「AI疲れ」増加中? 経営者が知るべきストレスとの付き合い方を産業医に聞く
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2026.10.29
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- 「AI導入後に確認作業が増えて疲れやすくなった」「便利になったはずなのに、なぜか疲れが取れない」…。これを巷では「AI疲れ」と呼んでいますが、実はその正体は1980年代から続く「テクノストレス」の延長線上にあります。今回は、産業医であり、大企業から中小・スタートアップまで約50社に産業保健サービスを提供している株式会社oneself.の小橋正樹社長(以下、小橋氏)に、AI疲れの正体と、テクノストレスの対処法をお聞きしました。
解説:株式会社oneself. 小橋正樹社長
(こばし・まさき)1985年岡山県生まれ。2010年、産業医科大学医学部を卒業後、九州の救急病院での診療経験を積む。2013年、産業医活動を開始。スタートアップからグローバル企業まで、組織の健康管理に伴走。2015年から拠点を東京に移し、2019年、株式会社oneself.を設立。2023年からチーム型の産業保健サービスを提供する。
INDEX

画像提供:株式会社oneself.
「AI疲れ」が増えている
2026年に入り、「AI疲れ」というワードが頻繁に検索されるようになりました。Googleトレンドによると2022年~2023年ごろから徐々に検索されるようになり、2026年6月にピークを迎えています。マスコミでもAI疲れが話題にのぼるようになりました。

画像:Googleトレンドにおける「AI疲れ」の検索ボリューム推移(2022年1月~2026年9月)
AI疲れは医学的な診断名ではなく、トレンドワードの一種です。ただ、巷では「AI疲れ」について、AI利用により生じる精神的・認知的な疲労状態を指すことが多いようです。
例えば次のような状況で疲れたり、ストレスを感じたりすることがあれば、AI疲れと言えるのかもしれません。
経営者・管理職としてのストレス要因
- 次々と登場するAIツールからどれを選ぶべきかという選択を迫られる
- AIで出力した膨大な情報を読み込み、意思決定するなかで頭の処理が追いつかなくなる
一般社員としてのストレス要因
- 職場で不慣れなAIの活用を求められる
- 優秀なAIに「仕事が奪われるのでは」と不安を感じる
AI疲れは「テクノストレス」の最新版
AI疲れがまったく未知の現象かと言えば、実はそうでもありません。
新しいテクノロジーによって心身に不調が生じる現象は、1980年代から「テクノストレス」として研究されてきました。技術は数年単位で入れ替わりますが、人間の脳や体の仕組みはこの数十年ほとんど変わっていません。そのため、新しい技術に心身の適応が追いつかないことがあるのです。
例えば、パソコンが普及し始めたころの「VDT症候群」、スマホの長時間使用による「ストレートネック」などが挙げられます。
いわゆるAI疲れも、大量の情報を処理するという、人類史上例のない環境に身を置いているがゆえの「テクノストレス」です。
小橋氏は、
「オフィスにコンピューターが入ってきた1980年代、メールとインターネットの1990年代、携帯電話とブロードバンドの2000年代、スマートフォンとクラウドの2010年代、オンライン会議の2020年代、そしていまのAI。これは地続きの問題なんです」
と指摘します。AI疲れはテクノストレスの最新版であると言えそうです。
▼ 記事の後半では、こちらについて紹介しています。
☑ 経営者が陥りがちなAI疲れとは
☑ 「休み方」を仕組み化する
☑ AI時代の「頼れる人」はこんな人
「不適応」と「過剰適応」
「テクノストレス」を唱えた米国の臨床心理学者クレイグ・ブロードによれば、テクノストレスは主に2つの型に分類されます。1つは技術についていけない「テクノ不安症(不適応)」、もう1つは技術にのめり込みすぎる「テクノ依存症(過剰適応)」です。
小橋氏によると、AI活用の文脈で経営者に目立つのは過剰適応だといいます。AIを使いすぎた結果として「判断」の回数が増え、頭が疲れやすくなるのです。

