原点は、大阪のキャバクラ。『顧客志向』が新規事業を生み会社を育てる
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2026.10.10
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- ロープでの外壁修繕を得意とする、ビルメンテナンス企業・株式会社ギアミクス(大阪府東大阪市)。矢部明良社長が掲げるのは、「当社に作業員はいらない、全員がサービスマンであれ」という独自の哲学です。顧客に実利をもたらした、キャバクラ仕込みの「顧客志向」。その神髄に迫ります。
解説:株式会社ギアミクス 矢部明良社長
INDEX
株式会社ギアミクス 代表取締役 矢部明良(やべ・あきら)氏
1984年1月生まれ。奈良県立高田高校を卒業後、大阪芸術大学に進学。キャバクラでアルバイトを始め、20歳で店長を任される。その後不動産営業などを経て、2016年12月に株式会社ギアミクスを設立。2025年大阪・関西万博では、パナソニックパビリオンなどの外装・膜設置施工を手掛けた。
「ありがとう」と言われなければ敗北
矢部明良社長の経歴は異色です。大学進学後の19歳のとき、「20代は自分自身を鍛える。悩んだら苦しいほうを選ぶ」と決意し、キャバクラでのアルバイトを始めました。そこで頭角を現し、20歳で店長に抜擢されます。
20代の多くをキャバクラ店員として務めた矢部氏にとって、サービスの基本はいかにして価格以上の価値を提供し、どれほど顧客に喜んでもらえるかです。
その原点となったのは、周囲に田畑が広がる厳しい立地のキャバクラ店の運営を任されていたときのことでした。
立地が良くなくとも、客単価1万2000円に納得してもらいたい。そう考えた矢部氏は、スタッフにホテル並みのサービスを徹底させました。
「毎日の朝礼でスタッフに『いかにしてお客さまに喜んでいただけるかを考えなさい』と口を酸っぱくして伝えていました。お客さまから『ありがとう』と言っていただいて初めて、お支払いいただいた代金を上回る価値を提供できたことになります。『ありがとう』と言っていただけなかった時点で、私たちの敗北です」
結果として、2年で月商を3倍に成長させました。その後、数社での修業を経て、2016年にギアミクスを設立し独立しています。
「喜ばせたい」という思いが事業をつくる
同社が「ありがとう」を集めるためにやっていること。それは顧客が支払うコストを大幅にカットすることです。
①年間1億円のコストを3000万円に減らした「カビ除去」

画像提供:ギアミクス
同社が最初に手掛けたビジネスは、スーパーマーケット等の天井に発生するカビの除去と防カビ施工です。
当時、蛍光灯からLEDに照明が入れ替わったことで、天井に熱や紫外線が当たらなくなり、カビが出やすくなっていました。
従来のカビ除去は、天井ボードの張り替えなどで1000万円超の費用がかかるケースが一般的でした。これを特殊な洗浄剤による除去に切り替えることで、費用を大幅に抑えています。実際に関西を拠点とする大手スーパーでは、年間約1億円かかっていたカビ対策費を3000万円にまで削減し、7000万円のコストカットを実現できたといいます。
▼ 記事の後半では、こちらについて紹介しています。
☑ 足場の設営撤去コストをゼロにする「ロープアクセス」
☑ サービス精神の「おせっかい」が信頼と新規事業を生む
☑ 作業員は不要。「サービスマンであれ」
②足場の設営撤去コストをゼロにする「ロープアクセス」

ロープアクセスの様子(画像提供:ギアミクス)
カビ除去サービスの需要は夏場に集中するため、ギアミクスでは年間を通じて需要のある「ロープアクセス」に参入しました。専用の安全ハーネスを装着し、高価で専門的なさまざまな機器(昇降器具など)を駆使して作業を行います。
ロープを使った窓ガラスの清掃業者はよく見られますが、ビルの外壁補修や雨漏りの調査・修繕、塗装、シールの打ち替えといった、本格的な建築工事や点検メンテナンスを行える業者は、国内にはほとんどないと矢部社長はいいます。
一般的に従来の高所作業では、現場の仮設足場設置に費用が多くかかります。ロープアクセスの場合、屋上からロープで降下して点検・補修を行うため、足場代が不要になります。
結果、2000万円規模の見積もりを200万円以下に抑えて提案できるようになりました。これが現在の同社の基幹事業になっています。
今後、マンション等の「修繕積立金が足りない」「建築資材が高騰している」という問題に対し、劣化が進みやすい方角は足場を組み、そのほかはロープで部分施工する「ハイブリッド作業」を提案することで、コストを下げる取り組みを進めていく方針です。
③高圧受電設備(キュービクル)工事

