サカゼンは「大きいサイズ」で、どう勝ったのか。会社を救う「原石事業」の見つけ方
-
2026.07.28
-
- 国内のアパレル市場が飽和し、多くのカジュアルブランドが激しい価格競争の波に揉まれるなか、関東圏を中心に独自の存在感を放ち続ける企業があります。大きいサイズのメンズ服で高い認知度を誇る、坂善商事株式会社(以下、サカゼン)です。 同社は数年前から「大きいサイズ」に経営資源を本格的に集中させることで、好調な業績を維持しています。業界内で見過ごされがちだったニッチ市場を見出し、他社の追随を許さない独自事業へと昇華させてきました。
執筆者:船井総合研究所 吉嶺菜穂
INDEX
アパレル事業を統括している坂善商事株式会社 村上進平取締役の取り組みから、成熟市場で生き残りをかける中小企業が取るべき経営戦略のヒントを探ります。
先が見えにくい市場で、光が差す場所を探す
「普通のカジュアルブランドで戦うのは、もう難しい」——こうした率直な声を、中小アパレルの経営者から耳にすることが増えました。
矢野経済研究所の調査によると、2024年の国内アパレル総小売市場規模は前年比101.7%の8兆5,010億円と推計されており、4年連続でプラス成長を維持しています。
数字だけ見れば悪くないように思えますが、この成長を牽引しているのは、インバウンド需要を取り込んだ一部の大手百貨店とECです。
ECの世界では、中国発のファストファッションブランド「SHEIN」が「ZOZOTOWN」のユーザー数を上回る存在になるなど、激安プラットフォームが急速にシェアを拡大しており、価格競争はこれ以上ないほどの激しさを見せています。
そうした環境のなかで、関東圏を中心に約30店舗を展開するアパレル企業であるサカゼンは、好調な業績を維持しています。その理由は、「大きいサイズのメンズ服」という、業界内でも規模が小さい市場へ、徹底的に経営資源を集中させたことにあります。
「大きいサイズ」は事業開始40年目にして、経営の主軸に

(画像:サカゼン2026年春夏カタログから)
サカゼンは1946年、戦後間もない下町で総合衣類卸業として創業しました。最盛期には国内に4つの工場を抱え、国内DCブランドの製造を手がけるほどの規模を誇っていましたが、バブル崩壊を機に小売業へと転換を図ります。
「大きいサイズ」との出会いは1985年、相撲力士の切実な一声でした。
「選べる洋服がどこにもない」「オシャレがしたい」
当時、彼らが着られる大きいサイズの洋服は売り場がほとんどなく、個人商店などでオーダーして作るしか服を手に入れる手段がないような状態だったといいます。
こうして始めた大きいサイズ事業ですが、取り組み当初は周囲から「うまくいかない」と反対され、社内でも長らく「ニッチなライン」として扱われていたのが実態です。数年前までは、一般カジュアルウェアやインポートブランドが売上の主力であり、大きいサイズの売上比率は全体の3割にも満たなかったといいます。
転機をもたらしたのが、創業家三代目である村上進平取締役が行った経営改革です。
SHEINをはじめとする激安ECの台頭、ユニクロや海外ファストファッションとの消耗戦――。これからの時代、普通サイズのカジュアルブランドで挑んでも、疲弊することは目に見えています。そこで村上取締役は、2021年以降、サカゼンが長年かけて育ててきた「大きいサイズ」というブランドへ、資本・人材・プロモーションを一点集中させる決断を下していきました。
「2,000億円の隙間」に潜む可能性
アパレル小売市場全体のうち、サカゼンが注力するLLサイズ以上の「大きいメンズ服」の市場規模は、約2,000億〜3,000億円と推定されており、アパレル市場全体の3%以下とされています。
大手企業がわざわざ本腰を入れるには小さい市場ですが、そこに独占的に根を張ることができれば、中小企業の事業として十分に成立します――。この「絶妙な市場規模」を支えているのが、需要側の構造的な安定性です。
厚生労働省の令和6年版「国民健康・栄養調査結果の概要」によると、20歳以上の男性の肥満者(BMI25以上)の割合は32.4%に上ります。
つまり約3人に1人の男性が、標準サイズでは選択肢を満足に得られない可能性があるということです。それだけでなく、筋トレやスポーツ競技によって体格が大きくなったアスリート体型の需要も潜在的に存在します。