最大の対策は健康の「基礎」を押さえること
こうしたテクノストレスの対策として何をすればよいのでしょうか?
「前提として、特に体調を崩しておらず、健康に過ごせているのであれば、意識しすぎる必要はありません」(小橋氏)。
仕事も生活も問題なく回っており、睡眠・食事・運動や精神的な安定が保たれている範囲内であれば、そこまでAIの使用や情報量について気に病む必要はないでしょう。
問題なのは、よく眠れない、食欲がない(逆に食べすぎる)、イライラするなど調子が悪くなってきたときに、自分の状態に気づかないまま回復が遅れ、結果として健康を害してしまうことです。目安として、こうした状態が1〜2週間以上続く場合は、産業医やかかりつけ医に早めに相談しましょう。
人間の体には、体内の状態を一定に保とうとする「ホメオスタシス(恒常性)」という仕組みがあり、多少の疲れなら睡眠や休息で自然に回復します。しかし、睡眠・食事・休息といった体を保つための前提条件が崩れると回復できなくなり、不調につながってしまうのです。したがって、AI疲れに対応する第一歩は、下記のような当たり前で忘れがちな日常生活の基礎を見直すことです。
- 睡眠の確保
- バランスのよい食事
- 運動習慣
- 余暇の時間
- 人とのつながり
特に、AI疲れにおいては、意識的に休みを作ることが重要です。次の章で詳しく紹介します。
AI時代だからこそ休息を仕組みに

画像提供:PIXTA
AI疲れの大きな要因は、大量の情報を処理し、AIの出力を確認・判断し続けることにあります。そこで特に意識したい対策が、休む仕組みを作ることです。
社長個人でできる対策
仕事と家の往復だけでは、どうしても仕事のことが頭から離れません。意識してPCの電源を切る、映画館の暗い室内で作品を楽しむ、ただ山や海を眺める、趣味に没頭するといった行動を取り、意識的に脳を休める時間を作りましょう。
また、厚生労働省の「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」でも推奨されているとおり、働き方にも工夫が必要です。同ガイドラインでは、連続作業が1時間を超えないようにし、次の作業までに10〜15分の作業休止時間を設けること、さらに連続作業の途中でも1〜2回程度の小休止を取ることが示されています。
組織で設計すべき「つながらない時間」
組織としてのルール設計も重要になります。例えば、
- 22時から翌5時の深夜帯は社員間で仕事のメッセージを送らない
- 夜間にメールを送る場合、翌朝以降の送信予約にする
- 勤務時間外は通知オフに自動で切り替わるよう設定する
など、意図的に休める環境を整え、社員がAI疲れを起こさないようにすることが求められます。
(余談ですが、船井総研の業務用PCは22時から5時まで強制的にロックがかかる設定になっています)。
人間の限界を超えないよう、体の調子を整えてキャパシティを保つことが、AI疲れの対策になるのです。
AI以外の相談相手を持つことも重要
AIは知識や情報を大量に提示しますが、安心感や信頼感まで担保してくれません。経営者にとっては、AIになんでも相談するのではなく、信頼できる人と情報をシェアして、判断の負荷を分散させることも重要です。
頼れるのは「全体感が見えている人」
AIは断片的な知識を提示できても、前提となる捉え方や全体感を補ってくれるとは限りません。「健康にバナナはよいか」とAIに聞くと、「バナナは非常に健康効果が高い果物です。なぜなら〜」と詳しく解説してくれます。ただ、AIは質問の前提に沿って答えやすく、「そもそもバナナさえ食べれば健康になれるのか」「睡眠や運動とのバランスはどうか」といった前提そのものを問い直してくれるとは限りません。

画像:生成AI
チームや専門家など「信頼できる人」に相談して情報や責任を分散させることが、脳のキャパシティを守るうえで重要となります。
「正論だけならAIで十分かもしれませんが、全体感が見えており、寄り添ってくれる存在がいるだけで、決める側は気が楽になります」(小橋氏)。
人とのつながりを大切に
AIとの対話が増えるほど、人との直接的なつながりは希薄になりがちです。
孤独は健康に悪影響を及ぼすことが知られています。
「仕事しかコミュニティがないと、仕事のストレスに押しつぶされやすい。地域でも趣味でも昔からの友人でもいいので、複数のコミュニティを持っておくと、仕事の悩みが相対的に軽減されます」(小橋氏)。

AI任せにしないコミュニケーション
最後に、組織の中においても、AIとしか相談できない環境が生まれていないかどうか点検すべきでしょう。
部下から相談を受けた際、「それはAIに聞けばいいじゃないか」と突き放してしまうと、心理的安全性や信頼関係を損なう恐れがあります。
「AIに聞け」とコミュニケーションを拒絶するのではなく、「じゃあ、一緒に考えてみよう、AIにも聞いてみよう」と、人同士の対話を歓迎する姿勢が、これからの組織では重要となるのではないでしょうか。
【取材協力】
法人名:株式会社oneself.
代表取締役:小橋正樹
所在地:東京都千代田区丸の内1丁目1番3号 日本生命丸の内ガーデンタワー3階
事業内容:産業保健サービス
設立日:2019年11月1日
https://oneself.co.jp/