高圧受電設備(画像提供:ギアミクス)
ギアミクスでは電気工事においてもコスト削減を実現しています。中抜き構造が常態化しがちな電気工事において、同社は多重下請けを排除し、平均的な価格の半値程度での施工を提供しています。
現在では近畿圏の大手スーパーチェーンや、ビデオレンタル店、家具小売大手などと直接契約を結び、同社の経営を支える新事業へと成長しました。
サービス精神の「おせっかい」が信頼と新規事業を生む
同社の売上高は2023年の1.3億円から、2025年には2.7億円と2年で倍まで成長しています。成長の理由の1つが、「おせっかい」による信頼基盤です。
1か月前に「電話」をかける
例えば、カビ除去施工後のアフターフォローでは、保証期間が切れる前に自発的に連絡を入れます。
「期限が切れるのを黙って待つようなことはしません。あともう少しで1年経つというタイミングで『その後の状況はいかがですか?』とお伺いを立て、カビが出ているようなら無償で再施工しています」(矢部社長)
必ずする質問、「どのような方をお繋ぎしますか?」
前述した「キュービクル事業」も、実は矢部社長の純粋なおせっかいから生まれたものです。
商談の最後、矢部社長は決まって「いま、どのような方をお繋ぎしたら一番嬉しいですか?」と尋ねます。
先述の高圧受電設備工事の立ち上げは、このアクションがきっかけでした。
ある日、スーパーの担当者から「キュービクル工事が高額で困っている」と聞き、たまたま縁のあった専門家を紹介したところ、数年間塩漬けになっていた2000万円規模の案件がわずか2か月で成約。業界団体で評判を呼び、「ぜひギアミクスさんで電気工事事業をやってほしい」と逆オファーを受けることになります。
「6600ボルトの電気を扱うキュービクル工事は、万が一の停電事故が発生すれば莫大な賠償責任を伴います。素人領域で責任が重すぎるため、3回は『絶対に嫌です』とお断りしていました(笑)」
それでも熱心に懇願され、紹介した専門家を自社に迎え入れる形で、キュービクルという新たな柱が誕生したのです。
作業員は不要。「サービスマンであれ」

画像提供:ギアミクス
すべての仕事はサービス業であるというのが矢部氏の持論です。「作業員はいらない。全員がサービスマンであれ」という人材ポリシーを掲げ、指示された作業をこなすだけでなく、どうすれば顧客が喜ぶかを自ら考え、行動できる人材の育成を目指しています。
ブラックボックスだからこそ、写真を付ける
例えばロープアクセスの現場は、顧客もビル管理者も実際に見に行くことができない、業界特有の「ブラックボックス」です。多くの場合、依頼者は業者の「作業しました」という報告を信じるしかありません。
一方、ギアミクスでは高所作業の全プロセスにおいて必ず写真を撮影し、オーナーや管理組合にもわかる、写真付きの詳しい報告書を渡します。
こうした誠実さが、多くの案件を集めています。現在のロープアクセス作業は「1か月半から2か月待ち」だと言います。
これまで6名で年間300件の依頼を引き受けてきた同社。現在、ロープアクセスは9名体制。9月にはさらに1名が入社予定のため、年500件ペースで作業可能になる見込みです。

矢部明良社長(画像提供:ギアミクス)
矢部社長には建築の実務経験はありません。しかし「人に喜んでもらえるからこそ対価をいただける」というマインドセットがあります。
経営理念に「より良いモノを、より多くの人々へ」を掲げる同社。今後も「いい商品やサービスを、知らない人につなぐギアであり続けたい」(矢部社長)と、成長に意欲を見せます。
取材協力
- 会社名:株式会社ギアミクス
- 本社所在地:大阪府東大阪市高井田本通3丁目5-4
- 設立:2016年12月
- 代表取締役:矢部明良
- 従業員数:18名
- HP:https://gearmix.co.jp/
