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後継者育成のリアル――“我が子を”その気にさせるアプローチとは

2026.09.07
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後継者育成のリアル――“我が子を”その気にさせるアプローチとは
「わが子は会社を継いでくれるのか」——。 本記事では、数々の事業承継を支援してきたベテランコンサルタントに話を聞き、子どもを後継者に育てるための“リアルな帝王学”を事例を交えて解説。若い頃から次期社長としてのマインドを自然に育み、わが子を「その気」にさせるためのアプローチをお届けします。

執筆:社長online編集部 平田賢司

INDEX

子どもは継ぎたい? 継ぎたくない?

将来の我が子への事業承継を視野に入れつつも、「うちの子にその気はあるのだろうか」と早い段階から気をもむ経営者は少なくありません。

しかし、数々の事業承継に立ち会ってきたコンサルタントの経験や、さまざまなデータを見ても、子どもは口には出さずとも、幼少期から親の背中を見て育ち、家業に対して潜在的に愛着を抱いていることが意外なほど多いものです。

それでも、いざ進路を選択する段階になって「継ぐ」という道を自ら選ぶかは別問題です。特に優秀な子どもほど、会社の将来性や自分の人生を懸ける価値があるかを冷静に見極めています。また、「自分と同じ苦労をさせたくない」という親側の遠慮が、無意識に子どもの関心を遠ざけているケースもあります。

だからこそ、入社のタイミングで慌てて口説くのではなく、若い頃から子どもの関心を引き出し、次期社長としてのマインドを自然に育む“仕掛け”が必要になります。子どもの入社意欲を育てるために、親として何ができるのか。実際の工夫やアプローチを見ていきましょう。

入社前に育む、経営者への心の準備

後継者育成の具体的なアプローチを考えるうえで、まず何よりも大切なのが、次期社長としての「土台」となるマインドをどう育むかという問題です。

「入社してから徐々に自覚を持たせればいい」と考えがちですが、心の準備が整わないまま組織に入ると、周囲の社員とのギャップに苦しむケースは少なくありません。経営に対する本気度があいまいなままでは、どれだけ熱心に実務を教えても、当事者としての吸収力に大きな差が出てしまいます。

本気で家業を背負おうとしているかどうかは、日頃のちょっとした会話や姿勢から自ずと見えてくるものです。逆に、どこか他人事のような甘さが残っている状態であれば、それはまだマインドという土台が育っていないサインと言えます。

入社してから慌てて「将来社長となる自覚を持て」と迫るのではなく、若い頃からの対話を通じて、少しずつ経営に対する本気度の土台を作っていくこと。これこそが、最初のステップとして非常に重要です。

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▼ 記事の後半では、こちらについて紹介しています。

☑ 【事例】継ぐ気のなかった我が子をどう導くか
☑ グループ会社で経営経験を積ませる
☑ 後継者育成は何より現社長のビジョンが不可欠

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【事例①】継ぐ気のなかった我が子をどう導くか

ここからは、入社前の若い時期から段階を経て、後継者としてのマインドを育むことに成功した具体的な事例をご紹介します。

年商3億円の北海道のとある企業は、当時プレハブの事務所でした。優秀な息子は難関国立大の理系に進学し「将来は研究者になる」と決めており、親自身も「苦労の多い家業を継いでくれるはずがない」と半ば諦めていました。

しかしその後、会社の業績は右肩上がりに成長します。親が仕事に誇りを取り戻す姿を見せつつ、父親は「本音は継いでほしいが、無理だよな」と葛藤をこぼすこともありました。そこで数年をかけ、息子が自らの意思で家業に向き合えるよう、少しずつ以下のようなアプローチを重ねていったのです。

業界の魅力を肌で感じる「体験」の提供

はじめに、大学生になった息子をメーカー主催の代理店向け海外視察ツアーに参加させました。あえて親は同行せず、息子と年齢の近い先輩社員と共に参加させ、父親が生きるビジネスの世界の魅力を体感してもらいました。ワクワクする体験を通じ、業界への「関心の種」を植え付けました。

ニューヨーク視察の道中で「未来」を語り合う

次の機会として、経営者向けのニューヨーク視察に親子2人で参加。約1週間、寝食を共にしながらビジネスの未来を語り合う時間を持ちました。非日常の環境に身を置くことでお互いの照れをなくし、会社の将来の可能性を本音で語り合う貴重な機会となりました。