(出典:厚生労働省「国民健康・栄養調査結果の概要」/令和6年)
加えて重要なのは、大手企業が市場に参入しにくい構造的な理由があることです。
大きいサイズの洋服は、生地だけをとっても標準サイズの倍以上の量が必要で、製造ラインも標準サイズとは異なるため、製造コストが高くなります。また、サイズ展開も細かく、例えば2L~10Lまで作ると1つの商品だけで9サイズ作る必要があるといった特殊要件が多いことから、大企業の持つ効率的な製造工程や在庫管理方法では、割に合わないと判断されます。
この「大手が本気にならない市場」こそが、中小企業にとっての商機になり得ます。村上取締役は、「中小企業だからこそ、経営リスクを徹底して考えるべき」と話します。
村上取締役「我々が『大きいサイズ』に注力しているのは、経営リスクを本気で考えているからです。市場規模だけで見ると、この市場は参入メリットが薄いと大手企業は考えるはずです。そんな中、当社が本気でお客様に向き合っていけば、愛用してくれるお客様も増えますし、ノウハウも溜まっていきます。そこに活路を見出しているのです」
「選択と集中」が生んだ3つの変革
「大きいサイズ」へと経営資源を集中させるために、村上取締役が断行した改革は、次の3つです。
①商品構成の刷新——不採算ラインの撤退と、競合過多ブランドの縮小
かつての売上の柱だった一般カジュアルウェア事業を縮小し、「大きいメンズ服」に経営資源を集中させていきました。
収益の幅を意図的に狭めることで、「大きいサイズに全力を投じる」という会社からのメッセージを明確にし、他社には真似できないレベルにまで事業を深化させるよう、社内に伝えていきました。
②組織風土の転換
村上取締役がサカゼンに入社した当時、社内にはトップダウン型の企業文化が強く根付いていました。入社直前までアメリカに2年間留学していた村上取締役は、そこに価値観のギャップを感じたと言います。
村上取締役「会社に入ってみると、皆、上から言われた事を愚直に実行していましたが、現場に伸び伸びとした雰囲気はなく、革新的なアイデアや新しいチャレンジは生まれないように見えました。現場の『閉塞感』に危機意識を持ちました」
そこで村上取締役は、PMVV(理念・ミッション・ビジョン・バリュー)を策定しました。「全ての人に楽しさと幸せを」という、あえて当時の社風とは真逆のミッションを掲げたのです。また、村上取締役は積極的に現場に出て、社員とのコミュニケーションを図っていきました。
すべての商品の発注に村上取締役が目を通し、以前にもあるようなデザインであれば、新しいチャレンジをするように提言しました。これを続けることで、徐々に現場からは新しい発想が出てくるようになってきたと言います。
また、組織に新しい風を取り込むために、数年間休止していた新卒採用を再開し、新しい人事評価制度も導入しました。コミュニケーションと仕組みの両輪から、組織風土を改革していきました。
③キャッシュフロー経営への転換
村上取締役が行った改革の中で、最も現場の反発を招いたのが「在庫の半減」という経営判断でした。かつては品揃えの豊かさを維持するために大量の在庫を抱えていましたが、その在庫を半分近くにまで圧縮することを決断しました。「シーズン中に一定割合を必ず現金化し、翌年は新しい商品を提案する」というルールを設けたのです。
その結果、リピーターに常に新しい商品が提案できるようになり、キャッシュフローも改善しました。在庫管理方法も洗練されていき、顧客の「選べる楽しさ」を維持しながらの効率化を実現していきました。
ニッチ市場の「輝く原石」を見出す5つのポイント

(画像:PIXTA)
サカゼンが「大きいサイズ」に出会ったのは、偶然訪ねてきた力士の一言からですが、根気よく続けてきたことに大きな意味があります。
サカゼンの事例が示唆するのは、業界の常識に照らしたとき「市場規模が小さすぎる」「手間がかかりすぎる」と敬遠されてきた領域にこそ、中小企業が掘り起こすべき原石が眠っている可能性があるということです。
では、こうした「原石」となりえる市場には、どんな特徴があるのでしょうか?
【チェックリスト】原石事業がもつ5つの特徴
-
1. 特定の顧客層における切実な「不満」がある
強い不満は、強い需要の裏返しでもあります。「着られる服がなくて困っている」――規模は大きくなくとも、特定の顧客層から強い需要が存在する市場は、真剣に向き合うことで強力なファンを得られる可能性があります。 -
2. 大企業が参入するインセンティブの欠如
管理コストが高い、個別対応が多い、市場規模が小さい。これらは大企業にとっての「参入を見送る要因」ですが、中小企業にとっては「独占の機会」となり得ます。 -
3. 自社の既存事業との強みが合致している
強みが「ゼロから構築」ではなく「既存事業の延長」にある場合、ノウハウを応用できることが多いため、加速的に成長することも可能になります。 -
4. 安定した潜在需要の構造的な根拠がある
流行ではなく、体型という生理的・構造的な需要に支えられているため、景気循環の影響を受けにくいという特性があります。 -
5. 高いリピート率が見込める顧客構造であるか
サカゼンのリピート率は約6割に上ります。LTV(顧客生涯価値)が高いビジネスモデルは、広告費を抑えながら成長できる構造にあるのも特徴です。
「日本一、大きいサイズをポジティブに肯定する会社」を目指して

(画像:サカゼン公式 80周年記念特設サイトから)
創業80周年を節目に、サカゼンは次のステージへ進もうとしています。
プロレスラーやお笑い芸人、そしてタレントの石塚英彦氏をブランドアイコンに迎えたプロモーションは、「大きいサイズ=恥ずかしい」という価値観を払拭し、「体型に関係なく、服選びは楽しい体験である」というメッセージを打ち出す試みでもあります。
村上取締役が描く次の地平は、「大きいサイズ」だけにとどまりません。高身長・低身長、そのほか体型に関わる悩みを抱えるすべての人が「選ぶ楽しさ」を実感できる場所をつくること、そして国内市場の枠を超えた海外展開も視野に入れているといいます。
ニッチ市場の利点は、一度「その道の第一人者」という地位を確立できれば、競合がそこに追いつくのに相当な時間とコストがかかるという点にあります。サカゼンが1985年から約40年かけて積み上げてきた製造ノウハウ、接客文化、顧客との信頼関係は、後発企業が資本力だけでは補えません。
「大きな市場で埋もれるより、小さな市場で輝く」ことは、中小企業の経営者にとって現実的な生存戦略となります。実はこれまでの経験のなかに、こうした事業の原石とすでに出会っているかもしれません。
<取材協力>
坂善商事株式会社
代表者:村上 隆司
所在地:東京都中央区日本橋馬喰町1丁目6番10号
創業:1946年
事業内容:アパレル事業、不動産事業など
