身の仕事に対する愛着や責任感を強める効果を生み出します。

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そもそも、日本人は古来より言葉の持つ目に見えない影響力を理解していました。「言霊」「忌み言葉」という概念が存在しており、受験生が「滑る」「落ちる」といった言葉を避け、結婚式において「失う」「別れる」「切れる」といった言葉を避ける文化が定着しています。
現代の心理学においても、この「言霊」の考え方が科学的に正当性を持つことが解明されつつあります。1966年にアメリカの心理学者ジャック・ブレームによって、人間が自身の行動や選択の自由を制限されたと感じた際、その自由を回復しようと強い反発が生じる「心理的リアクタンス」が提唱されました。これが後に、禁止されるほど関心が高まる「カリギュラ効果」の背景理論として知られるようになります。
まずは「引き算」から始めよう
挨拶、笑顔、ポジティブな言葉がけ――ここまで解説してきた「ストローク」や「ペップトーク」は、まるで小学校の学級目標かと思われるほど、その本質はシンプルです。
しかし、実践する上で最も高い障壁となるのが「いかに日々の行動に移すか」という点です。
「急に名前を呼び始めて、何か不気味だ」
「裏に何か特別な魂胆があるのではないか」
「社長の様子がおかしくなったのかもしれない」
周囲からそのように不審がられてしまう懸念もあるでしょう。
確かに、前触れもなく過剰に褒めちぎったり、急激に距離を縮めようとしてプライベートな領域へ不用意に踏み込んだりすれば、社員は警戒感を強めます。これではコミュニケーションが空回りし、かえって離職率を高める裏目に出てしまいかねません。
そのため、まずは「日頃の悪い習慣を止める」という、引き算のアプローチから着手するのが最も自然で効果的です。
NG① やる気を削ぐ「Dワード」

画像:生成AI
「悪い習慣」の中でも、特によく陥りがちな失敗が「Dワード」の発話です。
「でも」「だって」「どうせ」――これらは英字表記にした際の頭文字がすべて「D」であることから、Dワードと称されています。
部下が意を決して相談や提案に訪れた際、「でも、それには膨大なコストがかかる」「だって、それを実施したところで売上には繋がらないだろう」「どうせ交渉したところで通るはずがない」といったDワードで即座に返答してはいないでしょうか。
これらの否定語を連発されると、社員は「何を発言しても意味がない」と学習してしまい、次第に意見を発することを諦めてしまいます。
まずは相手の言葉をそのまま受け止める姿勢が不可欠です。「そうなんだね」「素晴らしい視点だね」といった、受容を示す「S言葉」から会話を開始してみましょう。これだけで会話全体の質が大きく向上します。
NG② 悪気のない爆弾発言「アンコンシャス・バイアス」
次に注意を払うべきなのが、「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見・思い込み)」です。これは本人に悪意がないケースが大半であるため、指摘を受けない限り自覚しにくいという特徴があります。
「女性ならではの細やかな配慮だね」
「若手なのにしっかりしているね」
「名門大学の出身だけあって優秀だね」
これらを発した本人は、純粋な褒め言葉のつもりで口にしているかもしれません。

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しかし受け手にとっては、「女性に対する固定観念的な役割押し付け」「若年層に対する偏った先入観」「人物像を学歴のみで評価している」といった不快なメッセージとして受容されるおそれがあります。
特に「他者や属性との比較」を持ち出すと、アンコンシャス・バイアスが混入しやすくなります。先ほどの例においても、「女性」という属性表現を用いず「細やかな気配りだね」とだけ称賛すれば、少なくとも性別の観点で相手に不快感を与えるリスクは回避できます。
良かれと思ったサービス精神や、場の雰囲気を和ませようと放ったジョークが、結果として他者を深く傷つけるケースも珍しくありません。例えばかつての総理大臣である森喜朗氏が発した「日本は神の国」という発言も、本人は善意から述べた意図があったのかもしれませんが、現在では歴史的な「失言」として記録されています。
アンコンシャス・バイアスは、「自分が発言したい」という自己中心的な欲求が先行する場面で発生しやすくなります。相手にとって真に最適な言葉を選択して伝えられるよう、日頃から意識を研ぎ澄ませることが求められます。
NG③ コミュニケーションとは名ばかりの説教
最後に注意すべきは、双方向のコミュニケーションが一方的な「説教」と化してしまう事態です。
この場合、相手に威圧感を与える「悪い あいうえお」を抑制するだけで、相手に与える印象は劇的に改善していきます。
【悪い あいうえお】
- あ:足を組む
- い:いい加減な態度をとる
- う:腕を組む
- え:偉そうな態度をとる
- お:相手を追い詰める
その上で、以下の「良い あいうえお」を真摯に実践していきましょう。
【良い あいうえお】
- あ:相手の目をしっかり見る
- い:良い姿勢を維持する
- う:深くうなずく
- え:笑顔で傾聴する
- お:オウム返しで内容を確認する
変わろうとする「姿勢」こそが最強の施策
それでもなお、「急に行動パターンを変えるのは気恥ずかしい」と感じるのであれば、いっそのこと自身のスタンスを周囲へ「宣言」してしまうのも有効な手段です。
「これまでの接し方を省み、誰もがより働きやすい職場環境を構築するため、私自身のコミュニケーション方法を改めることにした」――そう正直な想いを吐露するのです。
社員が注視しているのは、コミュニケーションテクニックの完成度ではありません。会社や経営者が、自分たちの働きやすさのために本気で変わろうと努力してくれているかという「真摯な姿勢」そのものです。
その真摯な姿勢が相手に伝わった時、社員は「この職場でもう少し挑戦してみよう」「期待を持ってついていこう」と心を開いてくれるはずです。
コミュニケーション方法の改善には、財務的なコストは一切発生しません。まずは実行可能な取り組みから、ぜひ社内で実践していきましょう。