他社の成功企業を見せ、視野を広げる

大学卒業後、息子は大手自動車メーカーに就職しました。そこで親は長期休暇を利用し、同じメーカーの看板で圧倒的な成功を収める他県の同業他社への2日間の見学を手配しました。「やり方次第でここまでスケールの大きなビジネスができる」と本人の目で確かめさせ、視野を広げさせたのです。

2泊3日の合宿で、自社の「存在意義」を明文化する

親子で2泊3日の「経営者合宿」にも参加しました。コンサルタントと共に会社の未来を考え、自社のミッションとビジョンを父子で明文化しました。数字やロジックではなく「自社が社会に存在する意味」を共に紡ぎ出したことで、息子の中に「自分がこの会社に入る意味が見つかった」と深い納得感が生まれたのです。

それから1年後、息子は勤務先から昇進コースである「海外展開メンバー」の打診を受けます。「大手で海外へ行くか、家業に帰るか」。キャリアの岐路に立たされたとき、彼は海外赴任を断り、父親の会社へ戻る道を選びました。

親が強制するのではなく、息子の視野が広がる機会をつくり、少しずつ「自分が将来経営者になる」という意識を育んでいったのです。入社後は現場に溶け込みながら、次期社長としての道を一歩ずつ歩んでいます。

【事例②】グループ会社で経営経験を積ませる

次に紹介するのは、年商150億円規模に成長した自動車販売グループの事例です。こちらは、すでに家業を継ぐ意思を持っていた後継者を「入社前後の期間でいかに経営者として鍛え上げるか」という育成フェーズのモデルケースです。

早くからの接点と、外部での武者修行

この会社の創業社長は強いリーダーシップの持ち主で、「人の教育にはしっかりとお金をかける」という明確な方針を持っていました。息子は小学生時代から猛勉強して関西の有名私立の中高一貫校へ進学。高校時代には自社でアルバイトをさせるなど、親の背中を見せながら早くから家業との接点を持たせて育てました。

大学卒業後、息子はすぐには家業に入らず、大手経営コンサルティング会社に就職します。そこで5年間、リーダー職を務めるまでしっかりとビジネスの基礎とノウハウを叩き込み、27〜28歳という若さで家業へ戻る決断をしました。

大組織へいきなり合流させないという選択

しかし、いざ自社へ戻るとなった際、ひとつの課題がありました。当時の本社はすでに年商150億円、従業員約300人を抱える大組織です。そこに20代後半の息子がいきなり入って、うまく機能するでしょうか。いきなり役員として配置しても、現場で会社を支えてきた社員も本人もやりづらさを感じてしまいます。かといって、一店舗の店長や管理部門の一担当者からスタートさせては、経営者としての視座がなかなか育ちません。

10分の1サイズの別会社で「経営のリアル」を積む

そこで創業社長が取った戦略が、「ワンサイズ小さいグループ会社で経営経験を積ませる」というものでした。自社の約10分の1にあたる年商20億円規模の会社をM&A(買収)し、息子をその会社の役員として送り込んだのです。

いきなり150億円の大組織のトップに立つのではなく、まずは全体が見渡せる20億円規模の会社で、自らの意思決定で組織を動かす経験を積む。この1〜2年間の実践的な「経営の助走期間」が、後継者としての基礎力を大きく引き上げました。

その後、十分に経営者としての感覚を掴んだうえで本社へ合流。本社においても最初はデジタル領域の整備など、これからの時代に不可欠な専門部署から入り、自らの実績を作りながら徐々に会社全体を統括する立場へとスムーズに移行していったのです。

後継者育成は何より現社長のビジョンが不可欠

後継者育成において、最初から最後まで計画通りに進むことはほぼありません。

期待をかけたアプローチにそっぽを向かれる、価値観の違いから親子で激しく衝突する——。感情が深く絡む親族内承継では、予期せぬ壁に何度もぶつかります。試行錯誤を繰り返しながら、最終的にバトンを繋いでいく。承継に成功している企業は、例外なくこの泥臭いプロセスを経ています。

その過程で、心が折れそうになった親子の支えになるのが、現社長が掲げる「ビジョンや夢」です。

「この会社でどんな未来を創りたいのか」という根底の想いを現社長が示し、共有しているからこそ、何度つまずいても再び同じ方向を向くことができます。逆に言えば、ビジョンのないテクニックだけの承継は、最初の挫折で簡単に折れてしまう危険性が高いと言えます。

わが子が自ら進んで後継者の道を歩むまでには、時間がかかります。だからこそ、若い頃から対話を重ね、会社の存在意義を共有していく「土台作り」にこそ、事業承継のリアルな第一歩があるのです。

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